第14話 救援

「…!?」


 飯田がふらふらと壁に近づいていき、弾痕をペタペタと触りだす。しばらくそうしていると膝から崩れるようにうずくまる。


 よくは分からないが、まずい状況らしい。ぼそぼそと素っ気ない口調でいた飯田からは、とても想像がつかない。


「おい、どうした」


 そんな珍しい様子を見て、つい声をかけてしまう。


 すると、飯田はすっくと立ちあがり、乱暴にこちらの左手を掴んで走り出す。


「おい!どうした」


 突然のことで少し体勢を崩してしまった。すぐに持ち直して飯田についていく。


「まずいことになった」


「あんたを見てれば分かるよ」


「……そう。…イクが助けを求めてる」


「隊長がか?」


「そう。じゃなきゃ、あんなところに撃ってきたりしない」


「遠くから撃ってんだ。たまには外すだろう」


「……ありえない。イクの能力が外れるわけがない」


「ああ、そうか」


 確か隊長の能力は弾丸を操ること。少しだけ外すことがあるだろう。だが、犬たちが近くにいない状況で弾丸が飛んでくるはずがない。

 それが起こったということは、隊長に何かあったということだ。


「信頼してんだな」


「…?」


「隊長のことだよ」


「…ああ。なんだかんだ長いから」


「……そうか」


 これまで通り言葉は短い。だが感慨深そうに糸を引くように言葉が残る。


 今も結構な修羅場だが、同じような修羅場を何度も潜り抜けてきたのだろう。


「で?」


「なに」


「どうすんだ。犬だらけだぞ」


 完全に見つかってしまった。いたるところから犬の鳴き声が聞こえる。


 様子をうかがいたいが、振り返って速度を緩めるわけにはいかない。


「ええ。20匹くらいいる。30秒もすれば囲まれる」


「どうすんだよ」


「あそこに行けば大丈夫」


 そう言って左側の建物を指さす。壁に大穴が空いているくらいで、別に特別なところはない。


 建物に飛び込むと飯田が叫ぶ。


「葉月!こいつら全員食い止めて」


「よーし。まっかせろー」


 飯田の声に葉月が応える。飯田が大声を出したことも驚きだが、ノータイムで答える葉月も驚きだ。


「分かってたのか」


「ええ。あの子なら大丈夫」


 飯田は葉月がいる方に逃げていたのだ。追っ手を葉月に擦り付けるつもりだったのだろう。


「そうだな。いい奴だったよ」


「って、勝手に殺すなー!」


 後ろから葉月のつっこみが入る。


「何してんだよ」


「いや、無理!あれは無理だって!!」


 葉月がこっちを追ってきていた。後ろを向くと顔を引きつらせて必死で走っている。薙刀を肩に担いでいるので自然と胸を張る形で走ることになって、余計に滑稽だ。


「さっき能天気に任せろって言ったじゃねえか」


「そうよ。葉月。役割でしょ。囮して」


「ひどい!ともちんまでひどい!!」


「……少し前に突っ込みが恋しいって言ってたのに」


 飯田が悲しそうに呟く。


「状況考えて!!今じゃない」


「そうだ。葉月。状況を考えろ。お前の犠牲で私たちは助かるんだ」


「ねえ!それ私助かってないよね!?」


「いいやつだったよ」


「まだ生きてる!勝手に殺さないで」


 そんなやり取りをしつつ飯田についていく。気に食わん奴だが、葉月がいると色々と深刻に考え過ぎていたのが馬鹿らしくなる。本人には絶対言ってやらんが。


「……来た」


 飯田がつぶやくと、きゃいんという犬の鳴き声がして、犬どもが戸惑う様子が伝わってくる。


「たすかったぁ……。さっすがたいちょー!」


「あいつが危険なんじゃなかったのか?」


「……そう思ってたけど、たぶん違う。危ないのは紗枝」


「ああ、なるほど」


「え、どゆこと」


 隊長がこちらを援護しているということは無事らしい。ということは護衛についていた紗枝に何かあったということだ。教官も一緒だったが、あれに何かあることは想像もつかない。


「要はあれだ。あたしらが紗枝を助けに行くから、お前と隊長で食い止めろってことだ」


「なるほど!さえちーのために足止めすればいいんだな!」


 援護があると分かって安心したのか、葉月がふんすと納得する。すぐに反転して犬たちを引き付ける。


 その直後周囲にもくもくと煙が立ち込める。


「イクの能力。はぐれないで」


 隊長が煙幕を張ってくれたらしい。飯田ははぐれるなと言うが、手を握られていてはぐれようがない。


「紗枝の場所は分かるのか」


「分かる。二分くらい走る」


「ああ」


 犬は葉月たちが引き受けてくれて撒くことができた。しばらく走ると、飯田が速度を緩めだす。息を整えながら走る。


「この建物の三階」


 目的地に着くと飯田が手をようやく放す。


「犬が二匹。紗枝が襲われてる……。あ…」


「どうした?」


「多分気付かれた」


「まじかよ……」


 ここにいる犬は恐らくただの犬じゃない。隊長を仕留めに来た精鋭だ。こちらの存在を気づかれたとなると殺すのは難しいだろう。


 天井の穴をくぐって3階に到着する。


 犬が二匹、紗枝の周りにいた。うずくまった紗枝3人分くらいの大きさで、筋骨隆々のほれぼれするような犬だ。


「無事か?」


「ふぇ?」


 紗枝が恐る恐る顔を上げる。こちらの姿を認めると一瞬明るい顔をして、はっと何かに気づいたように目を見開く。


「だめです!」


「……!?もう一匹!」


 紗枝が口を開くのとほぼ同時に飯田が叫ぶ。


 立派な体格の犬の陰から、人の肘から先の長さくらいの小型犬が飛び出してくる。


 とんでもない勢いで迫ってくる小型犬の速さに、瞬時に悟る。


 だめだ。間に合わない。


 気付くのが遅すぎた。回避しようとするが、自分の体が遅すぎる。


 一瞬が引き延ばされて、自分のことなのにどこか他人事のように感じる。


 自分はこのまま死ぬのだろう。


 そんな考えがすとんと胸に落ちて馴染んでいく。


 右手からぽろりとナイフが落ちる。


 そして右腕を伸ばし、突進してくる犬を下から上へ、手の甲で外側に押すようにして逸らす。


「ああ。くそ」


 引き延ばされていた時間が元に戻って、同時に現実感が戻ってくる。


 死を覚悟することは昔から何度もあったが、本当にやばいときはいつもこの感覚に見舞われる。


 懐かしさと同時に、過去の修羅場の記憶が呼び起こされそうになるが、不快感がそれを押し込める。


 手がじんじんしびれる。嚙まれないように犬の顔を逸らしたが、衝撃をもろに受けてしまった。指が動かない。右手はもう使えない。しびれているお陰であまり痛まないのが、せめてもの救いだ。


「関川!」


 飯田がこちらを呼ぶ。向こうは体格の良い犬の相手をしているようだが、そちらを見る余裕はない。


 小型犬が歯をむき出しにして唸っている。顔の肉が垂れて、しわだらけの不細工な犬だ。


「紗枝!とっとと逃げろ」


「む、むりです!自力じゃ動けないですぅ」


「なんとかしろ!!」


「ひぃ」


 犬が再び飛びかかってくる。不意打ちでなければ避けるのは簡単だ。兎と同じだ。


「ああ、くそが」


 兎との違いは空中で体勢を変えることだ。宙返りしてこちらの攻撃を避け、反撃を食らわせようとしてくる。


 今度はこちらから距離を詰めようとすると、右側に回ってくる。足を狙ってくる。


 こいつ、右手が動かせないことを分かってやがる。


 ステップして距離を取る。だが、このままだとすぐに追い詰められるだろう。


 一瞬思案していると、突然犬が吹っ飛ぶ。弱弱しく立ち上がるが、腹から血を出してぷるぷると震えている。


 隊長だ。


 最高の瞬間に援護してくれた。


 小型犬から目を逸らし、紗枝の下に駆け付けて小脇に抱える。


「撤収だ!」


「ひぃぃぃぃぃぃ!?」


 そのまま建物から飛び降りる。


 一瞬遅れて飯田がついてくる。その後ろには大型犬がいたが、一頭は隊長が射撃し、もう一頭は飯田が鞘で顔面を突いて足止めする。


「乗れ」


 下には教官が車で駆け付けていた。


「さっさと出せ」


「せっかちな奴だ」


 紗枝を放り投げて乗り込むと教官が発進させる。


「あ、あの……」


「なんだ」


 紗枝が伏し目がちに声をかけてくる。


「腕は……」


「問題ない。気にするな」


 まだ右腕はしびれているが、それだけだ。少し時間が経てば何ともないだろう。


「でも……」


 紗枝はそれでも何か言いたげだったが、結局言葉を飲み込む。


 しばらく進むと、隊長が少し前にある廃墟から突然飛び降りてくる。


「いてて……」


 絶妙な調整で教官が真下に着け、隊長が着地する。その衝撃で車が跳ねる。


「随分揺れたな」


 そのバストは豊満であった。


「うぅ、気にしてるんだからほっといてよ」


 隊長が恥ずかし気に目を逸らす。だが胸を隠そうとしないあたり、自信があるのだろう。


「あっち」


「言われなくても分かる」


 飯田が助手席で指をさす。葉月を回収しろということだろう。


 だが、飯田の能力がなくともけたたましい吠え声がするので、葉月の場所はまるわかりだ。


「ほら」


 教官が運転席の下から小銃を取り出し、放ってくる。


「っとと」


 右手がまだしびれているので、左手だけでなんとか受け取る。


「負傷者だぞ。優しくしてくれよ」


「そんなことしたら付けあがるだろ。そいつで牽制しろ」


「…正気か?」


 片手で扱うのは骨が折れそうだ。反動を受けきれるか?


「狙いはつけなくていい。適当にばらまいてくれ」


「ごめんね。さすがにもう魔力が残ってないわ」


 隊長が申し訳なさげに言ってくる。銃といえば隊長だが、今回はかなり無理をしたらしい。魔力切れが近いのか、顔色が悪い。


「今のあんたにさせようとは思わねえよ」


「…ごめんね。ところで、教官に負傷者って言ってたけど、どこか怪我したの?大丈夫?」


 隊長が心配げにこちらをうかがう。


「言うほどのことじゃない。気にするな」


「そう……」


 それでも疑っているのか、こちらをうかがってくる。それを無視して教官に抗議する。


「それより、私以外にも銃を渡す候補がいるだろ」


「……私は銃がしっくりこない」


「あはは…。武器はちょっと……」


 飯田は目が見えないから仕方ないのか。だが、能力で敵の位置は把握できるはずだ。それでも盲目の奴に銃を持たせるのは抵抗があるが。


 紗枝はそもそも武器を持てないらしい。バリアの能力は守ることに特化したものだ。下手に武器を扱うと能力が使えなくなるかもしれないということだろう。


「そういうことだ。お前がやれ」


「この部隊、欠陥構築じゃないか?」


「あはは…。それは、ちょっと否定できないかなぁ」


 隊長が視線を落とし、苦笑いする。


「馬鹿か。完璧すぎる編成だと使いつぶされるだろ。このぐらいアンバランスで丁度いいんだよ」


「あんたの趣味かよ」


 教官が適当なだけだった。確かに優秀過ぎれば出動も多くなるだろうが、土壇場に弱いのは問題だろうに。


「あっ!葉月さんです!いました!」


 紗枝が声を上げる。葉月の姿が見えてきた。


 薙刀を大振りに振って、犬たちを寄せ付けまいとしている。犬たちはある程度距離を取って葉月を完全に包囲している。


「よくやるもんだ。完全に囲んでいるのに、犬どもも距離を詰め切れずにいやがる」


「いや、このままだと立川は詰みだ」


「…?どういうことだ」


「葉月ちゃんは能力を連発することで、なんとか犬に追い詰められずにいるの」


「そうだな。大したもんだ」


 一頭の焦れた犬が少し前に出る。攻撃でなく包囲を狭めるためだ。葉月はそれを見逃さず突進する。


「避けられたな」


 犬は直撃を防ぐことができたが、後ろ足が吹っ飛んだ。しばらく戦闘に参加はできないだろう。


「そうね。けど、あそこで行かなかったら葉月ちゃんは動けなくなってた」


「は、はい。そうです。今あの犬を抑えなければ、包囲を狭められて動けなくなっていました」


 葉月は地面にぶつかって無理やり停止する。その衝撃を受けて、近くにいた犬は吹き飛ぶ。


 だが、衝撃を受けなかった距離にいた犬が葉月に襲い掛かる。


 葉月は地面に刺さっていた薙刀を、左手を中心に回転させ切りつける。しかし、直線的な動きを見切られ、避けられてしまった。いや、犬の攻撃を防いだだけでも十分か。


「葉月ちゃんは今武器を振るのにも能力を使った」


「なるほど。ああいう使い方もできるのか」


 直線的な加速だけでなく、左手を軸にすることによる円の軌道。やはり便利な能力だ。


「葉月ちゃんの能力は自分にも返ってくる」


「ああ、そういえば慣性のせいで能力を連発できないって言ってたな。……そういうことか」


「ええ」


 葉月の能力は加速。その能力は慣性を防ぐことはできない。車に乗っていて急ブレーキがかかると、体が前に飛び出してしまうあれだ。


 速度の急激な変化に伴うその力を、葉月は体一つで受けている。ある程度インターバルを挟めば大丈夫とのことだが、この状況ではそうも言っていられない。


 よく見ると、葉月は体を動かすたびに小さく顔をしかめている。もう長くはないだろう。


 恐らくだが、犬たちもそれに気づいている。包囲を無理やり狭めて、葉月の逃げ場を無くせば仕留めることはできる。


 だが、当然犠牲も大きい。それならば、能力を使わせて弱ったところを仕留めようということだ。


「関川さん、魔石を頂戴」


「ああ、上着の内ポケットだ。すまんが腕が動かなくてな。取ってくれ」


 隊長は遠慮がちに手を伸ばして、上着の内ポケットから魔石を取りだす。くすぐったくて妙な気分だ。


「こんなもん何に使うんだ」


「行くぞ。掴まってろ」


 隊長に質問しようとした瞬間、教官が注意を促す。

 

 その直後、勢いよくハンドルを切る。


「ひいぃぃぃぃ」


 不完全燃焼の煙とタイヤの滑る甲高い音がして車が180度回転する。教官の野郎、ドリフトして駐車しやがった。とんでもない遠心力で、落ちるかと思った。


「葉月ちゃん!早く!!」


 隊長が葉月に声をかける。さすがに犬の群れに突っ込む訳にはいかなかった。葉月との距離は50mといったところだ。


「っ!……おう!!」


 葉月がこちらの姿を認めると、険しくしていた顔が一瞬弛緩する。だが、すぐに表情を引き締める。その視線の真っすぐさに不覚にもドキッとしてしまう。


 葉月が崩れるように腰を落として、前傾姿勢になる。地面にぶつかる直前、一気に体を伸ばすと、その勢いのまま突っ込んでくる。


「関川。立川を回収したら犬どもを牽制しろ」


「はいはい」


 バックで葉月に近づく。犬どもはけたたましく吠えて葉月を追ってくる。敵討ちといったところか。


 ここまで犠牲を払ったのに、ここで逃がすわけにいかないという意地だ。


 葉月は不思議な動きでこちらに向かっていた。一歩が大きい。8メートルは進んでいる。それでいて足を動かす間隔は普通に走っているときと変わらない。動く床の上で走っているかのような、妙な感覚だ。


「タッチダウン!」


 葉月が乗り込んで、またもや車が揺れる。


 それを確認して、座席に銃身を押し付けるようにして引鉄を引く。


「きっつ」


「出るぞ」


 同時に教官が車を発進させる。


 銃の反動はほぼ無い。だが、車の揺れのせいで狙いも付けられない。


 それよりもきついのは魔力の消費だ。銃弾が発射されるごとに魔力を吸い取られてしまう。一発は大したこと無いが、連射していると意識がもうろうとしてくる。


「その調子よ。関川さん」


「あんた、こんなもん使ってんのか。燃費悪すぎだろ」


 犬はまだ追ってくる。道が悪いため、こちらは大したスピードは出せない。悪路ならば犬どものほうが有利だ。


 私が撃った弾も当たってはいるが、犬が転ぶ程度だ。後続の犬も巻き込まれているから、十分仕事をしていると言えるが。


「ふふ、コツがあるのよ。後は任せて」


 隊長はライフルの薬室を開けると、装填されていた弾がぱしゅっと飛び出す。隊長は飛び出た銃弾をキャッチすると、魔石と一緒に握る。パリッという小気味よい音が響き、再度装填しなおす。


「紗枝ちゃん、私気絶するから、抑えててね」


「え、ええええええええ!わ、わたしがですか!?っていうか大丈夫ですか!」


 突然大役を押し付けられた紗枝が大声を出す。隊長はそれを微笑まし気に見ている。


 しかし、次の瞬間に隊長の顔から表情が消える。ライフルを構え犬どもに向けて引鉄を引く。構えてから撃つまで、とんでもない早さだ。


 なにより驚嘆に値するのは、揺れる車の上だというのに射撃する姿勢にぶれが無かったことだ。


「なっ!?」


 隊長が撃ったのは特殊な弾丸だったようだ。いや、魔石で何かしていた時点で普通の弾ではないのだが。


 目の前には黒い霧が立ち込めていた。さっき隊長が作った煙幕とは違い、奥を見通すことができる。もちろん見づらくはあるのだが。


「犬どもが苦しんでるのか?」


 霧に覆われた犬はきゅーんと情けない声をあげて、目をこすっている。けほっけほっと咳をしたり、地面を転げまわっている犬もいる。


 隊長の野郎、何をしやがったんだ。


「た、隊長!隊長さああああん!!」


 紗枝は宣言通り気絶した隊長をゆさゆさと揺らしている。一方の隊長は満足そうに目を閉じている。胸が動いているようだから生きてはいるようだ。問題ないだろう。


 犬たちももう追撃してこない。ひとまず危機は去った。時間稼ぎも十分とは言えないが、できる限りのことはやった。


「ほら」


「っとと」


 教官が葉月に向かって何かを放る。


「吸入器だ。即効性の鎮静剤が入っている」


 葉月の手元を見ると、口と鼻を覆うようなマスクが付いた、プラスチック製の筒を持っている。


「うへぇ。これ、ぶちっと意識がなくなるからやなんだけど」


「……早く使って。かなり無理したんだから」


 使用を渋る葉月に、飯田が責めるように言う。あまりしゃべらないから分からなかったが、飯田もかなり他の奴らのことを気にかけているらしい。


「あ、あはは……。お見通しかー」


 葉月の体をよく見ると、制服から覗く腕が紫色になっている。ひどい内出血をしているらしい。服に隠れている部分はもっとひどいのだろう。


 飯田にたしなめられて、覚悟を決めたように葉月が吸入器を顔に当てる。シュー、と空気の漏れる音がしたかと思うと、葉月がこちらに倒れ掛かってくる。


「まぁ、仕方ないか」


 今回はこいつに助けられた。膝くらい貸してやろう。

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