第43話 閑話 マレナ

来週には私も十五歳になるわ。

成人の儀式をして、この孤児院から出て行く事になるわ。


でも、私は孤児院を出て働くことに自信が持てないのよ。

だって、私スキル無しなんだもの。


それじゃあダメって分かってるの。

だって、私の一つ上のお兄ちゃんもスキル無しだったのに、今は働いて一人で生活してるんだもん。


一つ上のお兄ちゃんってのは、エドガーお兄ちゃんの事でね。

去年までは、この孤児院で一緒に生活してたんだ。


お兄ちゃんは、何か神官様のことが嫌いみたいで、いつも避けてたけど、私達には優しかったのよ。

今でも時々コッソリとやって来て、私達にお菓子をくれたりするの!

だいたい一ヶ月に二回ぐらいかな?


今度来た時に、スキル無しの事を相談しようと思ってるんだ。

たぶん明日辺り来てくれるんじゃないかな?



やっぱり、私の予想は当たったよ!

お兄ちゃんが来てくれたんだ!

今は小さい子達にお菓子を配ってる。


いつもお兄ちゃんは「お菓子を配るのは小さい子から」って言ってるの。

だから、その間は大きい子は待ってるのよ。


だって前に孤児院に来たばかりの大きい子が順番を守らなかった時に、お兄ちゃんが怒ったのよ。

いつも優しいお兄ちゃんが、その時は凄く怖かったの。


「この孤児院にいるのは、お前と同じように親のいない子供達だけだ。そんな場所で、お前は小さい子を守ってやる事もできないのか!」


そのあとも何か二人で話してたみたいなの。

それでね次の日になったら、その子が凄い変わってたの。

ビックリしたのよ!

お兄ちゃんが何か話したんだと思うんだけど教えてくれなかったの。


あっ、順番がきたわ!


「お兄ちゃん!いつも、ありがとう!」

「どういたしまして」


ニッコリ笑い掛けてくれるお兄ちゃんは、いつも通り優しかったよ!


いつもは、みんなでお菓子を食べて、少し話をしたらおにいちゃんは帰ってくんだけど、今日は私の所に来てくれたの。

前にお願いしてた、スキル無しの相談の事だと思ったわ。


「マレナ、俺について来てくれるか?マレナのスキルの事で話があるんだ」


やっぱり!

私の答えは決まってるわ。

「うん!私がお願いしたんだもの」


離れた場所に移動したら、お兄ちゃんが凄く真剣な顔で話し始めた。

「マレナ、俺がこれから言う事や教える事を秘密にできるかい?できるなら、もしかしたらマレナがスキル無しじゃ無くなるかもしれない」

大事な話なんだと思って真剣に聞いていたら、何かとんでもない事を言われちゃった。

どういうこと?

秘密を守ればスキル無しじゃ無くなる?

私、スキルがもらえるの?

ウソ?

でも、お兄ちゃんが嘘なんて言わないと思う。

ってことは、ホント?

何が何だか分かんないよぉ!


「混乱してるだろ?分かってるけど、時間が無いんだ。できれば考える時間を作ってやりたかったけど、準備に時間が掛かって今になってしまった。本当にゴメンな。でも、今しかチャンスが無いんだよ。成人の儀式の前じゃないとダメなんだ」

何か準備してくれてたの?

でも時間が掛かっちゃったんだね。

で、成人の儀式までしか時間が無いのか・・・

なら、お兄ちゃんを信じるしかないね!


「信じるよ、お兄ちゃん!秘密も守るよ!」

私は、そう返事をしたよ。


「分かった。マレナが、そう言ってくれて良かった」

それから時間を掛けて、私にも分かり易いようにおにいちゃんが色々説明してくれたの。


お兄ちゃんが神官様と仲が悪いのは、お兄ちゃんが神官様を嫌いだからだって。

理由は、神官様が良く無い嘘を吐いてるって言ってた。

その中の一つが、成人する前だったらスキルを貰えるかも知れないって事。

つまり、私もスキルが貰える可能性があるんだって。

でも、成人の儀式が終わるとダメみたい。

だから時間が無いって言ってたんだね。


でも神殿で儀式しないとダメなんじゃないのかな?


えっ!別の神殿があるの?

どこ?

神殿の裏の森の中!


これから起きることは秘密なのね、分かった!

もしスキルが貰えても、それも三年間は秘密。

三年経ったら、スキルが貰えたって言っても良いらしいよ、なんでだろう?


お兄ちゃんの事は信用してるけど、ホントかなぁ?



それから神殿の裏の森に行ったんだけど、本当に古い神殿があったの。

中には今の神殿の神様の像とは違う像が置かれてたの。


「ここでお祈りをするんだ。お祈りに作法は無いけど、どんなスキルが欲しいか思い浮かべて、真剣にそのスキルが欲しいってお願いするんだよ」


お作法関係無いの?

神官様、お作法にうるさいよ。

欲しいスキルを思い浮かべるって、選べるのかなぁ?

私の欲しいのは、裁縫スキルかな?

可愛い洋服とか作ってみたい!


『お願いします。可愛い洋服作りたいです、裁縫スキルが欲しいです』


お兄ちゃんの事を信じて、一生懸命お祈りをします。

何回目かのお祈りで頭の中に『裁縫スキルを得ました』って声がして、びっくりして目を開けてお祈りを中断しちゃいました。


*** *** *** *** *** ***


マレナがお祈りを始めて少し経ったところで『称号 導く者 を獲得しました』という声が頭の中に響いた。


おっ!称号って何だよ?初めて聞くぞ!

スキルと違って確認する方法が無く、どうしようか?と悩み掛けたところに続きの声が聞こえた。


『称号の恩恵として、スキル複製スキル、スキル付与スキル、スキル鑑定スキルが与えられます』


はぁあっ!なんじゃそりゃっ!

スキル、スキルってスキルばっかじゃないかぁ!

突発イベントにアタフタしてると、マレナが突然目を開いて顔を上げた。


あっ!スキルが貰えたな。

俺の方は後で確認すれば良いから、今はマレナの方を優先しよう。


「マレナ。スキルを貰えたか?」


*** *** *** *** *** ***


びっくりして固まってたら、お兄ちゃんに話し掛けられたの。


えっと、貰えたよスキル。


「何だった?」

欲しかった、裁縫スキルだったよ。

とっても嬉しい!


「良かったな。だけど、さっき約束した通り、三年間は内緒にしてるんだぞ」

分かってるよ!みんながスキル無しだって知ってるもん。


「そうだ。それが突然スキルがある!なんて言ったら、神殿から出られなくなったりするかも知れないぞ」

えっ!ウソ!そんなことには・・・なるかも・・・


「神殿の教えと違う事が起きてることになるから、可能性はあるぞ。だから、秘密は守るんだぞ」

うわっ!怖いよぉ。



でも、お兄ちゃんを信じて良かったよぉ。

私もスキルが貰えたんだもん!

秘密だけどね。

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