第59話 蛙の子は蛙

「それで。あんたはどうしてこれまで出てこなかったんだ」


「本当に何事もなかったかのように話を始めおったわい……」


 シロがこの世界の守護者だと言う女の子が戻って来たので、気になっていたことを聞こうとする。自然に会話を始めれば相手も少し前のことは水に流してくれるだろう。


「え?なんなの?この人、さっきあたしを放り投げたっていうのに、なにしれっと会話しようとしてんの?」


「確かに、急に上から落ちてきたから驚いた。まあ、この世界では吹っ飛ばされたり、体が無くなったりすることはよくあることみたいだからな。気にしたら負けだ。さっさと慣れな」


「なに経験者ぶって上からアドバイスしてんの!そもそもあんたが私を吹っ飛ばしたんでしょうが!大体、私はこの世界の守護者なの!ぽっと出のあんたなんかよりずうっと詳しいんだから!!」


 こいつすげえな。私の言葉全部にツッコミを入れてきた。お笑い界の新星を発掘したのかもしれない。というか、本当に守護者だったんだな。


「まじか!いやー、丁度困ってたんだよ。この世界は暗いし、知美に会っても吹っ飛ばされるし、他の奴らもなぜか私に厳しいしで散々だ。この世界に精通してるっていう守護者のあんたが居てくれれば百人力だ!」


「ふ、ふん。思ったより見どころがある奴じゃない。まあ?あたしも守護者でこの世界のことすんごくよく知ってるし?あんたがどーーーーーしてもって言うなら助けてあげなくもないっていうか?」


 こいつちょろいな。適当に持ち上げてやっただけで気持ちよさそうな顔してやがる。どこか誇らしげに語尾を上げる内向きの声が果てしなくうざいが、困っているのは事実なので我慢する。


「騙されるでないぞ。こやつは出会ったばかりのおぬしに手を上げるやばい奴じゃ。あまり心を許すでない」


 シロが余計なことを言うので、足を踏もうとする。しかし、何食わぬ顔でひらりと避けられてしまう。こいつ本当に私の守護者か?だったら私の味方をするもんじゃないのか。


「はぁ。こいつが私を適当に丸め込もうとしてるってことくらい分かってるわよ。けどね、この世界を守るためにはこいつの力を借りなきゃいけないのも事実。……こんな奴に頼らなきゃいけないってのも癪だけどね」


 女の子がため息を吐くと、ウジ虫でも見るような目で私の方を見ながら吐き捨てるように言う。あまりの変貌ぶりに、こんなに小さくても女なんだと、妙に感心してしまう。


「持ち上げられて気分が良くなって許してやった、ていう体にしようと思ったのに台無しよ」


 女の子の視線がシロに移り、続く言葉を受けてシロがうっと息を詰まらせる。

 女の子の言葉を聞いて、確信する。根に持っているけれども、表面上は許したということにして話を進めようとする面倒くささ。こいつ、知美の守護者だ。


「あんた、今失礼なこと考えたでしょ」


 女の子がぎろりとこちらを見つめてきて、その迫力にたじろぐ。


「いや、ちゃんと守護者やってるんだなって感心していたところだ。うちの若いのにも見習ってほしいもんだ」


「ふん」


 シロが鼻を鳴らしてそっぽを向く。拗ねているような様が少し可愛い。


「はぁ。この世界の問題を話さなきゃいけないっていうのに、ちっとも話が進みやしない。ほんと、どうしてこんなのが良いんだか」


 恨みがましい視線を向けられて反射的に憎まれ口を叩きそうになるが、ぐっとこらえる。自分の方から問題を話してくれるというのなら大歓迎だ。


「まずは自己紹介ね。あたしはアケミ。この世界の守護者。魔物に襲われてお姉ちゃんが光を失ったときにお姉ちゃんの前から姿をくらました最愛の妹よ」


 お姉ちゃん。光を失ったというからには知美のことだろう。その最愛の妹と自慢げに言いつつも、どこか自嘲するような様子に、妙に心がかき乱された。

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