第68話 はじめての住人
俺たちが作り始めた廃校の島に、最初の住人が来たと知らされたのは、島を作って十日目のことだった。
朝起きたら中園から『きたきたきた、はじめての住人だ!!』とメッセージが入っていた。
竜上生活のマップは全く特徴がない。立ち上げた瞬間に見えるのは山と海。
電車なしで見つけるのはヒントなしで都内にある一軒家を見つけ出すほど難易度が高い。
それなのに十日で?!
元々撮影日だったのもあり、俺たちは大興奮しながら中園のマンションに集まった。
中園はパソコンを立ち上げた状態で叫ぶ。
「この人!! 起きたらもう居たんだよ!!」
「え……これ何かぶってるんでスか?」
「リスナーに教えてもらったんだけど、これ初期ログインサービスで配られた米の袋なんだって」
「じゃあ中園先輩のファンとかではなく、長く竜上生活をしてた人が見つけ出したってことなんスね」
俺たちの島に最初にきた住人のキャラクターは、頭に米袋をかぶっていた。
その米袋は目の部分が丸く切り抜かれていて、身体の八割が米袋に入っていて、手足が出ている。
中園のリスナーの間ではもう「
おかしいいと思ったんだ、さすがに昨日今日このゲームをはじめて見つけ出せるはずがない。
きっと俺たちも知らない場所の特徴に長くこのゲームをしてるからこそ気がついたのだろう。
見ていると米袋朗は、ひたすら地面を堀り、レアな石を集めていく。この作業をしてくれるのは、さすが長くプレイしてきた人という感じがする。
俺も平手もたまにスマホでログインしてこの石集めを手伝っていたけど、とにかく大変なんだ。
土台にするための粘土はかなり地下までいかないと取れない。だけど土を掘るために必要な木のスコップはすぐに壊れる。
ひたすら木を集めてスコップにして掘って……の繰り返しで、俺は飽きてしまう。
この企画を考えた手前、あまり大声で言えないけど、俺はあんまりこういう作業ゲーが好きじゃない。
中園とするFPSのがまだ好きだ。ワールドが大きくて何でも出来ると逆にやる気がおきない。
紗良さんは作業ゲーが好きなようで、ひたすら小麦の配合を調べていて笑った。
畑に色んな石を混ぜて置くと小麦が変化するらしく、それによってパンの長持ち度が変わるらしい。
紗良さん扮する昭和のオッサンが、新しい石を見つけるたびに「はわわわわ、出た、出ましたよおおお!! 延命石!! うれしいい……ずっと会いたかったよお、ふえええ……」と感激している姿がキモくて評判になっていた。
紗良さんの声は紗良さんより更に高音になるボイチェンを使っているので、高音で話すオッサンになっていて、マジで面白い。
俺は脳内で紗良さんに変換して見てるから可愛いけれど、頭にネクタイ巻いたオッサンが高音で叫んでるのをストレートに見ると結構キモい。成功だ。
画面を見ていた平手が、動きを止めた。
「……ちょっとまって。この人、橋を作ろうとしてない?」
「あ。本当だ。これは竜の髭だ。すげーな、やっぱり廃人は持ってるんだ。これ竜の口元まで行かないとゲットできないレアアイテムだろ。これがあるとデカい橋がつくれるんだよね。あ、伸ばしはじめた。すげー! 俺橋作る人はじめてみたわ」
中園は配信を続けながら呟いた。
コメントを見ていても『竜の髭つかう人はじめてみた』『こんな風に伸びるのか』『これはレア』『二年に一回しか取れないんだろ? こんなところで使っていいのか?』と入り、かなり貴重なことが分かる。
このゲームはその人が持っている持ち物を、他の人がみることはできない。
だから使うことではじめて「そんなものがあったのか」と皆が言うのだ。
竜の髭もそのひとつで、竜の髭は二年に一度、自然に竜の口元から抜けるものらしい。それは竜の血に付けておくとずっと生きていて、取り出すとグングン伸びるらしい。
利用方法は無限大で、最も使われるのは島と島をつなぐ橋らしいが、二年に一度タイミングも知らされず10本しか落ちないので、存在してるかどうかさえ怪しいと言われていたものらしい。
米袋朗はグングンと竜の髭を伸ばして向こう岸まで到達させて繋いだ。
そしてレールで一気に向こう岸まで移動して、置いてあったダイヤ石をたくさんこっち側に運んできている。
「すげぇえええ!! ダイヤ石!! これ10階以上の建物が載せられる土台が作れるんだぜ?! やべぇ、マジで神降臨だわ!!」
中園は興奮して配信をはじめた。
米袋朗さんはダイヤ石を運び終え、次は橋の横に何か作り始めた。
その画面を平手が拡大する。
「……この人、ひょっとしたら元村の住人かも知れない」
「え?」
「橋の最初の所に鳥居みたいなの真っ先に作ってる」
「ほんとだ」
「あの橋の横に鳥居があったんだよ。でも台風でそれも流された。だから台風の前にいた人しか知らないはずなんだ」
「マジか、マジか」と何度も言いながら平手は目を輝かせてログインした。
このゲームはゲームのキャラクターに話しかけることはできない。メッセージを送ることも不可能だ。
フレンドが合流できるだけで、ゲーム内に通話機能は無い。
平手はただ平手としてログインして、一緒に鳥居を作り始めた。そしてポツポツと語りはじめる。
「俺さ、この企画で会いたい人いるって言ったじゃん。あれさ、ちょっと怖い話なんだけどしてもいい?」
「おう」
俺は撮影しながら聞く。平手は米袋朗と鳥居を作りながら、
「夏休みの思い出なんだけど。俺の両親はふたりとも働いてて、どこにも遊びに連れて行ってもらえないんだよ。だから友達の家に行ったんだけど誰もいなくて。みんな旅行とか行けて羨ましいなーと思ったら、真っ暗な家の中から知らない男の子が出てきたんだよね。田舎だからみんな顔見知りなのにさ、知らない子。でも夏休みだし、親戚の子が来てるとか結構あったんだよ。だから『どっかから来たの? 暇だから一緒に遊ぼうぜ』って誘って、夏休みの間だけ一緒に遊んだんだよ」
それを聞きながら中園は、
「あー。夏の間だけおばあちゃんの家に長期滞在とかあったなー」
穂華さんも、
「ありましたねー。一週間とか。アレ楽しいですよね」
俺も頷く。俺の親戚は都会だったけど、それでも親戚と一週間好きに遊ぶ時間は楽しかった。
平手は続ける。
「俺も深く考えずに一緒に遊んでた。んで、学校が無くなるってタイミングでその家にやつに『あいつにも会えなくなるな』って言ったらさ、そいつこの子のこと知らなかったんだよ」
「え……?」
その話にみんな手を止める。
「長期の休みの時、その家の住人は街にある家にほうに住んでたみたいで、病気で移動が難しかったおじいちゃんしか居なかったはずだって」
紗良さんは戸惑いながら、
「でも一緒に遊んでたんでしょ……?」
「そうなんだよ、絶対に居んだけど、誰もその存在をしらない。東京来る頃にはおじいちゃんも亡くなってさ」
「ええええ……」
みんなで「何が何だか分からない」という感じだが、俺はそれを聞きながら『面白くなってきた』と思ってしまう。
もう完全に安城さん仕込みのディレクター脳が働くようになってしまっていた。
俺はカメラを回しながら説明を入れながら聞いていく。
「他に誰かその子をみた人は?」
「居ないんだよ」
「名前覚えてるのか?」
「これがさーー、分かるだろ、曖昧なんだよ。みーくんとか、よっくんとか。そんな感じで呼んでた気がするけど。実は『あの人に会いたい』に出させてもらうとしても、名前さえ曖昧じゃ無理だろうなーって思ってたんだよ」
穂華さんは頷きながら、
「わかります、子どもの頃ってあだ名で呼ぶから本名なんて覚えてないですよね」
平手は、
「そうなんだよ。俺がそのおじいさんの家に行ってた理由はさ、そのおじいさん油絵とか書く絵描きの人で。土間の天井がすげー高くて、そこでずっと絵を描いてたんだ。俺も絵を描くのが好きだから、その家に結構出入りしてて、その家の子と仲が良かったんだ。んでいよいよ太田村を出るって時に、その家に行ったらさ、おじいさんが描いたって絵の一つに、ふたりの男の子の絵が描いてあって。お前が言ってたのこの子かって言われたんだよね」
穂華さんと紗良さんは身体を寄せて表情をゆがめる。
「え~~~ええええ~~~~~怖い話がはじまった~~……」
平手しか会ったことがない男の子が絵の中にはいた。
その絵があった家をカメラに収めたくなる。
安城さんは「村の跡には行かないの?」と聞かれたけど、すげー遠いんだ。東京からだと丸二日かかる。
当然車必須だし、運転手さんを頼んだりする必要がある。それに泊まるところもない。今は本当に何もないんだ。
そんなロケどうしたらいいのか一ミリも分からないし、調べるだけでクラクラするような作業量になりそうだ。
そんな難しいことは高校生SPでやる内容じゃなくて、大人のひとたちが時間をかけてやるようなことだ。
とりあえず動いてみたけど、ワケ分からなくオチもない……くらいがリアルな気がする。
それにこの高校生SPだって、歴代の優勝グループが企画で戦う! みたいな話だったのに、俺たち以外の企画が通らず、結局単独でやっている。
最近は中園のファンたちが個人配信で探し回ってるのをさくらWEBが紹介してた。
それでいいの?
だったら俺たちも好きにしよう。
唯一知っていたおじいちゃんも亡くなっていて、何の手がかりもない。記憶さえ曖昧。
正直楽しくてワクワクしてくる。
今だったらGoogleマップがあるから、すぐに現地に飛んで現場の写真をみることができるけど、八年以上前のことだし、そもそもGoogleカーが山の中を走ってない。
俺は平手に、
「その子が持っていたものとか、服とか、夏休みだったら宿題一緒にしたとか。なんか覚えてないのか」
平手は目を閉じて首を振りながら記憶を呼び戻す。
「身体はすげー細くて、あんまり外で遊ぶのは好きじゃなかった」
「同い年だったんだよな?」
「その家に住んでた子はひとつ上だったけど、俺が知りたい子の年齢は聞いてないな」
「年齢も分からないとマジで詰むな。じゃあ一緒見てたテレビ番組とか、サッカー選手の名前言ってたとか」
「運動は全部苦手だった。川遊びは結構したけど、山は嫌がった。一番してたのは絵を描くことで……あっ、紙袋。パンが入ってた紙に絵を描いて遊んだの覚えてる。焼きたてパンってビニールじゃなくて紙袋に入れるじゃん。それに絵を描いて遊んだのを覚えてる」
それを聞いて紗良さんが顔を上げる。
「紙にいれて渡すような焼きたてパン……? おじいさんしか居ない状態で、焼きたてパンを準備出来るものかしら」
俺は頷く。
「そうだ。平手の記憶が確かなら、そのパンを誰かが届けていたってことになる」
平手は頭を抱えて考えながら、
「そのパンをいつもくれたけど、旨かったことしか覚えてないんだよ。あの村に住んでてあんな美味しいパン食べたこと無かったから、それは覚えてる。でも確かにパンを焼けるようなおじいさんじゃなかったよ」
「じゃあ、誰かが持って来てたか、焼きたてパンを持参で来てたってことだ。あの村から一番近い場所にあったパン屋とか、そこから探そう。毎日買ってたなら覚えてる可能性が高くないか?」
「オケ!」
俺と平手は村から一番近い街を探した。そこは何十年も前から小さいながらも街として栄えていて、平手がいた小学校の統合先にもなっていた。
まずは市役所に電話して、地図を貰ったり、昔の店の話を聞こうと手順をくみ上げた。
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