6章 配達物:兵隊

6−1

翌朝。

あてがわれた部屋で一晩宿泊し、ゆっくりと休んでいたユウヒ。

この日は彼女にしては珍しく早めに起床した。

前日就寝前にメイドから、朝には出立することと準備が整ったら呼びにくることを聞いているためである。


邸宅内では朝から騒がしい雰囲気だ。

ユウヒが休んでいる部屋の前を、準備に追われる人たちが慌ただしく行き来して物々しい。


朝食としてあてがわれたパンと野菜を齧りながら、兎にも野菜をあげて呼ばれるのを待っているとメイドがノックされた。

ユウヒは邸宅内広場に向かうように言われ、兎を鞄にしまってメイドに連れられていく。



邸宅内の広場に到着すると、30名程の兵士が集まっていた。

この街は山や森林に近く、魔物調査や討伐も頻度高く行われる。

そして、ここにいる兵士たちは森林内任務に繰り返し当たっている、いわばスペシャリスト集団だ。

革鎧など動きやすさを重視した装備の兵士たちが落ち着いた雰囲気で準備の最終確認にあたっていた。


広場中央に近いところに領主が椅子に座って年配の兵士と何やら話をしている。

メイドはその近くにある椅子にユウヒを誘導し、座って待つように伝えた。

言われた通り、ちょこんとユウヒはその椅子に座って、何が始まるのかと広場を見守ることにする。


物資などが一通り運び込まれ、馬車に馬が繋がれて出発の準備が整い、兵士たちがあちこちで準備完了、と点呼確認をする。

全ての確認が終えた兵士が、領主の側にいる年配の兵士に報告に向かった。


「準備完了しました、隊長」

「ご苦労。では、任務について説明する。一同傾注!」


隊長だったんだ、と1人思うユウヒをよそに、隊長が言葉を発した。


「最近、山賊行為を働いている輩がいることは諸君らも聞いていると思う。とっとと片づけてしまうぞ」


同意する掛け声が兵士達から上がる。

隊長はニヤッと笑うと続けた。


「今回の任務は領主様も同行される。うまくいったら恩賞は期待して良いからな」


一斉に目線が領主に向くと、領主は軽く手をあげて隊長の発言を保証した。

その様子を見て今度は歓声をあげる兵士達。

隊長は士気の高まりと準備完了を見てとると、出発の合図を出す。


「山の麓までは予定通り馬車で行く。では出発」


兵士たちは各々馬車に散らばっていった。

その様子を見つつ、隊長は領主を馬車に案内する。


「それでは出発します。領主様は真ん中の馬車に乗ってください」

「わかった」


5台あるうちの真ん中、少しだけしっかりした作りになっている馬車に領主が乗り込んだ。

隊長は、領主が馬車に乗り込むのを確認すると今度はユウヒに声をかけた。


「運び屋は私と共に先頭の馬車にのってくれ。道案内を頼む」

「あの、ボクも馬車ですか?ヒポでいけますけど」

「カバはやめてくれるか?周りがついていけん。それに後ほど山で召喚士の力を借りるかもしれんからな」

「わかりました、じゃあ馬車に乗せてもらいますね」


ユウヒが答えると、先頭の馬車に向かい、隊長と一緒に先頭の馬車に乗り込んだ。

続けて一緒の馬車に乗る兵士たちが乗り込んでくる。

兵士たちは一瞬ユウヒの方を見るが、すぐに雑談を始めた。


実は兵士たちは事前に少女の運び屋が同乗することを知っていたが、気をつかって気にしないようにしていたのである。

そんなことは知らないユウヒが馬車の室内で兵士達に囲まれて、なんとなく気まずい思いをしていると、鞄からひょこっと兎が顔を出す。


「兎?」

「兎だな」

「ダメだよ、アリス」


兵士たちが兎を見て、兎という言葉を発する。

その度に兵士たちに愛想を振りまく兎。

慌ててユウヒは鞄の中にしまおうとするが、兵士の1人がそれを止めた。


「運び屋さんよ」

「は、はい」

「兎、撫でてもいいか?」

「え?」


しかめっ面した兵士から真剣な表情で言われ、言葉に詰まるユウヒ。

その様子を見て、他の兵士がツッコミを入れる。


「お前みたいな顔が怖い奴はダメだとよ」

「いや、大丈夫、大丈夫だよ。はい、どうぞ」


頼んできた兵士に兎を取り出して手渡すユウヒ。


「おお、人に慣れてるんだな。大人しいもんだ」

「あ、お前だけずるいぞ。次は俺もいいか?運び屋」

「はい、どうぞ」


気づけばいい歳した兵士達の移動式兎カフェの開店である。

代わる代わるになでて、満足そうな顔をしている兵士たち。

隊長以外の兵士たちが一通りなでて、兵士も兎も満足そうにしているのを見たユウヒ。

カバンに兎をしまおうとすると隊長からも声がかかった。


「あー、運び屋」

「はい?」

「すまんが、次は私の番じゃないかな」

「隊長さんも!?」


結局隊長も撫でた後、再び兵士たちが再度要求。

2周撫で回したところで御者の方から声がかかった。

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