第56話

とても可愛いが、とんでもない相棒を連れて二の村に戻った。

アンバーにも言っておいたが、神獣は珍し過ぎて問題が起きるのが目に見えてたから、普通のという事にしてもらった。


今は、俺の肩の上にいる。

ときどき、スリスリしてくるのが非常に可愛い。

ちょっと顔がニヤケそうになるが、そこは我慢である。


「女将さん、戻ったよ」

宿屋の入口で声を掛けた。


「おや、早かったね。・・・ところで、その肩の猫はなんだい?」

宿屋の奥から出てきた女将さんに聞かれた。


「今日拾ったんだ。小さいし可愛いだろ。でも、小さ過ぎて、一人で生きてくのは難しそうだから世話しようかと思ってね」

そう告げたのだが、女将さんは厳しい顔をしてる。


「あんた冒険者だろ、猫の世話なんてできるのかい?飼う以上責任てもんがあるんだよ」

言われる通りであるが、それは言われるだろうと思ってたことでもある。


「大丈夫、何とかなるよ。もしダメそうなら、別の飼い主を探すから」

そう言っておく。

この子神獣の子供だから戦闘もできるよ、とは言わないし言えない。

アンバーは今の姿が本当の姿ではないらしくて、本来は体長が俺の身長より大きいんだと。

スキルの効力で小さくなれるらしくて、今の大きさになってるらしい。


「そうかい、まあ、きちんと責任を持つってんなら何も言わないさ。で、盗賊を連れて行くのかい?」

そう、その通り。

アジトの情報も間違ってなかったし、この情報を討伐隊に買ってもらう必要がある。


だって、盗賊も人質も遺体も放置してきてるから。


「分かったよ。でも歩いて連れてくのかい?時間が掛かるよ?」

・・・ヤバっ!考えてなかった!


「時間的に考えるなら荷馬車より馬だけど、あんた馬は乗れるのかい?」

ダメです。

乗った事ありません。


「うちの旦那が乗れるから、三人乗りで連れてってもらっても良いけど三人だと余り早くは走れないよ」

おおー、旦那さん乗れるんだ。

三人乗りは俺も勘弁して欲しいし、俺は走ろうかな。


「あんた、まさか馬と同じように走れるのかい?」

馬も走りっぱなしは無理だろうから休憩するだろうし、たぶん次の村ぐらいまでなら持つんじゃないかな?


「流石は冒険者なんだね。なら旦那に頼んできてあげるよ」

そう言って奥に行きかけた女将さんに追加の銀貨四枚を差し出した。

だって、一日一人銀貨二枚でお願いしてたからな、これから馬まで出してもらうなら妥当だろ。


「ありがたく貰っとくよ」



それから準備をし、宿屋の旦那さんと一緒に盗賊を馬に乗せ、村を出発した。

最初は俺が走って行くと言うのを半信半疑で信用していなかった旦那さんも、じっさいに走って着いて行く俺を見て納得した様子だった。


途中に三回休憩を挟んだが、最初の休憩の時に興奮気味に冒険者って凄いんだなと言っていた。

俺はスキルのお陰ですと言って、誰でもが同じ事ができる訳では無い事を強調しておいた。

下手な事を言って、他の冒険者が困るのも不味いだろうと思ったからだった。


一の村に到着して最初に討伐隊の事を確認すると、昼過ぎに到着して野営の準備をしているところだと教えられた。

ならばと、その野営地に向かう。


「そこの者達、止まれ!ここは辺境伯軍の盗賊討伐隊野営地である」

不用意に近付いたせいか、警戒されてしまったようだ。


「すいません。その盗賊についてお話したい事があって二の村から来ました。責任者の方とお話できませんでしょうか?」

少し距離があるので大き目の声で話しかけた。


だが「碌でも無い情報など必要無い!」と言って取り次いでもらえない。


そんな感じで、同じようなやり取りを続けていると、向こうから明らかに上官らしき人物がやって来るのが見えた。


「何を騒いでいる?」

その上官らしき人物が、俺の話を聞かない兵士に向かって問い質した。


「これは副騎士団長、お騒がせいたしました」と頭を下げる兵士。


「だから、何を騒いでいると聞いている」

「それは・・・」

どう見ても、その兵士の独断専行だったと見て取れる状況に、俺から話しかける事にした。


「すいません、副騎士団長様。俺が取次ぎをお願いしていました」

スっと俺に目を向けた副騎士団長の目が、話の続きを促していると感じたので話を続ける。


「実は、盗賊団の仲間を捕らえました。そこで情報を喋らせ、盗賊団のアジトの場所を聞き出したのです。その情報と捕まえた盗賊を買い取っていただけないかと」

これには副騎士団長も驚いたのか、少しだけ目付きが変わった。


「付いて来なさい。話を詳しく聞こう」と奥のテントを示す。


「旦那さん、ここまでありがとう。ここからは俺の仕事なんで」と言って馬から盗賊を降ろし、副騎士団長の後を付いて行くのだった。



テントに入り、盗賊を隅に転がして話を進める。


俺が冒険者で、旅の途中である事。

二の村に宿泊している時に、怪しいヤツを森で見つけて捕まえた事。

それが最近話題の盗賊団の仲間だった事。

アジトの場所を聞き出し、確認してきた事。

その情報を届けるために、ここまで捕まえた盗賊を連れてきた事。


そこまでを全部話したのだった。


「その過程で、人を雇ったりして見張りを頼んだり、運ぶのに馬を出してもらったりと費用が掛かっているんです。で、そこら辺を情報料として貰えないかと」

そこは正直に金銭を要求しておく。


「なるほど。その情報が確かなら、アジトを探す手間が無い分、遠征費用も抑えられる。報酬を支払うに値するとは思うが、根拠がな・・・」

確かに根拠は俺の証言だけって、信用はされないか。


「俺の情報を先に教えますので、その後にコイツを尋問するなりして精査すれば良いのでは?」と提案してみる。


「情報が正しかったとして、支払いは?」


副騎士団長の問いに「ギルドにお願いします」と答えると、あからさまに表情が和らぐ。

たぶん、この場で現金を要求されたら偽情報だった時に困る事になるからだろう。

俺としては現金の方が良いが、この状況では無理だとあきらめた。

まあ、盗賊団が根こそぎ捕縛状態なので、俺の関与を疑われるかも知れないが、俺が帝国に入ってからギルドで金を受け取ればすむ話だしな。


「分かった、情報を聞こう」

そこから、用意してもらった紙に簡単な地図を書いて場所や、アジトの外の状況を説明した。

その後、盗賊を連れ出し何処かで尋問したのだろう。

副騎士団長が戻ってきた時には、手に一枚の書類を持っていた。


「尋問の結果、君の情報は正しいと判断した。報酬は金貨四枚とする。ただ、この報酬を受け取れるのは討伐が終わり、私が領都に戻って手続きをしてからになる。これは報酬を払うと言う念書だ。これをギルドに持ち込めば報酬は支払われる」と念書を貰う。

俺の見込みでは金貨二枚だと思っていたから、倍の金額に文句は無い。



俺はそのまま討伐隊の野営地を離れて領都に向かうつもりだったのだが、何故か副騎士団長に「このまま討伐隊に同行してくれないか?」と引き止められた。

俺には別の用事があって余り時間の余裕が無いと断って、無理矢理気味に野営地を離れたのだった。

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