第170話

気付かれること無く背後に回り込み、相手の姿を確認する。


『灰色のローブ?白なら神官も着ているが、珍しい色だな。しかし、その姿からして邪教の関係者っぽいぞ』

内心でツッコミを入れつつ、行動を監視する。


人数は八人で、全員が同じローブ姿。

そのせいで、男か女かの判断はできなかった。

ただ、全員が小さな棒の様な物を持っている。

それを俺は、その形状から『魔法の杖』であると判断した。


前にエスクラさんが持っていたのを不思議に思って質問したことがあったのだ。

基本的に魔法には必要無い。

使うとすれば、高度な魔法を使う時と、威力を増加させる時ぐらいだろう。


高度な魔法を使う時は、杖で魔力の操作を補助する感じで使用する。

威力を上げる時は、少ない魔力で威力を増加させるように使用する。


どちらにも専用の杖があって、違う杖を使っても効果は無いのだ。

で、今回の場合なら・・・威力を上げるためだろうな。


俺がパッと見る感じでは、ローブの者達の魔力はそれほどでも無い。

威力の低い魔法でも連続して使えるのは十数回程度だろう。

通常通りの威力向上の杖なら、五割増し程度。

上陸部隊の不意を突いたのなら、それなりに被害が出ただろうが、今は俺の指示で警戒中。

とても大きな被害が出せる状況では無い。

きちんとした指揮官がいるなら、ここで無理に攻撃せずに撤退を指示するだろうが・・・さて、どうする?


・・・指揮官はいないようで、そのまま攻撃を強行するみたいだ。

たった八人なら、俺だけで制圧できるのだが、明確な攻撃意思が確認できないと不味い。

何故なら、ローブの者達が盗賊などでは無いと思うからだ。

明らかな犯罪者だと分かっていれば、こっちから先制もできるが、こういう場合は判断が難しいのだ。

俺は邪教の関係者だと思っているが、それを証明する明確な証拠が無いというのが痛い所である。


そんなこんなで監視を続行してるんだが・・・何故か動かん!

ジッと上陸部隊を見ているだけで、攻撃を始める様子が無いのだ。


こりゃあ単に監視してるだけじゃあらちが明かんな。


「おい、お前らは俺達に敵対する者か?」

俺は隠密を解いて、背後から声を掛けることにした。


「っ!何ヤツ!」

「それはこっちが聞いてる。敵か?味方か?イルシャか?それ以外か?どれだ」

「何故イルシャの名を知っている!」

あっ!確定!

こいつら邪教の関係者だわ。

なら、とっとと制圧しとこう。


何やら杖を構えて俺を攻撃しようとしてたが、余りに遅い。

全員の鳩尾に一撃入れ、呼吸困難状態にしとく。

それから上陸部隊の人間を呼んで拘束させて、二人ほど混ざってた女性以外のやつらを身体検査。

女性の方は、流石に犯罪者だって言っても女性の体を男が調べるのは問題ありそうだったので女性兵士の到着を待つことに。

調べた結果は、怪しげな小瓶を複数持ってたり、変なペンダントをしてたり、悪趣味な指輪をしてたりしたが、杖以外に武器らしい物は小瓶が怪しいくらいか?

どうやらペンダントがイルシャの目印みたいだった。


沖に停泊してる船から、信号旗で『灰色ローブは邪教の関係者らしい。注意せよ』と情報を伝達。

俺達は遅れてしまったが包囲するための移動を開始した。


ちなみに小瓶は・・・各種毒薬だった、あぶねぇよっ!


割れるだけでも危険なので、全部俺が回収しといた。

無限庫の中なら安心だからな!


移動中にも何人かずつ見張りがいたが、俺が手持ちの麻痺薬で全部無力化。

ニジに頼んで魔粘張糸で縛って転がしといたから、後で回収しないと。


少々遅れたが、囮の船が到着する前に、何とか周囲を包囲することができたのだった。

結構大変だったぞ、見張りが多くて・・・


目的地になっていた場所は、小さな漁村の跡地だった。

今では人は住んでいないようで、荒れ果てた様相をしてる。


小さな入り江になっていて、両側に出っ張った崖があって船の通れる幅が狭い。

水深も深くはないようで、ボロボロになってる船着場までは入ってこれないだろう。


ギリギリで形を保ってるあばら家が何軒かあるが、あの中に取引相手の邪教の関係者がいることは、俺の気配感知で分かっていた。


さて、隊長はどうやってヤツラの気を引く気なのか?

あらっ!小舟に・・・檻?を積んで、船から降ろし始めたぞ!

なるほど!あの檻に取り引きのための子供が入っていると思わせる訳か!


小船が船を離れて、こっちに向かい始めた。

ここからでは、檻の中は確認出来ない。

これなら、たぶん囮だとはバレないはずだ。


そしてそれは小船が半分ほどまで来た所で起こったのだった。


いきなり両側の崖の上から火魔法が飛び出したのだ!

それも大量にだ!


ザット見で三十ほどか、その全てが船に向かっていた。

たぶん今頃は船上が大変なことになってるだろうが、俺達はこの場を離れる訳にはいかなかった。


だいたい何で?取引相手を攻撃するんだ?

金が払いたくないのか?

でも、今までは普通に取り引きしてたんだよな?

訳が分からん!


あっ!そうだ!

確か儀式がどうのって・・・二・三ヶ月だったか?

もう用無しってことか!

ってことは、邪教のヤツラこっちを殲滅する気ってことだぞ!

それは不味い!

隊長達の乗った船も、船着場に到着すれば直ぐに攻撃されるぞ。

檻の中の子供さえ無事なら、ヤツラには他の人間は必要無いからな!


俺は、包囲に参加してる上陸組に指示して、直ぐに包囲戦を始める事にした。


「小船が着く前に制圧するぞ!」

俺に続いて周囲の兵士達も走り始めた。


俺が飛び出したのとほぼ同時に、残ってたあばら家からも人が出てきた。

その中の数人は俺達に気付いていたようで、既に俺達に向けて杖を構えていた。


これだけ味方が多いと味方にも被害が出るから範囲魔法は使えない。

ならば!威力の小さな魔法の数で押し切ってやる!

土魔法の土球、初歩の初歩な魔法だが、俺が使えば違うってところを見せてやろう。


俺の頭上に土球が一つ、二つ、三つと増えてゆく。

最終的には総数六十を超える数の土球が浮かぶことになった。

俺はそれを一斉に、解き放った!

なかなかの魔力を込めただけあって、着弾した土球はチュドン!と言う着弾音で周囲に暴威を撒き散らしていた。


辛うじて形を残していたあばら家も、俺の土球で吹き飛ばされてバラバラになっていた。

直撃したヤツもいるようで、絶叫が響いている。

最悪手足の一本くらいは吹き飛んでる可能性はあるだろうが、そんなことに構っていられるか!


そんな中に一人、黒の縁取りと金の刺繍が施された灰色のローブを着た者がいる。

間違い無く、そいつがこの場で一番偉いヤツだろう。


俺はソイツを確保するために走り出す、他の下っ端に用は無いからだ。


あと数歩で攻撃範囲に入ると感じた時、ソイツの雰囲気が変わった。

さっきまでは普通に人の気配だったが、変わった今は・・・高位の魔物の様な気配に変わっていた。


『・・マジか?』

余りの突発的な出来事に、俺の足も自然と止まっている。


ソイツはゆっくりと俺の方に振り返った。

・・・コイツ絶対にまともじゃねぇ!

ってか、絶対に人間止めてるだろ!巫山戯んなよ!



俺が見たローブのフードの下には・・・人間の顔は無かったのだった。

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