第117話
段々とゴブリンの数が減ってきた。
こりゃあ、そろそろかもしれない。
「キャス、先行して確認してきてくれ」
「分かったよ」
足音も立てずに素早く動き出す彼女の後を、ゆっくりと進む。
これだけゴブリンの数が減ってれば、彼女が捌けないなんてイレギュラーはそうそう起きない。
まあ、何かあれば声を上げれば良いだけだしな。
いくらも歩かない内に、彼女の背中を捕らえた。
横穴を覗き込んでる彼女に近付き過ぎるのは良く無い。
直ぐに拳を突き上げて全員を止まらせる。
俺達の気配に気付いた彼女も直ぐに合流してきた。
「不味いよ。キングがいる」
何てこった!
「クィーンや他は?」
「上位種が四体。でも、ほとんど動けないみたい。キングは流石に不調は無いみたいだった」
ふむ、放置は不味いがキング単体なら何とでもなるな。
エドガーの薬のお陰で助かったな。
「いつもの要領で行く。キャスは遊撃だが、先に四体の上位種を始末してくれ。背後から狙われるのは困る」
「分かったよ」
「キングだから物理攻撃が主体だ。遠距離で狙うのはローベンが目、エスクラは足。どちらかが潰れたら楽になる」
「「了解」」
「行くぞ!」
飛び込んだ場所は広くなっていて、奥にゴブリンキングが立っていた。
俺の盾を先頭に、左にガビム、右にエドバン、後ろにローベンとエスクラ、遊撃のキャスは既に右側の上位種に走っていた。
流石にキングは状態異常に耐性を持ってるだけあって、動きに違和感は無かった。
エドガーの薬も余り効いて無いのだろう。
それでも多少の効果はあったのか、目が真っ赤になっていて涙を流した跡があった。
走り込んで行く俺達に向かって、馬鹿デカイ剣を振り上げている。
俺が正面、左にガビム、右にエドバンでキングの前方を塞ぐ。
キングが剣を振り下ろす。
俺は盾で受けながら右に受け流す。
全力で振り下ろされた剣を、この方向に受け流すと、相手は体勢が崩れるのだ。
俺の作った隙を上手く捉えたガビムが大剣をキングの右脇腹に叩き込む。
痛みで更に体勢が左に傾くと、そこには待っていたようにエドバンが攻撃を繰り出す。
左右の攻撃に怯んだところに足に向かってエスクラの風の魔法が襲い掛かる。
後退りしかけた軸足を狙った攻撃で、キングの足が縺れた。
崩れた体勢、泳いだ目線、その目を狙ったローベンの矢が飛んで行く。
咄嗟に顔を動かして、その矢を避けるキング。
完全に魔法と矢に意識を奪われて、ガビムとエドバンのことを忘れている。
背後に移動した二人は左右からキングの首に向かって、それぞれの剣を横薙ぎにした。
声も無く両断されたキングの首が宙を舞った。
直後に吹き出る血を避けるように、皆が遠巻きにキングの体が倒れるのを確認する。
予定通りの完璧な連携だった。
そんな風に考えていると「ガル!エスクラ!来て!」とキャスが奥の方で騒いでいる。
俺達がキングを斃す前に、彼女は上位種四体を片付けて周囲の調査をしていたらしい。
「何か見つけたのか?」
「コレを見て!何かの陣みたい」
キャスが指す先には、地面に魔法陣らしきものがある。
俺には何の陣だか、さっぱりだったが、エスクラはジッとその陣を睨んでいた。
「エスクラ、何の陣なんだ?」
「・・・最悪の魔法陣よ。このゴブリン騒動、このままでは終わらないかもしれないわ」
「どういうことだ?ゴブリンは殲滅しただろ」
「これは隷属の魔法陣、隷属させたモノを、その場所に縛る陣よ。つまり、誰かがゴブリンを隷属させ、この場所に縛ったってこと」
「それは・・・第三者が介入してると言うことか?」
「そう。仕組んだ誰かがいることになるわ」
「・・・・・・報告が必要だな。一端撤収しよう」
「ガルとエドバンは私と残って。他の皆は先に出て、洞窟の前から人を遠避けて。洞窟内のガスを外に排出するわ」
「確かに、俺達やエドガーしか入れないんじゃ不味いな」
俺達は三人を見送って、その場に残る。
「ガルは、どうするつもり?」
「何が?」
「この騒動の顛末を見届けるのか?ってことよ」
「いや、そのつもりは無い。戻って報告をしたら、スロー・モンキーの方を片付けて、その後は予定通り南に向かう」
「それで良いの?気になるんじゃない?」
「確かに気にはなるが、政治絡みの可能性があるだろ?貴族の権力争いに巻き込まれたく無い」
「そう。じゃあ、戻ったらエドガーと話し合いね」
「そうだな。エスクラが、やらかしたお詫びをしないとな」
「もうっ!まだ言うの!」
「事実だしな」
「ううぅー」
「ガル合図だ」エドバンの声で、エスクラに指示を出す。
「私の前に出ないでね。風舞!」
いつもと違う空気の流れに不思議に思っていると、どうやら下から上に風で巻き上げる風舞を横向きに使っているようだ。
これなら中のガスを外に押し出せるだろう。
いつもながら既存の魔法を上手く使うもんだとエスクラの腕に関心していた。
*** *** *** *** *** ***
みなが囲んで見ている中途半端な大きさのゴブリンを横から確認する振りでスキルを回収する。
そしてその結果、疑問が解けた。
『ラージゴブリンのスキルをストックしますか?』
なるほど!ゴブリンじゃなくて、ラージゴブリンと言うのか。
ゴブリンの上位種とも違うようだな。
確か、ゴブリンが上位種に進化すると、ソード、スピア、スタッフ、マジックってつくはずだ。
たとえば、ソード・ゴブリンとかマジック・ゴブリンって感じ。
その中にラージなんてつくとは聞いたことも見たことも無い。
ならば簡単な話で、こいつは変異種ってことだ。
変異種は、発生条件がマチマチで、ほとんど何も分かっていない現象だ。
魔物だけに発生し、元になった魔物より強力になることだけが判明してる。
コイツも、体格が元より大きいのだから、強力になっていると言えるだろう。
俺の疑問は解決したが、その結果を教えてはやれない。
何で、変異種だと分かったか説明できないしな。
取り敢えず『はい』と答えて、スキルの回収をしておいた。
スキルの確認は街に帰ってからだ。
こんな衆人環視の中ではできないからな。
そのまま、その場の議論から外れ、続きを確認しつつスキルの回収を進めた。
洞窟前のゴブリンの確認が終わる頃、洞窟から"守護者の盾"の内三人だけが出てきた。
「これからエスクラが魔法で洞窟内のガスを排除するから、洞窟前から離れてね」
その言葉で周囲の魔法使いが洞窟前に二列に並んだ。
何も指示しなくても自然に動けてるあたり、実力がある魔法使い達なのだろうな。
俺の予想だと、たぶん排出されてきたガスを上空へ散らすつもりだろう。
案の定、俺の予想は当たった。洞窟から排出されたガスと上空高くに運び拡散させているようだ。
俺達、周囲で見守る者達に一切の影響が出ていないことからも、なかなかの腕前であると感心した。
俺も訓練しないとな、などと考えてしまった。
それにしても、これだけ時間が掛かったってことは、だいぶ広い洞窟だったのだろうか?
そんな疑問は、ローベンさんの説明で解けた。
「奥にはキングがいました。我々で討伐済みです。ただ、洞窟内には、ここより多いゴブリンの死骸があるので、全員で手助けしてください」
キングか!ってことは、千以上のゴブリンがいたってことになる。
外に出て行く前に討伐できて良かったってことだな!
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