4−9

領主邸宅を出たユウヒ。

元々、こちらの街でお土産でも買っていこうかと考えていたのだが、帰りも依頼の配達物を受け取ってしまったためそのまま街の外に向かう。

テクテクと歩いて街の入り口である門まで到着した。


門ではきた時と変わらず衛兵が通行者のチェックをしている。

ユウヒが街に入る時に目的を確認した衛兵がまたユウヒに声をかけた。


「もう街を出るのか?どこへ行く?」

「隣街。次の配達あるんだ」

「そうか。山賊が出るという噂もあるからな。気をつけて行くといい」

「そうなんだ」


行きに山小屋で見た連中かな、と想像するユウヒ。


「ゴブリンや突撃河馬を操って森を滅茶苦茶にしてるらしいからな。とんでもない奴らだ」

「そ、そーだねー、気をつけるよ」


山賊は何か企んでそうだがカバで森を滅茶苦茶にはしていない。

ユウヒは風評被害を受けている山賊たちに心の中で謝罪しつつ、衛兵たちに手を振ってそのまま門を通過する。


そのまま街道を少し歩くと、領主邸宅前でユウヒに話しかけた商人が道の脇に立っていた。


「こんにちは、お嬢さん」

「こんにちは、何か用?」

「いえ、今度はなんの配達をされるのかな、と気になりまして」

「それはもちろん、内緒だよ」


にっこりとぼけるユウヒ。

街道に人がまばらにいる中、傍目には知り合いが穏やかに話しているように見える。

商人は落ち着いた雰囲気を崩さずに、ユウヒだけに聞こえるように話しかけた。


「余計なことはしないでもらえますか?」

「余計なこと、って何?」

「新薬なんて持って来られちゃ迷惑なんですよ」

「やっぱりあなたがメイドのお姉さんに粉を渡した人なんだね」

「さて、知りませんね」


こちらもにっこり笑ってとぼけ返す商人。

お互いに冗談めかして話しているが、目が笑っていない。

どことなく緊迫した雰囲気となった時、街の方から衛兵が見回りに向かってくるのが2人の目に入った。

商人はフッとため息をつくと、ユウヒに別れの挨拶を述べる。


「邪魔が入りそうですね。では、また。帰りの山道は気をつけてください」

「うん、心配ありがとうね」

「森林荒らしはほどほどにしてください」

「それは、うん、ほんとごめん」


商人は街道から抜け出し森の中に消えていく。

去っていく最後まで態度を崩さなかったが、最後に目を細めて睨まれたのがユウヒの印象に残った。


「うーん、流石に帰りは安全第一で行こっかな」


自分の利益のために届けた薬を台無しにしようとする商人、船を沈めた元船員の山賊。

どちらにしても森の中に入るのはかなり危険な雰囲気だ。


考えながら人通りが少ない場所まで来たユウヒは再びカバを呼ぶ。


『召喚:突撃河馬』


ぶもーっとふたたびカバが現れる。

行きに比べるとそれなりに落ち着いているが、依然テンションは高い。


「ヒポ、帰りもよろしく。ただ、山はいろいろ危なそうなのでゆっくり街道でいくよ」


ぶもっと鼻息で答えるカバ。

ユウヒが乗ると、足踏みを始める。


「ヒポ、ゴー」


すぐに時速30kmくらいに上がり、ユウヒとしては巡航速度で街道を走り出す。


「何?」

「カバ!?」

「逃げろ!」


しかし周りから見れば、街道を馬で旅するより速い速度で魔物が暴走しているようにしか見えない。

口々に叫ぶ人たちを横目に、ユウヒはのんびりと帰路に着く。


「今日もいい天気だね」


カバはほとんど速度を落とさずに帰路を走りきり、自分の街に帰ってきたのであった。

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