第65話 広がる世界と未知の心
クマ、クマ、クマーーー!!
中園くんの部屋の中には無数のクマのぬいぐるみがあって、正直すごく楽しい。
部屋のインテリアも可愛くて、まるでスタジオみたい。
なにより色んな所に置いてあるクマのぬいぐるみが可愛い~~!
作業部屋はデスクトップパソコンが5台くらい置いてあって、カメラとか設置してあるのに、椅子の上に座ってるのはパステルカラーのクマーー!
キーボードも黒じゃなくてピンクとか白で、しかもデコられていてすごく可愛い。
穂華は椅子に置いてあったクマを抱いて、
「紗良っち~~、これヤバくない?!」
「こんな可愛いキーボードとかあるのね。あ、普通に使える。すごいーー」
「え、マウスもデコられてる。わあ、使いにくい~~握ると痛い~~」
私と穂華は可愛いパソコンに夢中だ。
配信をお仕事でしてる人の環境ってすごい。
陽都くんはホワイトボードの前に立った。
「じゃあ平手、カメラ回して。説明からはじめよっかな」
「りょーかい」
平手くんがiPhoneで撮影を開始して、陽都くんがホワイトボードに文字を書きながら説明を始めた。
「夏休みスペシャルということで、再び映画部始まりました。よろしくお願いします。部屋は部室から中園の避難場所、さくらWEBの部屋になりました。すげー可愛い部屋の紹介はおいおいするということで、とりあえず今回何するかって所から説明していきます」
陽都くんは何も見ない状態でサラサラと話していく。前より慣れていて、こういう所を見るとかっこいいなあと思う。
陽都くんは平手くんに話をふって、なりゆきを説明。そして廃校の画像をスマホに出した。
「基本的に調べごと、取材関係は俺と平手で。竜上生活でクラフトをメインでするのは中園」
「りょーかい」
「今ある写真と資料だけで、とりあえず学校だけは作り始められると思うんだ。学校のクラフトは配信しながらやってくれるとあとで編集しやすいからよろしく」
「分かった」
「あとこれは……中園のファンに向けて言うんだけど。竜上生活は基本的に新規アカウント作ったら、竜の周辺どこかに島が出来る。でもそれは完全なランダムだし、このゲームに全体マップは存在しない。だからさ、中園のファンはぜひアカウント作って、中園がクラフトしてる島を見つけてほしい」
それを聞いて中園くんが手を叩いて爆笑した。
「おいおい。俺のストーカーたちをゲームの中に召喚するの?」
「このゲーム、基本的に世界が広すぎてフレンドじゃないと合流するのはほぼ不可能。日本中のどこかにある一軒家を探し出すのに等しいほど難しい」
「そうだよな、わかんねーよな」
「だから見つけられるものなら電車開通前に来たらいい。そしたら中園と一緒にゲーム出来るし、なにより配信に一緒に出られる。俺たちも助かるんだ。一緒に学校をクラフトしてほしい。撮影期間を考えると人手はあったほうがいい」
「マジかよ! ストーカーさえ利用すんの、熱すぎるだろ」
「中園は配信でも言ってると思うけど、もう家には居ないから。だからストーカーするならゲームのなかでして。もう家には行かないで。俺が動画で出したのも悪いかなってちょっと思ってるから」
「陽都おおおおおお!」
「はいはい中園は作業開始。資料は平手が持ってるから。はい一回録画切って」
陽都くんは中園くんに資料を渡して配信ブースに座らせた。
ずっと気にしてたんだと思う。中園くんの家のこと。
たまに中園くんの家周辺を見てるって言ってた。親友だもんね、気になるよね。
こっちでもはっきり言えば家に行く人は出ないと信じたい。だってお母さんが可哀想すぎる。
穂華は私の横で、
「中園先輩のファンまじでエグいっすよ。私も一時期Twitter荒らされました」
「ええ……? 大丈夫だったの?」
「付き合ってるって勘違いした人たちがすごい量のリプ飛ばしてきてヤバかったです。オール捨てアカ。でも中園先輩が4BOXのナツミちゃんとナナカちゃんと絡み始めてからパタリと減りました」
それを聞いていた中園くんがこっちを見て、
「アホが凸してたよな、ごめん。ナナナの方に行ってくれてるならそれで良いけど」
「それ対策です? 正直助かりました。いや、中園先輩のファンって、どうしてあれほどに熱いんですかね」
「マイナー感がいいんだろ。芸能人みたいに遠くなくて身近な感じ」
「あーー。近所の喫茶店のイケメン……ついでに承認欲求も満たされる……みたいな感じですかね。え、ナナナのふたりのどっちかと付き合ってるんです?」
「もちろんふたりとは『仲良くしてる』よ?」
平手くんはその言葉を聞いて「配信しとくべきだった」と呟いて目を平らにした。
穂華は顔をしかめて何度も首をふり、
「いやーー、でも正解かもしれないっスね。だってあのふたりは燃えても売れたいでしょうし。私は無理っス」
「ナツミちゃんは支配系、ナナカちゃんはご奉仕系でさ、最高よ。最高」
「辻尾くん、ここは今度また話ふって録画しよう。中園くんのクソさはもっと全世界に公開したほうがファンが減って平和になると思う」
「そうだな、平手。それでいこう、中園の未来のためだ。ファンを減らそう」
「下のフロアにふたりとも住んでるから、もうマジ最高よ~~」
中園くんは回転椅子でくるくる回りながら笑い、それに陽都くんと平手くんは延々とツッコミを入れて笑っている。
私の横にツイと穂華が来て、小さな声で、
「仕事用の虫避けですね」
「……ね。違う世界。両者得があるなら良いのかしら」
穂華は爪を噛んで、
「熱海の時はちょっと可愛いなっておもっちゃいましたけど、どっちが本当の顔なんだか」
その言葉が優しくて、でも今まで見たことがない表情で、私は思わず穂華を見て近寄って小さな声で、
「熱海で何かあったの?」
「何もないっスよ。普通に話しただけです。こう思っちゃうのも作戦のウチかと思うと悔しいですねー。あー、辻尾っちを好きになれたら良かったのに」
あら。まあ? やっぱりそういう? んん? あれ? どういうこと? 彼女として怒るところ? あれ? どうすれば??
辻尾っちを好きになれたらっていう言葉を使うってことは、中園くんをもうすでに好きってこと?
それとも中園くんが気になってるけど、やっぱイヤって話?
私は恋愛的に一年生……ううん、きっと小学生レベルなので何を聞かされても「?」しか反応ができない。
穂華のほうが恋愛をたくさんしてきてるから、私に何か相談とかしたいわけじゃなくてこれは独り言。でもこれだけは言える。
「本当に最高だと思ってたら、陽都くんや平手くんに寂しいから泊まってくれなんて言わないんじゃないかしら」
「マジその通りっス。全部含めてあの人ヤバいですよ。沼。近くにいるほうが引っ張り込まれる。良く無いっす!! 鑑賞専用っスね」
そう言って穂華は私の方をみた。
そうね、恋愛はよく分からないけど、中園くんと恋だけは世界がひっくり返っても無理だと思う。私なりの知識で中園くんを表現すると……、
「アメリカの緑のピンクと黄色のお菓子みたいな感じね」
「ぎゃははは!! 美味しそうにコーティングしてるけど甘いだけのお菓子。食べたらきっと美味しくて中はスカスカで、食べたことを後悔する」
なんだかもう結構好きなんじゃないかしらと思ってしまうのは私が恋にあまり詳しくないから?
話していると、私のほうに陽都くんとカメラを持った平手くんが来た。
「次はふたりに頼みたいことの話をするね。主に竜上生活の冒険パートなんだけど、電車を通すのに必要な『竜の息』を取ってきてほしいんだ」
「マジっスか。私全然こういうゲームしないんで全く分からないんスけど」
「私もよ。大丈夫かしら」
そう言うと陽都くんは私たちをパソコンにカメラがついているブースに連れて行った。そして電源を入れて操作を始める。
「ここはVTuber用のPCなんだけど……カメラも良いやつ付いてて、アプリも全部入ってる。俺この前打ち合わせしたときにアカウント作ってもらって、そこで紗良さんたちのIDも作ってもらった。それで紗良さんのキャラはこれを使おうと思ってて。あった、これだ」
「……ぎゃははははは!! なんでこんなハゲデブ艶々キモキモおっさんなんですか、これが紗良っち?!」
「そう、紗良さんにはこのキャラで竜上生活をプレイしてほしい。これさ、前に誰か用に作ったらしいんだけど、リアルすぎて気持ち悪いからイヤだって配信者の人が使わなくて、そのままキャラが余ってたんだって。丁度良いやと思って少し変えて、そのまま貰うことにした」
そういって陽都くんが見せたキャラクターは……言葉は悪いけど髪の毛はなくて、頭にネクタイを巻いている。真四角な巨大メガネをしてて頬が赤い……言うなれば昭和のよっぱらいサラリーマンのような姿だった。右手には紐がついた四角いお弁当箱を持って、右手にはオレンジジュースの瓶? を抱えている。
これは一体……?
不思議に思っていると、穂華が目を細めてニヤニヤして、
「あ~~ははは~~ん。辻尾っち、紗良っちが可愛いから、可愛いキャラで出したら人気出ちゃうの、いやなんですね」
「……ぎく」
「だからこんな昭和オッサンをチョイスしたんだ。ははーん。で、私のキャラは?」
「ないよ。そのまま出ればいいじゃん」
「私の扱い~~~~?!」
「だってアイドルだろ? そのまま画面にバリバリ出なよ。無駄な発注しないよ」
「私も美少女VTuberしたかったああああ!! 聞いてくださいよ中園先輩、ひどいんです!!」
穂華が叫んで中園くんの所に話に行き、陽都くんは私の横に座った。
そして説明をはじめる。
「ゲームはここね。これをクリックして、同時にカメラで自分を撮ってゲームをしてほしい。これはモーションキャプチャーがついてて、カメラとこのアプリさえ立ち上がってれば自動的に……ほら、紗良さんが動くと……」
「わ。すごい。おっさんのねじりハチマキ? ネクタイ? が動く」
そう言うと陽都くんが私のすぐ横に来て、脇腹をツンとした。
くすぐったくて叫ぶ。
「ちょっと陽都くん!!」
「ほら。見て。紗良さんが叫んだりするとキャラクターもそういう動きをするんだ」
「……すごい」
「この前さ、紗良さんが怖いドラマみて、みょんみょん伸びてたのすごく可愛かったから。あのまま、紗良さんのままの反応で、ゲームをしてほしい。でもさ……」
そう言って私に身体を寄せて小さな声で、
「あんなに可愛いの、普通に出したくないからこれにした。このお弁当箱の中身は俺が挨拶に行った時に持って行ったマドレーヌなんだ」
「!! すごい。ちゃんと入ってる」
「それに頭に巻いてるのもうちの学校のネクタイ」
「本当だ、今気がついた」
「右手には好物のオレンジジュース。色々紗良さんのために変えてもらったからこれで良い? 変なおっさんでごめんね」
「……ううん。嬉しい。私、頑張ってオッサンになるわ」
「……はじめて聞いた気合いかも。取ってきてほしい『竜の息』は、穂華さんと調べながら進めてくれないかな。何もわからない二人のがいい。攻略サイトとか見ながら素人のふたりがする所に意味があるんだ」
「分かったわ」
話していると穂華がポッキーの大袋を持って来た。
「よっしゃ、紗良っち、やっていこーー。全然分からないけど、楽しそう」
「始めましょうか」
私たちはパソコンの前に座った。
すると私はオッサンに。穂華はそのまま画面に出た。
穂華は口を尖らせて、
「えーーー。紗良っちのがなんか面白くて強い~~~」
「そうね。ちょっと面白いわ」
私が首を動かすと、おっさんの頭に縛ったネクタイが揺れた。
これ、別の私になったみたいでちょっとだけ楽しいわ。
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