第18話 人生最悪の日… その3

その提案に二人は驚いた顔をしていたが、夏美は了承し

「私は…どうこう言える立場にないですから…」

と同居人も了承した。


電車に乗っている最中、同居人は

「私がお邪魔する立場なんだから…休日とか二人でデートとかしても構わない」

そんな余裕の言葉も言ってきた。


そして、僕たちの住まいに着いた。

同居人は暫く部屋をきょろきょろしていた。


30分位すると台所から二人の話が聞こえて来た。

「何言ってるの?

 まだここに来てから1時間も経っていないよ?

 まーくんだって我慢してるんだよ?」

「もう無理だ!!!

 だってここまでのものを作り上げちまったんだぞ!!!」


僕は台所に行き、

「どうしたの?」

と聞いた。


夏美は申し訳なさそうに

「ごめん、まーくん…

 ここに住むのは無理だって言うの…」

同居人も

「…すみません…」

と言い、そのまま荷物を持って出て行った。


夏美も

「駅まで送って来る」

と言って出て行った。


もはや僕は止める気にもなれず呆れていた。

暫くすると夏美が帰って来た。

そして夏美も当初の案を再度言い出した。


「まーくん…ごめん…

 歩きながらかっくんと話したんだけど…

 まーくんの冬休みが終わるまではここにいる。

 でも冬休みが終わったら…ここを出て行くね。

 そしてかっくんの就職活動が終わるまで支える!」


「何でそうなるのさ?

 僕は妥協案を出したんだよ?

 それを耐えきれず出て行ったのは彼だよ?

 僕だって僕らの住処に彼を入れるなんて嫌だったんだよ?」


夏美は辛そうな顔で

「…あいつが我儘なのは分かっているよ…

 でも…本当にこのままじゃ就職できないよ…」


「だからそんな事もう関係ないでしょ?

 そもそも夏美が戻った所で就職なんて出来ないんじゃない?

 ここ来ることを覚悟して来たはずなのにすぐに無理と諦めたでしょ?

 口だけなんだよ。彼…そんな口だけの人間誰が雇うの?」


「……そうかもしれないけど…でも…」


一歩も引かない夏美と僕は暫く険悪な雰囲気となった。

でも絶対に認めるわけにはいかない。

そう思いつつも、冬休みの日は無常にも過ぎていった。


ある日、冬休みにも拘らず、海外の関連会社からメールが来た。

新年早々クレーム案件だ。

仕事始めに対応する必要がある。

僕のミスではないが、僕が対応しなければならない。

夏美の件もあり僕は全てが嫌になっていた。


そんな僕の様子を夏美は気づき、

「まーくん…おいで♪」

と僕に言ってきた。

僕は険悪な関係になっている事もあり、夏美に近づかなかった。

でも、勝手に涙が出ていた。

その様子を見かねていつしかと同じように僕の頭を自分の胸に押し付けた。


「仕事で嫌な事でもあった?

 …お疲れ様…まーくんなら出来るよ!

 私が癒してあげる。抱っこしてあげるから私の上に座って!」

夏美は優しく、小さい子に諭すように僕に囁いた。

僕は…良い大人だし、年上なのに…母親に甘えるように夏美に抱っこしてもらった。

自分にこんな幼い面があるなんて自分自身初めて知った…

とても…癒された…

僕の理想の女性像だった…


いっそ嫌いになろうとも思ったが…僕にはもうそんなことは出来なかった。

夏美に癒されたい…ただひたすらそう思った…

僕は蜘蛛の糸に絡むように抜け出せなくなっていた…


冬休みが終わり出社日となった。

クレーム対応の件もあり、僕は休むわけにはいかなかった。

だから僕は夏美に最後まで言った。

「出て行くことは許さない!!!」


夏美は

「…うん…

 …行ってらっしゃい♪」

そう言って送り出した。


僕はなるべく早く仕事を終わらせ、家に帰った。

家に帰ると…夏美の姿はもうなかった。

あったのは一枚の手紙と夏美が身につけていたエプロンだけだった…


 




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