第19話

ゼルシア様の屋敷に戻った途端、緊張が解けたのか急にもよおしてしまった。


「すいません。先にトイレ行っても?」とラズーレさんに聞けば「おお、行ってこい、緊張してたんだろ」って。


俺は、そそくさとトイレに入り用をたす。

その時に、手に持っていた物が何かが気になった。

そっと包まれていた布を捲ると、赤黒いが透明感のある宝石の様な物が出てきた。

「これって宝石か?」と声が出る。

そりゃあそうだ。

宝石なんて間近で見た事も持った事もある訳が無い。


俺は何でか分からないが、つい手を伸ばして表面に触れていた。


『ピーピュルリピーヒュルピーピュルキーン。大量のスキルが確認されました。ストックしますか?』

よく聞き取れない音の後に、聞き間違いようの無い声が聞こえた。


これって今までに二度聞いたアレか?

大量のスキル?って、どういうことだ。

訳が分からない。

特に理解不能なのが最初の聞き取れない部分だ。

前だったら「○○の」って感じで理解できる内容だったはず。

何故今回は聞き取れないような不快な音になってるのか?

・・・大量のスキルって言ってたよな?

大量にあるスキルの名前を短い時間で伝えようとするとどうなる?


そこまで考えたところで「おーい、エドガー大丈夫か?」と声が掛かった。

考えるのは一端お預けだな。


「はい、大丈夫です」とトイレを出ながら答え「緊張してたんですかね?余り意識してなかったんですが」と本当の事は言えずに誤魔化すしかなかった。


呼びに来てくれたのはラズーレさんの仲間のスレップスさんで「そうなんじゃないか?こういうのは初めてだったんだろ?」と結構気安い感じだ。


「まあ、何かあれば言いな。今は皆が待ってる」と前回と同じ部屋に連れて行かれた。


「エドガー、やっと来たんだわい」とゼルシア様に迎えられ席に着く。

テーブルの上には、今回入手した各種の証拠品や書類が並べられている。


「これだけの証拠があれば充分じゃないの?」

そう言ったのは冒険者の女性でエメラスさん。

背が高くて超が付くほど美人なのに強いって、何かでき過ぎじゃないですか?


「充分かと言われれば、不十分ですな」と答えたのは文官っぽいゲオルギラさんだった。

彼は「できれば、違法な人身売買で売られた誰かを見つける事が必要ですかな」と続けていた。


「うむ、ゲオルギラの意見は一考するべきだと感じるわい。が、神官に気付かれる前に事を進める必要があるのも事実。時間は少ないわい」

ゼルシア様も悩んでる様子。


凄く言い辛いけど「あのー、俺ってここに必要ですか?」と聞く。

だって、俺の分担って隠し通路とか隠し戸棚の仕掛けが分からなかった時の保険って話だったんだ。


「あー、そう言えばエドガーがここにいる必要は無いか!」「だねぇ」「確かに」と皆が俺の言葉に賛同する。

「そうだねえ、このまま帰すのもなんだねえ。少しの間そっちでお茶でも飲んでるんだわい」と食堂の方を指された。


俺は、さっきの宝石っぽい物のスキルの事があったし素直に了承して部屋を出る。

正直、スキルの事が気になり過ぎて、皆の話は余り頭に入らなかったのだ。

真剣に確認した方が良いと、心のどこかでかで感じてた。




エドガーが食堂に移動するのを待って誰かが口を開いたわ。

「今回の功労者はエドガーで決まりだな!」


あの情報の量と質、確かに間違いの無い事実だと思うわ。

あの情報が無ければここまでスムーズに事は運ばなかったわ。

情報の元は、運、が大半を占めるでしょうけど、それをゼルシア様に告げた事が大きいわ。

その事に、私を含めて皆が異論は無いと感じたわ。


「エドガーの事は置いておくとして、今後の動きをどうするかだわい」


ゼルシア様主導で話が始まったのを真剣に聞かないとだわ。




食堂でお茶を入れ、一息吐いてコレの事を再検討する。

さっきまでに分かった事は、大量のスキルって事と何やら高音の内容が聞き取れない部分があったって事ぐらいか。

大量のスキルって事は【ストッカー】に入り切らない可能性もあるし、さて、どうしようか?


・・・そういえばさっき、大量にあるスキルの名前を短い時間で伝えようとするとどうなる?って疑問を持ってたな。

どうなるんだ?

分からん。

『あれが仮に言葉だとするなら、言語学者のスキルで何とかならなかったんだろうか?』と疑問に思った瞬間。


『高速言語の解析をしますか?』とまたあの声が聞こえた。


またかよ!

高速言語?解析?

ああーもう『はい』だ!


『解析を開始します・・・終了しました』との言葉と同時に大量のスキル名が頭に流れ込んできた。


よく知っている農業、裁縫、猟師、漁師、運搬、木工、加工、飼育、売買、料理、清掃。

持ってるだけで危なそうな、殺人、暗器、調毒、怨念、盗技。

ハズレと言われてる、視力、聞取、大声、小声、閉心、開心、魔言、保持、早口、早足、見取、逃足、分別、筋力、投石、大食、びっくり、鼻歌、曲芸、拍手、運動、穴掘、水泳、掛声、着替、肩揉、読書。

意味の分からない、¥、/、+、-、&、?、=、%、HP、MP、EXP、DP、LP。


マジで大量のスキルだった。

一気に情報が流れ込んだせいか、ちょっと頭が痛い。

種類だけでも五十以上、総数で五百以上だ。

空きが十九しか無いし、とても【ストッカー】に納まりきらないぞ。

ってか、この宝石っぽいやつ、スキルを大量に保管できるのか?

もしできるんなら、ぜひ欲しい。

あっ!でも、スキルは【ストッカー】で取り出せるけど、どうやって保管するんだ?

ってか、どうやってこれだけのスキルをコレに入れたんだろうか?

その方法が分からないと使い道が減るんだよな。


疑問が疑問を呼んで、思考がパンクしそうなのに集中できない。

何故か?って、さっきからずっと『大量のスキルが確認されました。ストックしますか?』って繰り返されてるからだ。

返事をしないと繰り返されるって初めて知ったんだ。

いい加減、イライラしてきて『はい』と答えたら、その後がもっと惨かった。


『スキルが大量で【ストッカー】の容量を超えています。"保存石"を【ストッカー】と連携させる事をお勧めします』


はぁっ!

そんな事もできるのかよ!

もっと早く言ってくれよ。

そしたら変に悩まなくてすんだのに・・・


『連携が終了しました。スキルの自動合成を実行しますか?』


・・・もう勝手にやって欲しい。


それから幾つかの問い掛けにも『はい』と答えていたら、五百以上のスキルは随分減っていた。


知らなかったよ"下級職スキルマスター"を二つ合成すると"下級職スキルマスターⅡ"になるなんて・・・

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