第38話 映画部始動
「「待って。みんな私のために映画部に集まってくれてるんだよね」
お昼ご飯を食べ終わって昼休み。
穂華さんがソファーの真ん中で立ち上がった。
その言葉に中園は大きく頷く。
「そうだよ。穂華ちゃんのためにこのヤンデレゲームをしてる。マジですげーな。全員死ぬのがハッピーエンドなのかよ」
「オールクリアして入れ直すと、別のエンド出てくるらしいよ」
「どゆこと?」
「セーブデータ残した状態でゲーム消すとそうなるらしいよ。前の記憶を持ったまま人生二度目みたいな感じになるんだってさ」
「スルメゲーじゃん!!」
「今度はみんな殺しにくるらしいけど」
「マ?!」
中園と平手はヤンデレゲームに夢中だ。
この前中園の配信見たら、他の人たちはみんなFPSしてたのに中園だけこのヤンデレゲームを配信してて笑った。
しかも「ひええええ……ちょっとまってくれよ、振り向いたら首つってるんだけどどゆこと?! いつの間に?!」って半泣きでプレイしてた。
女ファンがキャーキャー言ってて大人気。才能しかないわ。
「辻尾くん。この透明な円盤は何?」
「MO! MOだ。いやいや、これもう中身見れないだろ」
「何これ?」
「データ入れて持ち運べるやつだよ。今のUSBに比べたらほんの少ししか入らないんだけど、俺の親父は持ってた」
「へえ……ラジオって書いてあるわ」
「なんだろな。てか捨てよう、こういうのは迷い無く行こう」
「そうなの?」
俺と吉野さんは部屋の発掘に夢中だ。倉庫を兼ねていたこの部屋は学校創立50周年のゴミと共にいたらしく、もうすごい。
MDからフロッピーディスク、ビデオテープに20年前の写真と、物が溢れかえっている。
最初は掃除をしてたんだけど、もう楽しくなってきて吉野さんとあれこれ見ている。
一応必要なものと不必要なものを分けていて、どんどんキレイになり、内田先生に感謝されるのも気持ちが良い。
平手はずっと漫画を読み、たまに絵を描いている、マイワールドだ。
穂華さんが叫ぶ。
「部活部活部活しますよ~~! ねえ、もうみんなサイトに投稿始めてるよ、私も何かアップしたい!! 辻尾っちも部室のゴミじゃなくて、新山こころをぶちのめしてぶっ飛ばしてなぎ倒してゴミ箱に捨てるんでしょ?!」
「いやそこまで言ってないけど」
「見てよ、新山こころ、すっごいおっぱい票!!」
そう言って穂華さんが見せてくれた新山のページは、現在JKコン部活部門一位……というか……。
中園が眉間に皺を入れる。
「スケルトン乳首にも限度があるだろ」
吉野さんも表情を曇らせる。
「ちょっと……どうなのかしら……水着というか紐じゃないかしら……」
平手は、
「乳首カバーだね」
と言い切った。
正直異論はない。そこに写っていた新山の写真は前回よりパワーアップした完全なエロ写真だった。
JKコンという手前、一応制服は着てるけど、それをめくって白い水着を見せているだけのエロ写真。
中園は頷く。
「でも制服の前開けて白水着見せてる女を嫌いな男はいない。食べろと言われたら24時間食べられる牛丼みたいなもんだ」
「そうだね。だってこれはコンテスト。彼女にしたいわけじゃない、ただ投票数が多かったら勝ちなんだ。一点突破は全然変なことじゃない」
平手は漫画を読みながら冷静に言い放った。
たしかにその通りで、とにかく注目を集めて票を集めないとランキング上位になるのは難しい。
戦略を立てて戦うのは、アイドルとしても必要なことだから、一線を越えない限りお咎めはないのだろう。
穂華さんは静かに首をふり、
「私は全然こういうことはしたくないの。そもそもおっぱい無いし。ただ歌って踊るのが好きなだけで、楽しくしてられたらなーって思ってるだけなのよね。だから中途半端なのは分かってるんだけど……」
俺はそれを聞きながら椅子に座った。
映像を出すんだから……と俺も出演者は全員チェックしたけど、歌が上手い子はもう次元が違う。
それこそ駅前でアカペラで歌って何千人も集めてる子もいたし、ボカロで有名な子もいた。
ダンスに至っては、これまたプロ級の子がゴロゴロして、スタイルも穂華さんの数倍良い。
つまり穂華さんがしたいことの数倍ランクが高い人たちがいる中で、票を獲得しないといけないんだ。
俺はふと思い出す。
「学食にお茶を持って来てくれたよね。あれは何の仕事なの?」
「ああ、あれはWEBサイトの小さな仕事なんだけど、商店街の紹介番組なの。これなんだけど……」
そういって穂華さんが見せてくれたのは、商店街のおばちゃんたちに囲まれて楽しそうにお茶を飲んでいる穂華さんだった。
そのお店の小さい子や、お店に来た中学生男子、奥さん……色んな人たちと話し方を変えながら話している穂華さん。
そういえば……。
「穂華さんって、俺は辻尾っちで、中園は中園先輩だよな」
「そうだよ。辻尾っちはぜったいフランクに話したほうが良いタイプ。中園先輩は立てないとダメ。見限ったらすごく冷たいタイプ。でも好きな人には超情熱的と見た!」
「合ってる~~」
中園は人差し指で穂華さんをさした。穂華さんは中園に向かって頭を下げて「よろしくお願いします先輩っ!」と微笑んだ。
俺はバイト先で動画を撮る時も、女の子の特性とか、好きなものをキッカケに掘り下げていくことが多い。
同じ話題ひとつでも、その子によって反応が違うんだ。
俺の扱いもみんな違う。
仕事相手として扱う子、弟のように話しかけてくる子、逆に年下の俺に甘えてくる子。
それぞれ立場があって過去があって考えがあって、俺に対する接し方が違う。
それをなんとなく意識しながら色を付けていった結果、動画はどんどん再生数が上がり評判が良くなってきた。
つまり……。
俺は後ろを見て、仕事用のiPhone14を録画モードにして平手に渡した。
平手は「お?」と俺のほうを見たので、コクンと頷いた。
俺は声を整えて穂華さんが見えるように少し右側に移動して話し始める。
「穂華さん、ダンス部入りたいって言って無かった?」
「えっ?! 突然なんの話?!」
「体育祭の時にダンス部見て興味あるって言ってた気がする」
「え……うん、そんなこと言ってた気がする」
「だったらダンス部に体験入部してみない? その様子をドキュメンタリーでJKコンに公開するんだ」
その言葉に吉野さんが俺のほうを見て手を叩いた。
「ダンス部の子たちが、辻尾くんのインスタの動画見たって、褒めてたわ」
「そうなんだ。実は部員増やしたいから、映画部として撮影に来てくれない? って言われたんだけど面倒で断ってた。でもさ、くっ付けちゃったら良くないか? 穂華さんがダンス部に体験入部する。それは同時にダンス部のプロモーションにもなると思うから許可は出ると思う」
俺がインスタにアップした2-Bの水風船の動画は本当に評判が良くて、実際他の部活からも「部員増やしたいから撮ってくれよ」と誘われていた。
そんな真面目にするつもりが無かったから適当に断ってたけど、よく考えたらアリな気がする。
穂華さんは自信なさげに、
「でも……私ダンス部入れるくらいダンス上手じゃないよ」
「なんかさ、ダンス部は『上手くないと入れない』って思われてるのが部員が入らない原因らしくてさ、本気の人たちの他に、ただ楽しみたい子も多いんだって。とにかく気楽に遊びに来てほしいって言ってたよ」
「そうなんだ……踊るのは好き」
「だったらやってみようか。いつも超元気な穂華さんが真顔になるのも良いと思うんだ。平手、撮れてる?」
「……ばっちり撮れてる。iPhone14プロ画質エグ」
「えっ、もう撮ってたの?! うそ、えっ、えー……!!」
「俺も撮ってた。撮影たのし」
「えーーーー?!」
どうやら一瞬で察したらしく中園も撮ってた。
ドキュメンタリーはカメラ数とリアリティが命。なによりこういうのは気軽にコメントしやすい。
JKコンは一ヶ月の長期戦で、常にTOPページに載り続ける集客力が大切だ。
投票数が多くないと最終選考にも進めない。でもこれならとりあえず一ヶ月何かを投稿し続けることは可能なんだ。
調べたら一ヶ月投稿し続けられず失速する子が多いって書いてあった。
穂華さんは、
「……うん。なんか、良い気がする。あとは私が頑張ればいいんだね」
「そうだね。動画にしてアップするのは俺たちがするからさ、穂華さんはただ頑張ればいい」
「うん、やってみる!」
そう言って穂華さんは顔を上げた。
その笑顔はすごく強くて可愛くて、当然それは平手が撮影してて。
なんだか俺も楽しくなってきた。
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