第13話 忘れていた感情
「みーりぇ、自分れれきりゅ」
「ハル、ちびっ子はね大人に甘えるものなの。分かった?」
ちょっと違う気もするが。小さい手ではマトモにできない事もあり、ミーレに甘える事にしたハル。もう、されるがままだ。
「うん、綺麗になったわ。じゃ、お着替えね」
ミーレがさっさとハルが着ている服を脱がしにかかる。
「みーりぇ……」
「何かしら、ハル」
「……なんれもねー」
「ふふ。はい、バンザーイ」
『自分で着替える』といいかけて、諦めたハル。またまた、されるがままに着替えさせられた。
「ねえ、ハル。その前髪はお気に入りなの?」
ハルは長い前髪が邪魔で、ピョコンと結んでいた。
「邪魔らからって、りひとがむしゅんら」
「そう。じゃあちょっと触るわね」
と、ミーレが鏡の前にハルを連れて行く……
「みーりぇ!! おりぇの髪が……!!」
「ハル、何言ってんの?」
「おりぇの髪! 目もッ!! 何この色!?」
お待たせしました。忘れるところでしたが、やっとハルが気付きました。自分の髪と瞳の色が前世とは違っている事に。
目覚めてから何日経っている事でしょう。
本当に……よく今まで気付かなかったものだ。そんなハルを放りっぱにして、ミーレがハルのピョコンと結んでいた前髪をほどいて器用に編み込みにしていく。
「うん、可愛いわ。リヒト様、いいですよ」
「おう」
リヒトは律儀にも部屋の外で待っていたらしい。
そしてまたリヒトに抱っこされるハル。
まだ起きたばかりなのに、もう既に若干疲れている。放心状態だ。
「どした?」
「おりぇの髪ちょ目がこんな色らって知りゃなかった。めちゃショックら」
「今頃かよ!」
「そりぇに……慣りぇてねーんら」
「ん? 何がだ?」
「構わりぇりゅのに慣りぇてねー」
「そうなのか?」
「ん」
「ま、直ぐに慣れるさ」
「……」
「エルフはな、長命種だと教わったな?」
「うん」
「長く生きるから、皆慌てて子供を作る必要がないんだ。だから、エルフにハルの様なちびっ子は少ない。だからな、皆構いたくて仕方ないんだ。単純に子供は可愛くて守ってやらなきゃと思っている。みんなで愛情込めて育てるんだ。甘えてりゃいいんだ。そういうもんだ。みんなそうやって育ってきたんだ。しかし、あんだけ髪と瞳の色の事を話してたのに今更かよ。アハハハ!」
本当に今更だ。まったく気付いていなかったハル。瞳はともかく、髪の色位はもっと早くに気付いていてもいい様なもんだ。
リヒト達の事は前世の迷惑で自分勝手な女子達とも母親とも違う事だけは分かる。だが、ハルは親にも構ってもらった記憶がない。
強いて言うと、亡くなった祖父母だ。小さな頃から祖父母だけは信じられた。無条件で甘えられた。そんな感情、もうとっくに忘れていたなぁ……と、ハルは思っていたのかも知れない。
リヒトに抱っこされ食堂へ入っていくと、昨日より人数が多かった。その上、皆ハルに注目している。
「ハル、ここにいるのがこのベースのメンバー全員だ。ちょっと嫌かも知れないけど、皆に顔見せしとかないとな。このベースにいれば、誰かがハルを気に掛けてくれる。ハルの安全の為だ」
突然、リヒトに言われてビックリ目をしているハル。
「おりぇ迷惑かけたくねー」
「ばか、迷惑なもんか! ちびっ子を保護するのは当たり前なんだよ! エルフはな、ヒューマンみたいに迫害したり虐待したりはしない。絶対にだ。種族に関係なくちびっ子は宝だ。みんなで可愛がって育てると言ったろ。慣れろ。こればっかりは、どうしようもないからな」
「……分かっちゃ……ありがちょ」
「おう。エルフにとっては当たり前の事なんだ。気にすんな」
ニカッと笑うリヒト。ハルの中でリヒトの好感度が確実に少し上がった。
「皆聞いてくれ。もう知ってる者もいると思うが、ハルだ。ハルの肩にいるのが聖獣でコハルだ。俺が保護する事になる。気にかけてやってくれ!」
――可愛い〜!
――ハル! よろしくなー!
――元気になったかー!?
口々に皆が声をかける。
「顔見せさえしとけば安心だ。元気になったらこのベースの中だとハルは自由に動けるぞ」
「リヒト、おりぇみんなに挨拶したい」
「おう」
リヒトが片手を上げると、皆が静かになった。
「おりぇ……はりゅ。よりょしく」
――アハハハ、緊張すんな!
――よろしく!
ハルにとっては初めての体験かも知れない。
容姿に関係なく無条件で受け入れてくれる。そもそも、エルフ族自体が美男美女揃いなので然程ハルは目立たない。
これは、容姿についてかなり拗らせているハルにとって、とても気持ちが楽な事なのかも知れない。
「ハル、よくできましたね」
ルシカだ。手にはホカホカと湯気のたった器をのせたトレイを持っている。今日は、コハルの分もある。
「りゅしか!」
「さあ、今日もたくさん食べて下さい。早く元気になりましょう。コハルもどうぞ」
「ありがちょ!」
「ピルルル!」
「今日は軽めのフレンチトーストにしました。もう食べられるでしょう?」
「うん! りゅしか、好き!」
「そうでしたか。ミルクを多めにして甘さを控えてありますから、お好みで蜂蜜をかけてくださいね。それと、ふわふわオムレツですよ。ポタージュスープもどうぞ」
見るからにふわふわでフルフルしている美味しそうなオムレツに刻んだトマトとバジルがかけてある。スープも良い匂いだ。
「うわ……マジ、超うましょう!」
「ピルルル!」
ハルもコハルもテンション爆上がりだ。食べ物には弱い。
「しっかり噛んでゆっくり食べて下さい」
「うん。りゅしか、いたらき!」
「ピルルル!」
もうすぐ3歳児の手には大きすぎるナイフとフォークで、ハルは器用にフレンチトーストを切って口に運ぶ。大きくお口をあけて、ハムッと食べた。
「んんーー! んまいー!」
「ピヨヨヨ!」
ハルとコハルは、美味しそうに夢中で食べている。
2人は気付いていないが、周りの皆が手を止めて注目していた。ハルが美味しそうに食べ始めると、何故か皆ホッとした様な顔をする。
余程気にかけていたのか、安心したのか、皆もまた食べ出した。
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