第151話
「こんにちわ。特注してたエドガーだが・・・」
「はーい。ああ、来たね!できてるよ」
前回と同じガラス製の展示台の前で声を掛けると、同じ女性が応えてくれた。
「これなんだけど・・・」と出されたアクセサリーは、俺がイメージしてたのよりも見栄えが良い。
「良いな、これ!俺のイメージよりも良い感じだ」
俺の返事に、何となく微妙な顔を返してくる女性の態度に首を傾げる。
「これ、思ったよりもスペースが取れなくて、本当に小さな紙一枚くらいしか入れられないのよ」
微妙な顔の原因を教えられて納得!
最初から、それで良いと言ってたんだけど、彼女的にはそこが引っ掛かっていたようだ。
「それって誘拐対策って意味か?」
俺が感じた彼女の引っ掛かりの原因を確認してみた。
「そうなの、もう少し容量を確保できないとね」
そう言うので、何故容量が必要なのか?を確認すると、中に固有の魔力を放出する物を入れたいらしい。
その固有魔力を辿れば、誘拐された従魔を発見できるはずだと言う訳である。
ただ、入れる物が小さ過ぎると放出される魔力も少ないので、探すのが難しくなると言うことらしい。
そう言われて、俺も従魔の誘拐は気になっていたので少し考えてみることにした。
従魔と従魔師の契約に別の人間が介入するのは不可能に近い。
つまり俺の予想通りだと、従魔が生かされたままとは考え辛い。
どこかで殺され、素材にされていると思っているからだ。
そんな状況になると分かっていて、追跡だけを考えても遅いと思う。
俺なら、従魔が身を守れるような結界を出すなどの方法が必要だと思う。
ただ結界を出すような魔法の効果を持つ魔道具は、従魔の体より大きな物になるからアクセサリーにはできない。
ここまで考えて、対策を考えるための情報が足りないと感じた。
「なあ、その誘拐ってのは、どんな状況で起きてるんだ?街の中なら従魔と従魔師は一緒に行動してるだろ?」
「それはね、寝込みを襲われてるらしいのよ。宿とかに侵入されて、眠ってる間に薬で動けなくされて、従魔だけが誘拐されるの」
「それはまた大胆な犯行だな」
この会話で分かったことは、誘拐をしているヤツラは魔物のことを良く知っていると言うことだった。
どんな薬を使えば魔物を行動不能にできるか?どんな魔物に薬が効くか?そういう知識が無いとできないことだからだ。
魔物には耐性を持ったものがいるから、こういう知識が無いと、どこかで捕まっていたはずである。
それが未だに犯行を続けられていると言うことは、それなりの知識があると言うことの証明だった。
ここから推測できるのは三つ。
薬の知識がある人間が仲間であること。
魔物の知識がある人間が仲間であること。
宿屋に簡単に侵入できる人間が仲間であること。
他にも、仲間はいるだろう目標になる従魔を見つけたり監視する人間も必要だし、どこかにアジトを作ってるなら、そこの見張りも必要になる。
後は、素材を売買するにも仲間が必要になったりするだろう。
そう考えると、かなり組織的な犯行だと言うことが分かってきた。
俺も従魔を連れている以上、気になりはするし、警戒すべき犯行ではあるが・・・
この情報から俺が導き出した答えは、アクセサリーに対策しただけでは到底誘拐に対処はできない!というものだった。
「そんなぁー、少しでも可能性は無いの?」
「そう言っても、誘拐した従魔をどうしてるのか?も分からないんじゃ、対策のしようも無いだろ?俺の予想通り殺されてしまうなら、その時点で終わってるからな」
まあ、こういう答えをしてるが、良く考えれば俺や相棒達は〈状態異常無効〉を持ってる時点で薬などは無効化される訳だ。
つまり宿屋で寝込みを襲われても、問題無い。
逆に犯人を
まあ襲ってくるかは分からんけど・・・
しかし誘拐する意味が良く分からん。
素材目当てなら、犯罪を犯すより買った方が安全だし、冒険者なら自分で狩った方がギルドの評価になる。
余程珍しい従魔だって言うならまだしも、そう言うやつは耐性持ちも多い。
耐性の無い従魔ってことだと、そこまで珍しい従魔はいないだろう。
本当に目的が分からないんだよな?
まあ、そこは後回しにしてアクセサリーの方だな。
アクセサリーに魔力が定着すると購入しなくてはいけなくなるので、特殊な手袋を着けてからアンバーとニジに合わせてみる。
どちらも思っていたよりも良い!
『アンバー、どうだ?俺は似合ってると思うんだけど』
『綺麗ね。耳の下の方なら音も気にならないし、邪魔にもならなそうよ。気に入ったわ!』
アンバーに用意したのはイヤーカフスみたいなピンク系の色のアクセサリーだ。
みたいって言うのは、体の大きさが変わるので実際に耳を挟んでる訳じゃ無いってこと。
そう見えるようにデザインしてもらった訳だ。
『ニジはどうだ?ニジの色に合わせてあるんだが』
『・・・場所・・・背中・・・が良い・・・』
ニジ用のアクセサリーは、アンバーと似たデザインだが色合いをニジのオーロラ色に似せてあって、ブローチみたいな形状にしてる。
形はどっちも三日月をモチーフにしてる。
「凄い可愛い!」と背後で見てたファルエットが騒ぎ出した。
まあ、俺も相棒達も気に入ったんで購入を決定。
代金は驚きの安さだった。
聞いてた値段と違い過ぎるので、驚いてると「アイデア料の分安くした」だって。
要は、あの入れ物にするって言うアイデアを貰ったから、それが値引きになったと言うことだった。
「安いのはありがたいし払うよ」と金貨六枚を支払って終了!
良い買い物をさせてもらった。
そのまま一緒に店を出たファルエットも工業区を出るらしい。
宿に戻るのかと思えば、新しい宿を探すのだと言う。
理由は、宿が埋まってしまって延長ができなかったらしい。
「なら、俺の泊まってる宿に案内しようか?従魔可の所を探すの時間掛かるだろ」
「良いの?良かった!お願いしようと思ってたの」
なるほど、最初からその気だった訳ね。
「エドガーは明日何か予定があるの?」
「特には無いけど、どうかしたか?」
歩いてる最中に翌日の予定を聞かれるって!
「実は・・・」
マジ?マジなのか?
「少し付き合ってくれない?」
マジかー!来たかー!
「それって、デー「さっきの従魔誘拐の件が気になって、一緒に従魔師ギルドに行ってくれない?」・・・わ、分かった」
違ったー!くそー!
「でも何で一緒に?」
「あそこに行くと凄い勢いで勧誘されるから一人だと困るのよ。男性と一緒に二人で行ったら、多少でも緩和されるかなって思って」
「なるほど、俺は露払いってことか。良いぞ、俺も前に勧誘されたことがあるが、かなり強引だったからな。女性一人だと大変だろう」
「助かるわ!やっぱり従魔関係の情報は従魔師ギルドに集まるから、確認しておいた方が良いしね」
情報収集か、確かに必要だろうな。
そうやって、明日の予定を話しているうちに宿に到着していた。
*** *** *** *** *** ***
白い石造りの部屋の中、とても高価そうなソファーに寝転がった人物がいた。
「ええぇ!変異種がどっちもやられちゃってるじゃん!折角時間掛けて育てたのにぃー、もうっ!」
苛立ちの混じった少し高目の声が響く。
「参ったなぁ。こっちの大暴走も何時の間にか全滅してるしぃ!」
癇癪を起こした子供のようにサイドテーブルを叩いている。
「ちぇっ!神殿も何か変なのに邪魔されてるみたいだし面白くないなぁ」
そう言ってサイドテーブルの足をカッン!カッン!と蹴り飛ばす。
その振動で、テーブル上のカップが揺れて中のお茶がパシャパシャと飛び散っていた。
「ボクの仕掛けでバタバタ慌てる人間達を見たいのに、どれもこれも失敗ばかりでボクは不機嫌だぞぉ!」
どこの悪戯小僧だ!と言う感じで両手を頭上に振り上げてバタバタと振り回している。
「やっぱり他人任せじゃダメだよね!今度のは仕込が始まってるけど、任せ切りじゃなくてボクが指示しよう!ビュルギャの時も、もうチョットだったし、今度は途中で帰ったりしないぞ!最後まで見届けるんだ!」
楽しそうに次のことを考えるその人物は、心から楽しそうに宣言していた。
*** *** *** *** *** ***
ファルエットも問題無く宿を取ることができ、俺は自分の部屋に戻る。
直後、余りの自意識過剰さと、その恥ずかしさで、ベッドに飛び込んだ。
聞かれてないよな?
態度が変わってなかったし大丈夫なはずだ。
ああー、何であんなことを思ったんだ、俺!
ましてや、それを口に出そうとして・・・馬鹿だろ、俺!
やっぱり、俺に恋愛は無理だよ。
女性の気持ちなんて、欠片も分からん!
危うく墓穴を掘り掛けたし、もう意識するのはヤメだ!
今まで通り、普通に、普通に、行動しよう!
ベッドにうつ伏せになって、ブツブツ言ってる俺を、相棒達が冷ややかな目で見ていることに俺は気付いて無かった。
『・・・アンバー・・・主・・・どうした?・・・』
『気にしなくて良いわよ。エドガーの経験不足が招いた自業自得だから(私がいるんだから他のメスのことなんて考えなくても良いのに、もうっ!)』
何とも容赦の無い念話も俺には届いていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます