第167話
船尾の穴から打ち上げた火魔法の合図は、確実に味方にも敵にも見えただろう。
合図を終えて通路に戻ると、そこには四肢を砕かれて転がった
船員達は自分達の
まあ、海に飛び込んで魔物に襲われずに陸に辿り着く以外逃げ道などないのだから、後は包囲するだろう味方に任せるつもりだ。
それより、この転がっているヤツをどうするか?それが問題だった。
しゃがみ込んでヤツの顔を覗き込もうとしたんだが「ドガーン!」と巨大な何かがぶつかった轟音が響いた。
・・・たぶん帆を張ろうとしたんだと思う。
切れたことで落下した帆布と取り付けられていただろう吊り
甲板上にいる船員達も、自分達に逃げ道が無いことを理解しただろう。
大人しく諦めて投降してくれれば楽だろうが、どこにも往生際が悪いヤツはいるし期待薄かもしれないな。
特に俺の方にやって来る気配が無いことを確認して、再度床の人物に目を向けた。
すると、こう言う時に良く起こる現象が発生した。
『更生対象がいます。〈導く者〉から更生に特化した能力が新たな称号として分離しました。〈更生人〉の称号が与えられます。対象者の更生を実行しますか?』
・・・称号とかスキルって本当に自由過ぎ、俺のことなんてお構い無しかよ・・・
『ちなみに対象者って、コイツかな?』
『対象者は、リーダーの敗北により戦意を喪失したと見做されるリーダーを含む百三名です』
・・・アイツラが逃げ出したからか!
たはー、また要らないスキルとかが大量に集まりそうな予感が・・・
でも、更生ってことを考えると、回収した方が平和なんだろうな。
・・・仕方無い『実行してくれ』
『完了しました。更生対象者百三名。更生結果は『それは聞かなくて良い』・・・終了しました』
いちいち百三名分もの再取得したスキルを聞く必要は無いだろ。
それよりも、コイツが死にそうだ。
俺が抉った右肘からの出血が惨いので、回復薬をブッ掛ける。
低級の回復薬だったので骨折は直らないが、血は止まったようだ。
怪我の状態を確認したところで、外が騒がしくなってきた。
やっと、後続部隊が到着したのだろう。
こりゃあ、俺が尋問する必要は無さそうだ。
しかし、コイツを普通に担いで運ぶのは面倒だな。
あっ!風魔法で浮かせば良いのか!
ちょっと魔法の応用的な使い方を思い付き実行してみると、案外上手くいった。
そのまま通路を抜けて階段を登り甲板に出てみると、戦闘らしい戦闘は無かったのか、既に制圧が完了していた。
「エドガー!」と叫んで駆け寄ってきたのは隊長だった。
「無事か!怪我は!」と騒がしい。
「特に問題無いぞ。コイツがここの頭らしい」と浮かばせていたヤツを降ろす。
「何で浮いてたんだ?」
「担ぐと通路で戦闘になった時に邪魔そうだったから、魔法で浮かしてたんだ」
「魔法か!」
「で、子供は?」
「別の船に保護してる。お前の従魔も一緒だったぞ」
まあ、俺が足止めしてたんだから、無事だってのは分かってたが確認は必要だからな。
「見た感じ制圧は終わってるみたいだが?」
「まだ、船内の確認が始まったところだ。隠れてるやつがいるかもしれないからな」
確かに、その可能性はあるな。
俺なら空間魔法で調べられるが、それで彼らの仕事を取るのも違うだろうし。
「なら、怪我人は?回復薬を持ってるから有償で提供しても良いぞ?」
「はは、ありがたい申し出ではあるが、こっちもそれなりに用意はしてある。それに包囲して乗り込んだ時点で降参してたもんで、戦闘は無かったんだ」
「そうなのか?」
「他の船では、それなりに戦いになったみたいだが、この船は全く」
頭を斃したからかも?
ってことは、俺のせいか?
でも必要な戦いだったしな、仕方無いだろ。
「分かった。それでだが、こいつらから情報を収集するんだろ?その情報、俺にも教えてくれないか?」
「気になるよな、それは分かるんだが・・・正直何処まで教えられるかは保証できないぞ」
「言える範囲で良い。また出くわしたりした時に、知っているのと知らないのでは対処が変わる可能性があるだろ?」
「エドガー、そんなにトラブル体質なのか?」
「言ってくれるなよ。俺も必要無いと思ってるんだが、どうにも出くわす確率が高くてな・・・」
「そうか・・・ご愁傷様だな」
警備隊の隊員に呼ばれて隊長が離れるまで、俺が潜入してからの話をして別れた。
その後は甲板の手摺に凭れ、警備隊の仕事を見ながらアンバーに念話を送った。
『アンバー、遅くなった。怪我も無く無事だからな』
『お、遅いわよ!いきなり滅多に使わないスキルの気配がするから心配するじゃない!』
『あぁ、一人ちょっと手強そうだったから、怪我しないためにな』
『もう良いわよ。それより、何時頃合流できそうなの?』
『制圧は終わったみたいだけど、まだ船内の捜索とかの最中だから、まだ時間が掛かるんじゃないか?』
『そうなの?やることが無いなら、こっちに来れないの?』
『どうだろう?わざわざ船を動かしてもらうのも迷惑じゃないかな?』
『小舟で来れば良いじゃない』
『その方法があるか!ちょっと確認してから、また連絡するよ』
『ええ、待ってるわ』
アンバーの心配性が発症してるみたいだ。
こういう時のアンバーって直接俺の姿を見ないと安心しないんだよな。
さて、そうなると小舟の使用許可が出るか確認しないとな。
さっきまで一緒だった隊長を探しに甲板をキョロキョロしながら歩き出すのだった。
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