隣家ってありえるの

「本当に隣だったなんて、今まで気が付かなかった...」


「私もよ...」


始業式が始まる前に、引っ越し専用のトラックが空き家の方に荷物を運んでいるのは自室から確認したことはある。けど、まさか、それが恋花たちとは思わないだろ。お互いに、驚きが隠せず黙り込んでしまう。


「雅、今帰ったのか?......って横に居る人は誰?」


聞きなじみのある声がし、振り向くとそこに居たのは、大学終わりの姉貴だった。姉貴は、僕とは違い自信に満ち溢れていて、興味を持ったことには直ぐに実行しようとするような人だ。公立の大学に通っていて、昔から憧れていた教師になろうと励んでいる。元の地毛は、僕と同じ暗めな茶髪だったが、大学デビューしてからは金髪になっいて、カチューシャを身に着けていている。

肩に担いでいたトートバックを手に持ち僕らの元へ寄ってきた。



「私、隣にいる雅の姉の綾織 琴です。雅と何かありましたか?」


「いっ...いえ、綾織君には、私の娘のことについて相談に乗ってもらってたんです。あの、よろしければ、お姉さんにも聞いてもらっても良いですか?」


「良いですけど...貴方は?」


「私は、恋花の母親です」


それを聞いた、姉貴はさっきの僕と全く同じ反応を見せた。デジャブを感じたが、ツッコむことはせず本題に入った。

さっきまで恵香さんと話していた、恋花のこと、悩み事を相談せず一人で抑え込んでること、ライブのチケットのこと包み隠さずすべて話した。姉貴は、恵香さんの言っていることに驚いたり、妨害することなく集中して聞いていた。これは、命に関わらないだろうが、アイドルと一緒にいるということは何かしらに巻き込まれる可能性がある。パパラッチや、アンチやファンに目を付けられることだってある。だからこそ、恵香さんは姉貴に話すべきだと思ったのだろう。何かが起きた後に、話しても手遅れになる。もし、姉貴や両親を悲しませることになったとしても、説得するまでだ。


「恋花ちゃんが、もしそれで助かるのなら、雅をいくらでも貸しますよ」


「反対しないんですか?私のこと殴ってもおかしくない場面ですけど......」


「雅は自分のことより相手のことを優先するやつだから、私が止めたところで無駄だと思いますけど」


やっぱり、姉弟ともなると僕の考えていることなんてお見通しだった。


「うん。やり遂げるから絶対に」


真剣さを伝えるために姉貴の目を見ながら話した。まだ、僕は大人じゃない未熟な子供だけどやれることは精一杯やってやる。その姿を見た姉貴は、口角を上げ笑みを浮かべる。


「何があっても挫けるなよ」


そう言い残して姉貴は家に戻っていった。

また二人っきりになったが、恵香さんの要件はすべて済んだらしく、緊急用に連絡先だけを交換してお互い家に戻ることになった。


「ただいま」


「もう終わったのか?」


リビングまで戻ると、姉貴は、猫のイラストが描かれたエプロンを着て夕飯の支度にとりかかっていた。


「あの後は、連絡先だけ交換しただけだな。それよりも手伝いはいるか?」


「いる。.........うーんそれなら、雅はジャガイモの皮剥きからやってて」


キッチンにおいてある材料で何を作ろうとしているのか、丸わかりだった。それに加えカレーのルゥもあるから分かりやすい。制服の裾を上げ包丁を手に持ち取り掛かる。


「姉貴って、アイドルが隣に住んでるのに一つも驚いてなかったけど、どうしてなんだ?」


恵香さんと話している間、母親という面では驚いていたものの恋花に関しては一つも驚いていなかった。以前の僕みたいに、無関心でsacred lightのことを知らなかった訳じゃないだろう。


「雅が、ラノベ買うって言って出かけた日に、恋花が挨拶に来てくれたんだ。先日引っ越しってきた十六夜 恋花ですって言われて最初は驚いたよ。いきなり、テレビで歌って踊っている子が目の前に居たんだからな」


「そういうことだったのか」


それなら、恋花と今朝、登校しているときに出会ったのは偶然じゃなかったってことか。


「それにさ、恋花ちゃんが可愛いからさ思わずちゃん付けで読んだら照れてたんだよ。」


その姿、見てみたかった。

春休みが開ける前日に、買い物に行くんじゃなかったと後悔する。だけど、出会い方が違ったら今のような関係は無かったと思う。姉貴と一緒に合っていたら、きっと今も友達とかいなくて学校で一人寂しく過ごしていたかもしれないな。


「聞きたいことがあったら何でも言えよ」


僕の頭にポンっと手を置いた姉貴に「あぁ、その時は頼む」と微笑みながら伝えた。

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