第9話 病院って……(1)〔答えの出ない問題が、わが身に降りかかると……〕
頭の中の混乱は続いていた。ただ私はそれよりも、自分が病院に行くという考えで、頭がいっぱいになった。
打ち明けてしまうと、私の頭の混乱には波があった。
私はこのとき以降も、同じような混乱を何度か経験することになる。しかししばらく経つと、混乱はしだいに落ち着いてくる。そして別の気苦労の種を、新たに見つけ出す。
遠藤さんに会って以来、混乱は確かに弱まっている感じがする。
ひょっとして、これなら病院に行く必要はないんじゃないか、とも思った。紹介状が出ていたって、自分が行かなければすむことだ。
すると別の自分が言う。
このまま混乱が収まってくれる保証はないし、また状態が悪化して、取り返しのつかないことになったらどうする――?
私は病院が嫌いだった。
でもそれは、注射が痛いとか、薬が苦いとか、白衣が怖いとか、幼いころの気持ちが、あまり育たないままに残ったものらしく、はっきり理由を説明することもできない。
大きくなってからは、病院とは疎遠だった。
入院したこともなければ、長く通院したこともない。医者や看護師と個人的に知り合う機会もなかった。
まして私は、心療内科というものが分からなかった。
パソコンを開いて調べてみると、いくつかの説明が出ているほかは、大半が病院の宣伝だった。検索しているうちに、とある掲示板に行きあたった。
「精神科や心療内科に行くとどうなりますか」というスレッドを読んでみたら、「おまえの人生終わり、氏ね」とか、「いや、要は自分次第だろ」といった書き込みに、「今はいい薬ができてるよ」とか、「何より対話が大事なんだ」といった書き込みが、延々と続いている。
ポイントをつかめないまま、スクロールのしすぎで指が痛くなる。
そのほかに私が知っていることといえば、せいぜい物語からの知識くらいだ。
私が子どものころまでは、登場人物が病院に入って終わり、という話がよくあった気がする。
喜びも、悲しみも、波乱万丈の人生も、病院に入れば、それで締めくくることができ、その後日談を問う人もいない。――ほとんど死ぬのと同じじゃないか?
本当は、病院に入ることも、死ぬことも、その意味はたいして分かっていないのだろうけど、お話のうえでは、結末としての意味合いが、だいたいは決まっていたんだろう。
それはどうやら後戻りのできない終点であって、身の破滅である――。
そこにはある種の崇高さが伴うこともあれば、どうしようもない滑稽さが伴うこともある――。
ただし本人の気持ちを推し量ることはすでに難しく、もはや描けることもあまりない――。
じゃあこれから病院に行こうという私は、それをどう受け止めたらいいんだ?
それを四日で決められるのか――?
そうして私は眠れぬ夜を過ごし、翌朝は寝坊して、部屋の中で自問を続ける。
いつまで何を迷っている? 早く決めてしまえ――。
私はひとまず、病院とは場所であり、医者とは人である、そう考えておくことにした。
そして迎えた四日目の朝――。
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