第18話

今日は神殿でスキル付与の儀式が行われる日だ。

成人した俺には関係無いだろ?って、確かに通常なら関係無い。

だけど今回の作戦には重要なポイントである。

何故なら、神官や神殿関係者が全員儀式に出ているので神官の部屋などが無人だからだ。

一部警備の神殿護衛兵がいるが、それを回避するための隠し通路だしな。

って事で、儀式の開始を合図に神殿へ侵入する。


数名が不測の事態のために退路の確保として別れ、残りで隠し通路を目指した。


「ここだよ。この部分が隠し通路の開閉の鍵になってる。ここを押し込めるだけ押し込むと・・・ほらっ」

目の前でスライドする壁にみんなの視線が集中してた。


この隠し通路を通れば、神官の部屋や祭具の宝物庫などがある神殿護衛兵に護られた通路を通らなくても神官の部屋に入れるのだ。


隠し通路に入った所で二人を見張りに残し、残りの皆を先導しながら進む。

距離的には短い距離だが、慎重に音を立てないように進む必要がある。

何故?って、壁一枚向こうには神殿護衛兵が巡回している可能性があるからだ。


普通に歩けば二分ほどの距離を五分以上掛けて移動し、目的地に到着。

神官の部屋の壁の開閉をするためにしゃがみ込む。


「確かこの辺に・・・あった!」

次の瞬間、壁が静かにスライドを始めた。


見た感じ、神官の部屋に変化は無かった。


「では、手分けをして証拠の確保をしましょう」

ここからは俺に出番は無い。

文官っぽい人達の番である。

それでも、隠し戸棚を開けて中の物を出したりと手伝った。


証拠品を運んでいると、一番上にあった書類に気になる単語が見えた。


「藍銀?黄金?」と呟いたのを聞き取られたのか「どうかしたか?」と今回のリーダーであるラズーレさんに聞かれる。


「いえ、聞いた事の無い単語が見えて・・・」

「何だ?・・・藍銀と黄金・・・なるほど。黄金ってのは分かるだろ?」

確かに黄金だけなら分かる。

まあ俺には縁が無いけど金貨とかを稼げるようになれば見る機会も増えるだろう。


「この場合の黄金は、この新神教の事だ。で、藍銀ってのが旧神教の事だな」

そう言われても、そんな言葉だけでは意味がよく分からなかった。


だけど「今は急ぎだし、終わってから教えてやるよ」と言われれば確かに急ぎの最中であると諦めた。


暫くして「ありました。上層部からの指示書です」と誰かが言う。

「こっちもです。違法な人身売買の書類一式、購入者の名前もあります」と、次々に証拠が発見されていた。


作業開始からそれなりに時間が過ぎ、そろそろ儀式が終わって神官が戻ってくるかも知れない時間になった。


「そろそろ撤収する時間だが・・・大丈夫か?」と確認している皆を他所に俺は隠し戸棚が一つ開けられていない事に今更になって気付いた。


「ここの隠し戸棚開け忘れてます」

俺のその言葉に一斉に皆の視線が集まった。

俺は気になる皆の視線を無視して隠し戸棚を開ける。

中には一つだけ両掌に乗るくらいの何かが布に包まれて置かれていた。

俺は、それが重要な証拠かも知れないと手を伸ばす。

次の瞬間廊下から話し声と足音が聞こえてきた。


大慌てで隠し通路に皆が飛び込んで壁が閉まり切るのと、部屋の扉が開くのはほぼ同時だったと思う。

間一髪セーフと息を吐きたいところだったが、音を立てる事はできず皆が息を殺していた。


「今回は"当たり"がいませんでした」

「それは残念な事ですが、そうそう"当たり"は出ないでしょう」

「そうなのですが、色々と言われるのですよ」

「ご苦労様です」


何か聞こえる内容がヤバイ気がする。

これって間違い無くスキルの事と、違法な人身売買の絡みだろ?

『今に見てろよ!』と心の中で憤っていると、肩を叩かれ『行くぞ』と合図をされた。

静かに移動を開始し、見張り役の二人と合流。

壁に耳をつけて廊下に人の気配が無い事を確認し隠し通路の壁を開いた。

そのまま残りの人達とも合流。

一部危ない所もあったけど、神官に気付かれずに証拠を手に入れる事ができたのだった。


神殿を離れて、やっと一息吐いたところで俺が手に握り締めていた物に気付いた。

ギリギリだった事もあり、隠し戸棚の中身を咄嗟に掴んできてしまったのだ。

『不味いな、持って来てしまった』と後悔しても仕方無いが、どうやら誰も俺がコレをもって来た事に気付いていない様子だった。

確かに、あの瞬間、皆の意識は部屋の外と隠し通路に逃げ込む事に向いていた。

気付かなかったとしても不思議は無いのかも知れないと、そっと手に持っていた物を鞄に押し込んだ。

何か問題があるようなら後で相談するしかないだろうと諦め、ゼルシア様の屋敷に急いだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る