第32話 賭博で犠牲になった人生。

 快晴、勇者らがファザーに着く8年前の出来事。ファザー国内で初めて特定奴隷になった人物「マタ・ドール・ベルフェ」齢八歳にして、人生を棒に振った愚かな悪魔の女児である。


 彼女が賭博に手を染めたのは、母の治療費を稼ぐためであった。年齢的にも肉体的にも働き口はない。ファザーの賭博に関する法に、年齢制限はない。すべての人々が楽しみ、悔しみ、全運を賭けてほしい。それが国王の意見であったからだ。彼女に残された稼ぐ方法が賭博。案の定と言うべきか。彼女は国で最初の特定奴隷となった。


「お嬢ちゃん……」

 ガタイのいい店員のおじさんが、負けに負けた女児に声をかけた。


「ママのちりょうひ……」

「これは、国の法だ。許せよ。嬢ちゃん」


 その男はポーカーテーブルの席から無理やり、手を引いた。簡易的な檻に入れられて、彼女は初めての特定奴隷として、広告誌に載り国中に広まった。


「ママ……ごめんなさい……」

 母から貰った大切な人形を、抱きしめて泣いている姿を、記者達は構いませず、映し絵を描き、自身の懐が満たせる記事を書いていった。

 檻の中での生活も3日もすれば、都に思えてくる。そんな最中、1人の男が特定奴隷引き取り人として、現れた。

 「おい、ガキお前は今日から俺の所で働いてもらう」

 その男が要求してきたのは、家事全般。家政婦であり、一生懸命に仕事をこなすが、料理が不味いと皿ごと床に叩きつけ掃除をさせる。意味は分からないが、いきなりぶっ叩いたり、殴ったり酷い有様になるまで、それは続いた。それでも、彼女がそこに居られたのは、お人形があったから。辛い事も悲しい事も、その人形に話して気分を変えていた。しかし、その光景を男に見られていた。


「なんだオメェ、気持ち悪りぃガキだな。そんなもんに構う暇がありゃ仕事しろやァ‼︎」

 男はその人形を取り上げて、両腕をもぎ取って彼女に投げ捨てた。


「バルゥゥゥ!」

 人形の破片を大事に拾い集めて、何とかくっつかないか、試行錯誤したが、くっつく訳がなかった。


「チッ、うるせぇ!」

 ベルフェを蹴り上げ、何度もベルフェは謝る。

「ごめんなさい、ごめんなさい、もう、なきません……」

 特定奴隷終了規程日が、遂にやってきた。やっとママに会えると、喜んでいた。しかしながら、母はベルフェを娘と認識しない。現世でいう、認知症。


「ママァ‼︎ ただいま」

「あら。おはよう、嬢ちゃんはどうして、この家にいるのかしら、迷子かしら」


 理解ができないベルフェは、母の手を取り、頬に当てたが、母は迷子かと思い娘を、近衛兵に預けた。母に着いて行こうとしたが……止められ、近衛兵は、彼女を里子に出した。

 そして、時は8年新しい親と共に育った彼女。自由の身となって、やる事は、この国の制度とあの男を殺害する。


 「この国を、この制度を、あの男を、殺る」

 常世で、待っててね、ママ

 

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