第110話 輜重隊任務
起きた。
隣でいびきをかいてるヤツがいやがる。いびきで起されてしまった感じだ。
まあ、いびきは仕方が無いか、悪気はないんだし。などと思っていると、直ぐに俺の逆隣で寝ていたヤツが起きてきて、いびき女の鼻を摘む。
いびきが止み、しばらくすると、「ふがっ」という間抜けな音を立てる。
いびきを掻いていたヤツはサイフォンの相方ベルで、鼻を摘まんだヤツは宿屋の娘から水魔術士にクラスチェンジしたヤツだ。名前はミリン。俺達のパーティで料理番を任せようと考えていた娘だ。今、料理番は種付け師のアイサと病気のステラにお願いしているが、何時までもバイトだけに肝心な役割を任せるわけにもいかない。
それはそれとして、昨日は久々にララヘイム組とヤッてしまった。流石に11人とではない。サイフォンとベルとミリンの3人だけだ。ベルはすらりとした目隠れ属性の美女だが、ボケ担当のサイフォンの突っ込み役を担う。ミリンはピンク髪のショートカットでおっぱいが大きい。淫乱ピンクとはよく言ったもので、彼女もなかなか夜がお強い。ふかふかの肉体の持ち主で、いわゆる抱き心地ばつぐんなのだ。
最初の頃、サイフォンが『これがオリフィス流騎士のちぎりじゃあ』とか言って、ララヘイム組全員とセック○していたけど、最近では希望者としかしていない。気付けば、セック○しているのは数名だけになった。
俺も、別にハーレムが欲しいわけではないから、それならそれで全くかまわない。
サイフォンは、俺から骨の指輪を貰ってからというもの、どこか余裕で、昨日はサポートに徹していた。自分は後回しで、ベルやミリンの体の準備をしたり、俺がしやすいように体位を調節したり、後ろから前後運動のサポートをしてくれたり……
単にそういう趣味なだけかもしれないけど、とにかく、がつがつしなくなったのだ。少し前までは無限セック○の刑とか言って、自分がぜぇぜぇなるくらいまで暴れていたのに。
ふと見ると、今朝はギランが仰向けに寝るサイフォンに張り付いている。ああして体温を奪っているのだ。いつもは俺に張り付くのだが、今日は俺の左右にベルとミリンがいて張り付くスペースが無く、待ち切れなかったのだろう。
サイフォンは、少し苦しそうにしながらも、じっとしてやってあげている。意外と優しいやつだ。ギランも、それが分かって甘えているのかもしれない。
しばらくすると、サイフォンがギランを抱きか抱えながら、むくりと起き上がる。俺の両隣で寝ていたベルとミリンも起きる。
サイフォンは、「私達はそろそろ起きませんと」と言って、自分に張り付いて眠っているギランを俺に押しつける。
ギランは寝ぼけ
「堅ってぇ……」と、ギランが呟く。そりゃ、サイフォンの方が柔らかいだろう。
しばらく、ギランの体温を感じながら二度寝する。
そんなギランの両手首には、真っ白い腕輪がはめられている。おねだりされて作ったのだ。ララヘイム10人組の方も、随時何かを造っていく予定にしている。材質は、俺の石灰分とエナメル質を混ぜたものだ。
・・・・
しばらく二度寝していると、朝餉の香りが漂ってくる。さて、今日もそろそろ起きるか。サイフォンとナイル伯爵との面会はまだ先だ。なので、今日もウルカーンで過ごす。今日の俺の仕事は、すでに決まっている。それは……
・・・・
「よく来た千尋藻。荷物はこれだ」と、トマト男爵が言った。
「まいど男爵。荷物了解。予定通り、お昼前までには余裕で着く」と、返した。
ここは貴族街。エリエール子爵の屋敷の勝手口だ。
今日の仕事は、
そろそろエアスラン軍対ウルカーン軍の戦闘が始まるため、彼らも一応、街の前線に配備されたのだ。手弁当で。要するに、自費で防衛に当たっている。
そこで出された輸送任務を引き受けたのが俺達。この位置で
今日は、大八車とロバの
冒険者パーティ『雪の音色』は、女性と元男性の女性二人パーティで、以前居酒屋で出会ったのだ。二人ともスカウトで、他の冒険者パーティのサポートに入ることを前提としたパーティだ。
ギルドを通して連絡を取ってみたら、直ぐに連絡が取れ、貴族がらみだということで直ぐにOKしてくれた。今の時期は、貴族と知り合えるチャンスなのだとか。
「では、今日の任務は、こちらの荷馬車一台と文官2名の輸送および護衛だ。荷物はまだある。お前達が運ぶと聞いているが。おお、その大八車か。懐かしいな」と、トマト男爵が言った。彼とはネオ・カーン脱出で一緒だったから、当然俺達の大八車は知っている。
「そうですね。これを引くのはロバの飛沫山号です。お見知りおきを」と返す。
トマト男爵は、「おおそうか。あの時は自分達で曳いていたからな。よろしく頼むぞ飛沫山号」と言って、ロバの首を撫でる。
飛沫山号は、にたりと笑い、「ぶひ(ふっ任せておけ)」と返した。
トマト男爵は、おお、賢いななどと言っている。動物好きみたいだ。
今日の任務は、トマト男爵らが手配した馬二頭引きの荷馬車を俺達が護衛して、防塁にいるエリエール子爵に届けるという任務だ。防塁には、子爵とバッタ男爵、それらの私兵が防衛任務に就いている。
トマト男爵はお留守番で、こういった後方支援任務を行っているらしい。
今回、大八車も出せると言うことで、荷物を追加し、このパーティ編成で輸送任務に就く。もちろん、俺も参加する。
戦線の様子が気になるのと、教え子達の様子を見たいからな。
「じゃあ、ヘアード、荷物を大八車に積み込んで。マルコとアイサは荷馬車の用意」
皆が一斉に動き出す。
・・・・
貴族区の外で仲間達と合流し、ぼちぼちとバッタ達が布陣する防塁に向かう。
俺とネムは、ロバの飛沫山号の横で
ヒリュウと冒険者パーティ『雪の音色』の二人は、荷馬車の屋上に座り、短弓を持って辺りを警戒している。
ガイのおっさんは、スレイプニールに乗って先頭をかっぽかっぽと進んでいる。
馬上からガイが、「いやあ、千尋藻さん、貴族の仕事取ってくるなんてな。あんたら御用商人だったんだな」と言った。
「別に御用商人ってわけじゃない。ネオ・カーンから一緒によ、命からがら逃げ出して来た仲だ」と、返す。
「あはは。御用商人一歩手前ってか。俺も運が良いぜ。旦那達に出会えたんだから」と、ガイが言った。
「運はともかく、そのスレイプニールの調子はどうだ?」と聞いてみる。このスレイプニールは、俺達の所有物だ。今はガイに貸し出して、彼が仕事をした何割かを馬主の俺達が受け取っている。今回は、タイミングが合ったので、俺達の仕事を手伝って貰っている。
「めちゃくちゃ良いぜ。ガストンのやつ。最高級のスレイプニールを卸しやがった。きっと、旦那の人柄のお陰だぜ」と、ガイが言った。おっさんだというのに、少し興奮しているようだ。
「それは何よりだが、前を見ろ。到着まで気を抜くな」
この辺りは大丈夫だと思いつつも、戦争において、
ここはすでに城壁の外なのだ。ゲリラ兵なら、いくらでも忍ばせることが出来る。
気が弱い俺は、スカウトを雇ってまでこの日帰り任務を遂行しようとしている。
俺の千里眼を偵察に使うかどうか迷うが、実は、明日の分の輸任務も受けており、今日は訓練も兼ねている。俺も毎日輜重隊というわけにはいかないし。
しばらく、てくてく、かぽかぽと進むと、「12時、バッタ発見!」と、荷馬車屋上のヒリュウが言った。
直ぐに千里眼で上空から俯瞰すると、戦闘メイド達が布陣する防塁が見えた。予定どおり、お昼前に到着したようだ。
俺は振り返って、「よし。皆後少しだ」と言った。
全員、特に疲れた様子を見せず、頷いたりサムズアップしたり、ウインクしたりしてみせた。
・・・・
「あ、千尋藻さん、こちらです」と、バッタ男爵の所の僕っ子が言った。バッタのやつ、この子を戦場に連れてきているのか。まあ、戦場といっても、都心部から徒歩3時間の距離だし、戦場にも意外と文官が必要らしいのだが。
ここの防塁は、延長三百メートル、高さ三メートルほどで、俺の身長では、地面に立つと向こう側は全く見えなくなる。
その防塁の随所に、武装したメイド服の戦士達が武器を持って立っていたり、座って単眼鏡を覗いたりしている。ここは最前線から約2日の距離だ。だからと言って、気を抜いていい訳ではない。むしろ、ここが実質的に最終防衛ラインなのだ。
しかし、本当に戦闘メイド達が実戦配備されている。
どのメイドも俺を見るとにこりと笑ったり、軽く手を振ってくれたり、バッと敬礼してくれたり、地味に嬉しい。いや、めっちゃ嬉しい。
彼女らは、みんな俺の教え子達だ。俺は、全員の尻の撫で心地を熟知している。
祖国のため、家族のため、己の若い命を掛けて、ここの守りに就いている彼女達は、尊敬に値する。
ネムも彼女らに敬礼をしている。ネムは知り合いも多かろうと思ってここに連れてきた。
「ネム、ヒリュウ、
俺はそう言って、一人でバッタ男爵が待つテントに入っていった。
・・・・
「よく来たな千尋藻。どうだ? 戦争は金が掛かるだろう」と、バッタ男爵が言った。彼は、ここにおいてもフリフリのドレスを身に纏っている。このぶれない所は尊敬するが……
さっと、ズボンスタイルのシックな給仕服を纏った僕っ子がお茶を運んでくれる。
「ワシはな。ここにいるマツリを養子に迎えることにした」と、バッタが言った。
「え?」
マツリとは、目の前の僕っ子の名前だったはずだ。
「マツリは平民の孤児だ。それを養子にするということは、男爵としてのワシの家は、次はないということだ」と、バッタ男爵が言った。
バッタ男爵は嫁も子供もいない。しかしそんなこと言われても、何も言えないのだが。
俺が言い淀んでいると、「まあよい。この度はご苦労だった。契約は明日もだな。ところで、戦況を聞くか?」と、バッタ男爵が言った。
「あ、お願いします」と、返した。明日、俺は輸送任務は仲間達に任せようと考えている。聞くなら今日しかない。
ここで、バッタ男爵からもたらされた情報は……
それは、エアスラン軍が、ついにウルカーンの野戦陣地に到着したということ。
昨日より、実は野戦陣地でにらみ合っているらしい。
これまでの経緯は、ウルカーンから2日ほどの距離に、ウルカーン軍1万が野戦陣地を構築開始。続々と後続を送るも、大軍ゆえなかなか軍の集結はならず。そうこうしているうちに、エアスラン軍がその構築中の野戦陣地に到達。そしてにらみ合い。
だから今日はこんなにピリピリしているのか。
「戦況はどう?」
「今日は到着初日だ。様子見だろう。最初はお互い射程距離や敵にどんな兵が混じっているか確認してくるもんだ。双方被害はほぼ無いだろう」と、バッタ男爵が言った。ネオ・カーンは奇襲だったけど、それはこの戦争の緒戦だったから可能だったのだろう。
「そっか。結構長く掛かるのかな」
「今回、我が国ウルカーンは籠城の構えだ。攻めのタイミングは、あちらにある。だから何とも言えぬが、相手も長く時間を掛けたくは無いだろう。こちらの援軍が届いてしまうからな。一方、我が国はシラサギに待機させている騎兵500を遊軍にしようという策もあるが、果たして……」
今、ウルカーン軍は、援軍を構築中の野戦陣地に向かわせようとしている。エアスランはそうはさせじと開戦を急いだ。どうなることやら。
だが、少なくとも直ぐに敵がここに押し寄せるということはなさそうだ。
「千尋藻、今日の帰りには、ワシの娘をトマト男爵の所に送り届けてくれ。書類の輸送を頼んでおる。明日またこちらまで送り届けてくれ」と、バッタ男爵が言った。
マツリの方に視線を向けると、彼女はにこりと笑った。
天幕の外をチラリと見ると、童貞熊達はすでに荷物を下ろし終えているようだった。さて、ここでの任務は終了かな?
俺は、「分かった」と言って、この場を後にした。
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