第130話 怪盗ホークと学生達

とある地下空間、一人の小柄な女性がこつこつと歩く。彼女は少女に見える程の童顔だが、腰つきはちゃんと女性のそれである。髪は薄紫のショートで、快活そうな表情の持ち主である。なお、胸は小さい。


まったく窓のない通路であるが、明かりの魔道具のおかげで結構明るく、歩くのには何の支障もないようである。


その胸が小さい女性は、とある扉の前にたどり着き、ノックもせずにギギィと扉を開ける。


その扉の先には、一人の優男がベッドの上で何かやっているところだった。何故か全裸だ。金髪ストレートロン毛の持ち主である。


胸が小さい女性は、優男が全裸であることに動揺を見せず、「そろそろみたいよ。」と言った。口を開いた彼女の口元には、綺麗な犬歯が2本突き出ていた。


その優男は、自分の腹の下を見て、「ふうん。ちょっと待って、今いいところなんだ」と返した。


「それ、連れて来てんの? 好きだねぇあなたも」


「うん。だって待ち伏せの間、暇なんだもん。いや、正直に言うと、この子のことが気に入ったんだ」


優男の下腹部には、何かがいた。


「それ、前に穴奴隷として買ったやつでしょ?」


「そうそう。ってんだから、世も末だね」


「あんたの性癖を疑うわ。そっちはまともだと思っていたのに。男って、結局柔らかいお肉と穴があったら、何でもいいのね」


「こいつをこうしたの、俺じゃないんだぜ? でも、ハマってしまうな、このってやつ。色々なタイプを揃えたくなる」


優男の下腹部の下には、四肢が無い、正確にはひじひざから先が無い女性がいた。


本来であれば肘から先がある部分と、膝から先がある部分には、何かの器具がはめられており、四肢の関節から先は無くとも、四つん這いで歩けるように改造してあった。彼女は、黄色と赤い髪の、本来は美しい女性であっただろう。


その女性を四つん這いにさせ、優男は今まさに後ろから犯している最中だった。優男の動きに合わせ、豊かな乳房が豪快に揺れ、ふくよかな尻がパンパンと叩きつけられる。


最初の女性は顔をしかめ、「これ、量産すんの?」と言った。


「そうそう。例の法改正でさ、これから世の中に奴隷が増えるだろ? そうしたら、こういうのを大量に作って売り出したらいい。きっと変態に喜ばれるぜ」


「これ、口はどうなってんの?」


この胸の小さな女性は、目の前の女性、すなわち散々なことをされているにも関わらず、何の言葉も発しない四つん這いの女性を見て、少し不思議に思ったようだ。


胸が小さな女性がそう言うと、優男は人犬の首輪に付けられている鎖をじゃらりと引っ張り、抵抗する女性の顔を無理矢理上げさせる。


「何にもないよ。歯も舌も声帯もない。しゃべれないし、噛みつきもできない。あ、こっちも意外と気持ちいいよ?」


優男はそう言って、下腹部で繋がっている女性の口を無理やり開かせる。


胸の小さな女性は、さらにしかめっ面をしながら口の中を覗き、「あなた、試したのね。世話はあなたがするなら、まあいいけど。ターゲットはスイネル方面に出かけたから、学生さんらの決闘に併せて、隙を見て介入しようと思ってんだけど」


優男は腰を動かしながら、「俺は、学生が一方的に負けると踏んでるけどね。そのターゲット、んだし、適当なタイミングでさらうさ」と言った。


胸が小さい女性は、少しあきれた顔をして、「攫う? ええつと、モンスター娘を攫うのはついでで、仕事はララヘイム人の暗殺。そこは間違えないでよね」と言った。


「へいへい。分かってるよレミィ。だけど、モンスター娘の方が儲かるはずなんだよねぇ。まあ、仕事はちゃんとやりますよ」


「分かればいいんだけど、ホークさん? んん~私もちょっとだけ遊んでいこうかな」


胸が小さい女性は、そう言うと、下だけ脱いでいく。


「お? お前も参戦か? ちょっと、こいつで行くから待ってて」


「もう。急いでるんだから、先に私にして」


「へいへい」


ホークと呼ばれた優男は、レミィと呼んだ女性と絡み始める。


その二人の耳は、明らかに普通の人のそれではなく、先が長かった。優男の方がより長く、女性の方は優男のそれより若干短かかったが、先が鋭く尖っていた。



◇◇◇


「よし、ココで停めて」と、馬車の御者席の横でカルメン・ローパーが言った。


直ぐさま彼女の侍女が後ろの馬車に停止の旨を伝える。


ここに居るのは6台にも及ぶ豪華な馬車たち。その中には、カルメン・ローパーと仲間達が乗っている。


ここは、ウルカーンからスイネル方面に向かう途中にある大きな交差点だ。


スイネルに行く人らの殆どは、ここを通る。


彼女らの作戦は、ここで待ち伏せし、のこのこやってきたハルキウ達のコンボイに決闘を挑むというものだ。


「いよいよですわね」と、カルメンが呟く。


後続の駐車が済んだ馬車から、続々と学生らが出てくる。


その中の一人が、「カルメン様、決闘の場所はここですか?」と言った。


カルメンは、「うまくいけばここで決闘を申し込みます。ただし、彼らが恐れを成して逃げ出した場合は、それを追いかけますので、ここから少し移動する可能性があります」と言った。


「カルメン様、我らがいましたら負けることはありません。それよりも、如何にして勝つかが重要です」と、とある学生が言った。


「我らが負けることはあり得ません。ですが、相手には水魔術士が付いているという情報があります。なので、作戦では、私が開幕でファイア・メテオを使います。如何にララヘイムの水魔術士といえど、私の魔術であれば防ぐので精一杯か、うまくいけば総崩れになるでしょう。後は、防戦一方となった敵を接近戦で各個撃破するだけです。接近戦も、ダルシィムがいれば余裕でしょう」と、カルメン。


「おお。確かに、格闘術と火魔術の天才ダルシィム殿が居れば心強い」


「彼はです。大陸でも指折りの実力者と言っていいでしょう」


「素晴らしいことですカルメン様。我らの負けは無いでしょう。では、僕らはここで待っていて、ハルキウ様が到達して決闘が始まったら、戦闘に加わる感じですね」


「そうです。同じ班の人と一緒に居て、その時を待っていなさい。ま、私のメテオでどれだけ無事な方が残るでしょうか。楽しみね」と、カルメンがアップに纏めた美しい金髪を掻き上げて言った。


「素晴らしいですカルメン様。是非、貴方様の素晴らしさを、愚かな冒険者に見せつけてくださいませ。それでは、私達は馬車で待機しております」


そう言って、カルメンの取り巻き達は、自分の馬車に戻って行く。


それと入れ違うようにして、先ほど話題にあがったダルシィムが、カルメンの荷馬車に歩いてくる。難しい顔をして。


「あら、ダルシィム。どうしましたの? 緊張でもしているの?」


ダルシィムは相変らず開眼しているかどうか分からない表情で、「いや、」と言った。


カルメンは、「ふうん。どんな情報?」と返す。


」とダルシィムが言った。


「何でしたっけ、それ。よく分かりませんわ。今は決闘に集中するべきです」と、カルメンが言った。


「……この法律が施行されてしまうと、ハルキウの立場が危うくなるはずだ。やはり、ハルキウはこのままスイネルに行った方がいい、そもそも、あなたも……「待って」


カルメンは、ダルシィムの言葉を遮り、続けて「これはもう決定したことでしょう? せっかくここまで準備をしたんだもの。決行よ。それに法改正ごとき、私のお父様は宰相なのよ? どうとでもなりますわ」


「カルメン、この法改正は本気でまずい。下手をすると、ローパー伯爵の宰相という立場すら危うい」


「はあ? あなた、父上を愚弄する気ですの? 宰相は、この国の行政で国王を除いてトップの立場なのよ? 何よりも、国王はローパー伯爵を信頼しています。どうということはありません」


「カルメン。分かってくれ。できれば、このままあなたもスイネルまで行くべきだ。ハルキウと一緒にな」


「ちょっと何言ってるか分からないですわ。とりあえず、ハルキウを護衛している冒険者に決闘を挑んで倒します。ハルキウが戻ってきてから、お父様と相談して今後の事を決めます。いいですね?」


「くっ……」


ダルシィムは少しだけ厳しい顔をするが、直ぐに平常心になり、自分の馬車に戻って行った。

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