七色目 紫

朝起きると、ぬいぐるみは手元になかった。


私は慌てて探した。

ない。ない。ない。どこにも。ない。


机の上も、棚の中も、店のレジにも、

どこにもあの子の姿はなかった。


布団の中にあるかもしれない。きっとそうだ

朝寝ぼけていて見えなかっただけだ。

私は急いで寝室に行き、布団をめくった



───むらさき、?


そこにあったのは…


薄い紫色をした綿だけだった

なんで、どうして。

理解が出来なかった。

君の気持ちに、僕は気づいた

なのにどうして。



どんなに探してもあの子は見つからない。

でも私にはお店がある。

私はこの子を忘れないためにも

ポケットに紫の綿を入れ、仕事へ向かった。



帰ってきてポケットの綿を取り出してみると

朝よりも紫色は濃くなっていた。

それはもうはっきりと分かるほどに

暗く、重い紫へと変わっていた。


私はそれを1度机に置き、お風呂に入った。

あの色は何なのだろう。

徐々に濃くなる紫色。


あれが意味するものはなんなのか。


そんなことを考えながら一通りの用事を済ませ、机の上の綿を見た。



なんとも言えない色だ。

黒に近い、赤。

恐怖に近い感情が私を襲った。


私は布団に潜り、息を殺した

なんでそうしたか自分にも分からない。

でも、隠れなければいけない。そんな気がした。


私はいつの間にか、深く眠っていた。


それから私がぬいぐるみを見ることは無かった。

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