第105話 次の目的地は……

バッタ男爵と面会したその夜のこと……


「と、言うわけで、まだウルカーンには滞在する予定だけど、エアスランとウルカーンの戦況は、情報共有しておきたい」と、俺が切り出した。


「はあ~。ウルカーンが、国内のララヘイム人を追放しかねない新法を制定する動きがあるとはな」と、デーモン娘のジークが言った。相変らず紫色の美乳の持ち主だ。今日も谷間をさらけ出している。ちらちらとガン見しておく。


「それって、私達に飛び火しないわよね」と、トカゲ娘のシスイが言った。こっちは相変らず白い。


それに関してはサイフォンが、「今検討されている特定奴隷制定法、国家叛逆罪改正法、特別税制改正法の三つは、別にララヘイム単独を名指ししているわけじゃない。なので、ウルカーン人とその同盟国以外には、いつ牙を向けられるか分からないような内容ではあるみたいね」と返した。


「ウルカーンがこんな変な法律を検討しているとは。今は、絶対王政から如何にして立憲主義に移行するか模索している時だと思っていたのに」と、冒険者パーティ『炎の宝剣』のリーダーが言った。意外にも、この世界は貴族主義からの脱却が検討されているらしい。エアスランとララヘイムはいち早くそれに着手していると聞いたが。


「そうね。私達の情報によると、ウルカーンは貴族の私兵を制限し、国軍を強化しようとしているとの情報があった。この動きと連動されたら危ないわね」とシスイが言った。


今、ここには俺達とモンスター娘のキャラバン隊の責任者達が集まっていた。情報共有と今後の方針を決めるためだ。それにしても、近代化を目指しているように映るウルカーンだが、今回の施策は、確かに時代に逆行しているように感じられた。


「そうなると、ナイル伯爵からの面会依頼もかなりきな臭い」と、俺が言った。


「そうね。ララヘイムゆかりの貴族筆頭だもんね。当然新法の動きも知っているだろうし」と、サイフォンが引き継ぐ。


タイミング的に、新法成立は、当然、今回の戦争が関係しているのだろう。


「もうすぐ、ここから南方二日くらいの距離でウルカーン対エアスランの戦闘が始まるってことだし。ネオ・カーンに五万の兵を集めているエアスランと、目標二万の兵がまだ集まっていないウルカーンの対戦だからなぁ」


ただ、ウルカーン軍は野戦陣地を築いて防御に徹するだろから、単純に数で負けているからといって負けるとは限らない。


「ふう。うちらは、ウルカーンでの用事はもう少しで済みそうだ。クロサマの報酬はまだ未確定だが、荷馬車曳きの化け蜘蛛は後二日で入荷される」と、ジークが言った。


クロサマというのは、悪鬼専門の傭兵で、今はシラサギにいる。そして、ついにあの巨大荷馬車を曳く化け蜘蛛を購入することが出来たのか。これで、俺の荷馬車曳きは引退かな。


「うちの荷馬車はどう? 小田原さん」


「順調だ。軍に卸す戦車や輜重隊向けの荷馬車はほぼ納品済だ。後は貴族からの依頼もあるが、そこは約束通り、うちらの荷馬車の仕事を優先してもらっている。こちらの荷馬車が完成するのも、あと数日だ」と、小田原さん。


「そっか。ケイティの魔道具と短剣やらの換金は?」


「私の魔道具の加工費はタダになりました。こちらもあと数日です。ついでに、短剣の売値が700万に値上がりに。クメールさんの宝剣は500万即金で売れる見込みです」と、ケイティが言った。


「ほう。そりゃあまたどうやって……」


短剣の売値は600万だったはずだ。クメールの宝剣も予想よりずいぶん高い。


ケイティは澄ました顔で、「あの魔道具屋の女性店長とは仲良くなりましたから。宝剣の方は、ヴァレンタイン伯爵の元夫人の親御さんにご購入いただく予定です。あ、それから、彼女をネオ・カーンから救出したお礼も今交渉中です。おそらく200から300万くらいにはなるでしょう」と言った。


こ、こいつは……きっとマジカルTiNPOを使っているに違いない。そのうちあの卑猥なスキル持ちは高級店や貴族街に出入り禁止になるのではないか。だが、今は助かる。いや、ケイティも、今がどういう時か分かっているからこそ、頑張っているのだと信じたい。


「それだけあればスレイプニールも後1、2頭は追加しておくか? 今は2頭で、荷馬車を曳くのも2頭だからな。騎乗護衛分がない」と、俺が言った。


「だが、うちらで騎乗護衛が出来るのは、ガイのおっさんだけだぜ? 雇うのか?」と、小田原さん。


「まあ、信頼は置ける人物のようだし」と、俺が返す。この世界には、人攫いがいるのだ。信頼できる護衛は多い方がいい。


しかめっ面をして考え事をしていたジークが、「話は変わるが、お前達は、ウルカーンの状況次第では、東の港町スイネルに行こうとしているってことでいいのか?」と言った。


「まだ分からんけど。サイフォンとこの依頼がどうなるかだな。俺達みたいなのに大物貴族が家族の疎開の護衛なんて頼んで来ないとは思うけど。俺達別に何処行く当てもないし、とりあえずスイネルでもいいかなと考えている。ここもきな臭いし」と、俺が言った。


例の新法が可決・施行された場合、最悪、外国人の俺達、とりわけララヘイム人11人衆が何らかの迫害を受けるかもしれない。しばらくウルカーンからは離れた方がいいと思う。


しかも。スイネルに行けば、合流が早いかもしれない。


ゴンベエはエアスランの豪族『ヨシノ』出身の忍者で、俺が先日クメール将軍の暗殺を手伝ったご褒美の交渉のために、里の長と面会する手はずになっている。そのご褒美にゴンベエを選んでもいいらしいので、俺はそうしようと考えている。


なお、俺達の本当の目的である『世界の異分子』探しは、別に急ぐような事でもない。戦争のほとぼりが冷め、俺達の組織が強くなってからでもいいだろう。今、そっち方面はぼちぼち情報収集する程度でいいと判断している。


腕組みしていたジークが顔を上げて、「お前達がそこに行くんなら、俺達の次の予定も『スイネル』にしていいぜ」と言った。


「ほう。確かノートゥンかティラネディーアに行くって言っていた気がするけど」と、俺が応じる。


ジークは、「そっちの二つは今大軍をウルカーンに送っているから、多分街道が詰まっている。ノートゥンに行くならスイネル経由がいいだろう。それになぁ、スイネルだったら、俺達の本国と連絡が取れるんだ」と言った。


モンスター娘の母国『タケノコ』は、島しょ部にあって、海洋国家だ。港街であるスイネルとは海で繋がっているから、連絡が取れるのだろう。


「ううむ。ひょっとして、次の行き先は決まり?」と、俺が言ってみる。要するに、次はスイネルだ。


「自分はその意見に賛成だぜ。このウルカーンも少しきな臭い。当面はその予定で準備を進めるか」と、小田原さんが言った。


「私も異議無し。私の準備は後3日くらいですね」と、ケイティ。


「まったく、ここにいると良い情報が入る。僕らも、スイネルまで護衛として付いて行きたいんだけど」と、炎の宝剣のリーダーが言った。


それを聞いたジークは、「分かった。炎の宝剣との契約は更新しよう。それでは、出発はこれより4日後に行われるサイフォンとナイル伯爵との面会を待って、方針を決めよう。とはいえ、どちらに転ぼうとも長居は無用だ。いつでも出発出来るように、準備を行おう。目標は、ここから7日の距離にある港街スイネルだ」と言った。


方針は決まったな。


なんだか、ずっとエアスランの進軍から逃げているような気もするが、戦争に加担しない以上は仕方が無い。まったく迷惑な話である。


だが、俺達の本当の目的は、『世界の異分子』の排除。戦争で右往左往していていいものか。


最初はウルカーンの巫女に会いに行くと言う考えもあったんだけど……だけど、俺達は所詮、神の手のひらの中。それならば、別に好き勝手動いてもいいだろうと考えた。


作戦会議の後、色々と所用を済ませていると、今日の晩ご飯の時間となった。メインは、地下迷宮から大量に持ち帰ってきたシジミ料理だ。お酒を沢山飲んでも、次の日の二日酔いは緩和されそうだ。


ところで、うちら陣営には、新人である病気のステラや種付け師のアイサ、ポーターのマルコや童貞熊もいる。結局こいつらには居座られてしまった。頼む仕事も沢山あるし、ちゃんと働くのだから仕方が無い。今、騎馬弓のガイは、自分で受注した護衛任務で外に出ているが、戻って来たらヤツにも今回の話をしないといけないだろう。


さて、これからどうなることか。俺は、東の港町に思いを馳せながら、ウルカーン名物蒸留酒をちびちびとたしなんだ。

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