想い人に光を放つ山女達が住まう隠れ里の物語。
激しい女達の劣情は、繊細で、傷つきやすく、それでいて大胆で、したたか。
狂おしいほどの思慕を募らせる女の一途さと狂気を見事な筆致で描いた傑作です。
巧みな描写は読み手の視覚と触覚を否応なしに刺激し、揺さぶり、昂ぶらせる。
まるで体の芯を掻き毟るような、それでも核心に届かないようなもどかしさ。
活字から伝わる柔らかな指で神経をゆっくりと愛撫するような感覚に、読み手も身悶えすることでしょう。
燃えるように官能的でありながら、冷静で残酷。
生娘のように初心でいて、狂女のごとく穢れている。
人間が内包する相反する二つテーマを男女の営みをモチーフに鋭く切り取った作品に思わず溜息が漏れました。
凄いです。
主人公の思考回路は、女そのもの。妬み、嗜虐心、自分のことしか考えない。大事なのは、自分の愛する男だけ──。男への情念。それが徹底している。
女は恋した相手に光濡れる。情欲の光。男は、その光る肌の合せをかき広げられれば、断ることはできない。
なんという淫靡で蠱惑的な世界。
そして、ヒーローがもう、格好良くって、甘くて、焦らして、からかう事を言って、「尊い夫」「極上の男」を体現してるんですよ。
───一度、肌が重なれば止まる術がなく、流れ落ちる勢いだった。
閨が惜しげもなく語られ、主人公の光が奔流となり、ごうと燃え盛るんですよ。
大好きな共寝シーン沢山あります。
私は堂々と言っちゃうよ!お子様や低俗な欲で読書する輩には太刀打ちできない世界だもんね!
物語の隅々から、暗紫紅の炎がほの暗く燃え続けています。焼かれますよ?
大人である紳士淑女の皆さまには、自信を持っておすすめします。
他の方も書かれている通り、この物語とにかく凄い。
人間のありとあらゆる汚い部分はどす黒く、反面、恋する女が光る様はなんと美しいことか。
両極端の情景が渦巻いて、容赦なく迫ってきて圧倒されました。
ラストシーン、主人公かすみは夫の燈吾からある言葉を言い放たれ自分の欲望を自覚します。
強欲な彼女は強く、とても印象的で、大好きになりました。
彼女の野望がどうなるのか、見果てたいと思った瞬間でした。
そして燈吾については・・・
好きだけど嫌いだ、嫌いだけど好きだ!
この男に抱いた矛盾する感情の持って行きようが今のところ・・・ない。
ないのでこれ以上言えないし、今のところ言いたくもない。
読み終えて涙が出た。
まさかWEBでこういう小説が読めるとは思わなかった。
作者様にただただ有難うございましたと言うばかりです。
安是の里では、女は恋をすると光る。
比喩でもなく、本当に体が光る。愛しいひとを思って頬を染めるように、誰にも譲らぬと熱く猛って。
主人公のかすみは、そんな里でたったひとり光らない女。
彼女の母の悪行によってかすみは里の中でも「かすのみ」と蔑まれ、里人たちから侮蔑の目で見られ、あるいは無視されて生きてきた。
そんなかすみを光らせたのは、黒狐の仮面を被った物の怪――燈吾。彼はかすみにとって唯一、自分を認め、愛してくれたひと。
かすみと燈吾の、許されざる愛の物語……かと思いきや、これはそんな軽々しい言葉で一括りにしてはいけない物語です。
恋情、憎悪、嫉妬、欲望、絶望……あらゆる感情が濃く美しく、時に醜くリアルに描かれていて、読んでいてもずっと息苦しくなるほど。まさに物語に出てくる「黒沼」に飲まれてしまうかのよう……。
人間の醜い部分がこれでもかとあらわにされ、それは主人公かすみでさえも例外ではない。
とても深く、濃い、物語でした。
何かもう……すごかった(語彙)。
せつない、つらい、激しい。
この作品を読んで燃え尽きたのは主人公ではなく、読者である私でした。
主人公のかすみの感情の激しさに揺すぶられ、物の怪の夫である燈悟に翻弄され、愛され、夢見て、裏切れて――。
かすみは滓の実か、幽の身か。
文明が開花する頃、未だ古き因習に囚われた隠れ里でかすみは生まれ、虐げられてきました。
安是の里の女は恋をする光に濡れる。
光に濡れるというこの言葉の淫靡さは、読んでみないとわかりません。安是の里の誰にも光らなかったかすみが、物の怪の夫の前だけでは光り濡れる。このえもさ。唯一無二の比翼の連理を体現してくれるこの出会い。それが、最後の最後でまさかの。
燈悟のことに触れてしまうと、この物語の真髄に触れてしまうので控えますが、何より貴い。この夫婦、里の誰よりも貴い夫婦なんです。
かすみは己の身が蔑まれる身であると知っていても、この貴い夫に釣り会えるようにと、なんでもします。かすみからすればなんでもという言葉は嫌だろうけれど、なんでも。
かすみの身体は夫のために光り濡れるものだから、その身体に無体を強いる者を、彼女は許さない。その強さに惹かれてしまうのです。
尊い夫婦を取り巻く因習の謎が一つずつ紐解かれ、かすみが強かながらも狂っていく様をその一番そばで見ているのが、私たち読者です。
どうして、どうして、燈悟、救ってよ……!
違うんです、かすみが救いたいのは実は。
救われてほしい、報われてほしい、読み終わった時にのまさかの着地点に、涙が止まりませんでした。
ぜひ、皆さんもこの作品に狂わされてください。