第145話 兄、義龍
翌日。
それとなく街で『噂』の聞き込みをしてみた私だけど……うまくいかなかった。やはりみんな私の美貌に恐縮してしまうらしい。
『いえ、銀髪赤目が目立ちすぎるだけでは?』
≪国主の娘として有名なのだろう? そんな人間に、『国主の息子が実は別人の息子かも』という噂を話すわけがなかろうに≫
ダブルで突っ込まれると心に大ダメージ以下略。
う~ん、しかし、見た目か。話を聞く程度でわざわざ変身魔法を使うのも面倒くさいしなぁ……。他の人に任せようにも、プリちゃんは常人には見えないし、玉龍も人間形態は白髪金目と目立つ外見。どうにも情報収集には向いてないわよねぇ。
くっ、忍者。どっかに忍者でも落ちてないかしら? 情報収集と言ったら忍者でしょう戦国時代ならその辺に落ちているでしょう。
『忍者は落ちているものじゃないですね』
≪よしんば落ちていたとしても、道端に落ちてるような忍者は使いたくないのぉ≫
戦国時代に来たらまずは忍者を味方にするのがテンプレじゃん。都合の良いタイミングで都合の良い情報を仕入れてきてくれるものじゃん。解せぬ。
「……帰蝶。今日は何をしているのだ?」
疑問を呈してきたのは光秀さん。今日は私のお付きができるらしい。
「えぇ、お兄様が実はお父様の息子ではない、という噂が立っているようなので調査をしようと思いまして」
「……義龍様か……」
何とも言えない微妙な顔をする光秀さんだった。きっと『息子じゃない説』に思うところがあるのでしょう。……お兄様の性格が何とも言えないわけではない。と信じたい。
「帰蝶。家族のことゆえ気になるのも分かるが、帰蝶が直接動くのは感心しないな。それにお館様であれば饗談(忍者)を使って相応の情報は得ているはずであるし……」
いやぁ、いくら忍者でも『ほんとの息子かどうか』は分からないのでは? 私みたいに
「――あ、そうか。直接確かめればいいのか」
ぽんっと手を叩くと、光秀さんがガッシリと私の肩を掴んできた。
「帰蝶。何を思いついたかは知らないが、落ち着いてよく考えるんだ。熟考して、本当にそれをやるべきかどうか検討に検討を重ねてから行動に移すんだ」
「なるほど至言ですね。よく考えるとしましょう。――よし! 帰蝶ちゃんよく考えました!」
「そんな短時間で検討に検討を重ねられるわけが――」
抗議する光秀さんを小脇に抱え、転移魔法発動。場所は鶴山城。お兄様である斎藤義龍の居城らしい。
ちなみに稲葉山城にいるとき父様から『あそこに帰蝶の兄が住んでおるのだ。いずれ紹介してやろう』と鶴山城を指差してもらったことがあるので、ちゃんと場所は分かっている。
「ぬぐぁあああぁああぁああぁああああっ!?」
光秀さんの絶叫をBGMにして私たちは鶴山城の城門へと転移した。
◇
『そろそろ光秀さんに『よく分かる本能寺のやり方』を伝授するべきでしょうか?』
謀反の斡旋(?)をするのは止めていただきたい。プリータス、お前もか。
『ブルータスみたいに言わないでください』
それはともかく鶴山城の城門前である。典型的な山城だけど、後の時代みたいに石垣や漆喰が使われているわけじゃない。火を付けたらよく燃えそうだ。
≪思考がもう危険人物よなぁ≫
実際に火を付けた訳じゃない私のどこが危険人物だというのか。
≪そういうところよ≫
こういうところらしい。解せぬ。
「――な、何者だ!?」
と、私たちに槍を向けてくる門番さん。くっくっくっ、美濃守護代斎藤道三が娘、帰蝶の姿を知らんとはなぁ!
『……なんですかその胡散臭いキャラは?』
胡散臭いって。高貴な令嬢キャラを演じてみたというのに。
≪高貴と言うより傲慢、いや三下なのではないか?≫
私を三下扱いとはいい度胸である。表に出ろ。……今は表(城門)だったわね。
「――貴様ら! お館様の娘、斎藤帰蝶様に槍を向けるとは何事か!」
と、門番たちを一喝してくれる光秀さん。頼れるお兄ちゃんをしてくれているところ恐縮ですが、私の小脇に抱えられながらだと威厳が絶無だと思います。
しかしながら父様の側近である光秀さんは有名だったのか、門番たちは戸惑いながらも槍を降ろした。
邪魔者もいなくなったので、門の前まで移動。……自動ドアではなさそうだったのでくるりと一回転してからの回し蹴りをすると、城門はあっさりと開いてくれた。どかーんっと。
『……城の城門を蹴り開けるって、どんな筋肉しているんですか?』
≪しかも身体強化の
ドラゴンにバケモノ呼ばわりされたくはないわい。こんなのはちょっとコツを掴めば誰でもできるようになるというのに。
『できません』
≪できんわ≫
ステレオで突っ込まれてしまった。解せぬ。
それはともかく、ごくごく平和的に城門は開いたのでそのまま城内へ。さてお兄様はどこかなぁとキョロキョロしていると――
「――騒がしいぞ。何事か」
若いながらも渋めな声が掛けられた。
声の主へと視線を向けると、なんだかとても背が高く、とても見慣れた顔をした男性が。
プリちゃんいわく私は本物の『帰蝶』らしいし、幼い頃に遊んでもらった記憶が蘇ったのかもしれないけれど……それを抜きにしても、見慣れた顔だ。具体的に言うとそっくりだ。父様――斎藤道三に。
いやマジでそっくりなんだけど?
ちょっと顔が丸くて下膨れとはいえ、それでも瓜二つなんだけど?
こんなに似ているのに別人の子供説が出てくるとか……もしや美濃の人間の目ん玉は節穴ばかりなのかしら?
『いえ、庶民が国主と嫡男の顔を見る機会なんてほぼないでしょうし……それにしたって似すぎですけどね』
プリちゃんのフォローを聞き流しつつ、訝しげな目を向けてくる兄――斎藤義龍に片手を上げてみせる。
そして、
「――お兄様! 可愛い妹が会いに来ましたよ!」
「…………」
満面の笑みで挨拶すると、お兄様は首を横に振りつつ深々とため息をついた。
「……なるほど。本物の帰蝶であるな」
どうやら美しく育った私を見て感嘆のため息を漏らしてしまったらしい。照れるぜ。
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