第126話 林秀貞
23.林秀貞
柴田勝家さんはとっとと酔いつぶれていた。まぁワインを肴にどぶろく(?)をガバガバ飲んでいたので是非も無し。アルコール度数の高い酒のちゃんぽんとか無茶しすぎである。
「ほぅ、これは中々良いな」
あとから出した芋焼酎の方はお義父様もそこそこ飲んでいた。サツマイモ焼酎はワインのように甘みがあるのだけど、ワインと違って気に入ったらしい。
ちなみに今の私は三ちゃんに肩を抱かれております。私が家臣からチヤホヤされているのが気にくわないらしい。くっくっく、
『……チヤホヤされているというか、
夢くらい見せていただきたい。
「今日は急な話だったのでな。あとで弟たちも紹介しよう」
と、お義父様。弟ってアレですか? 『のぶひかり』さんですか?
『
読み方はとにかく、信光さんは好きである。だって尾張統一戦でずっと三ちゃんの味方をしてくれるし。戦に強いだけじゃなく謀略も使えるし。なによりとても、とても名前が覚えやすいもの。
『最後の理由ぅ』
いやいやプリちゃん。名前の覚えやすさ&見分けやすさは大切である。特に尾張統一あたりなんてひたすら『織田信〇』が出まくるのだから。しかも資料によって名前自体が変わっているものまであるし。そんな中で一度見たら忘れず、他の『信〇』が乱舞する中ですぐに見分けが付く信光さんは素晴らしい存在なのだ。
『……そんな信光ですが、信長による暗殺説もありますが……』
ハッキリと『信長が暗殺した!』と書いた資料はないのでセーフです。信長公記ですらかなり匂わせているけど、天道に背いたのだから死んでしまっても仕方ないのだ。
『天道に背きまくっている主様が言っても説得力が……』
どういうことやねん。
プリちゃんの両端を掴んで『びよ~ん』と引っ張ってやろうかしらと私が指の準備運動をしていると――
「――挨拶が遅れましたこと平にご容赦くだされ」
と、30~40歳くらいの男性が両手の拳を突いて挨拶してきた。よく見れば先ほど平手さんと一緒にお義母様を止めに入った男性だ。
武士らしく鍛えられた肉体をしているのだけど、全体的な印象は頭脳派というかインテリっぽい。眼鏡を掛けたら超似合いそう。
そういえば、戦国時代に眼鏡ってないんだっけ? 今度作ってみようかしら?
『欧州ではすでに開発されていますね。日本だと1549年にフランシスコ・ザビエルが大内義隆にメガネを贈ったとされています。また、織田信長に会いに来た宣教師のフランシスコ・ガブラルは眼鏡を掛けていたらしく、それを見た人々が『南蛮人には目が四つある! しかも輝いている!』と騒いだとか』
目が四つとかボケにしても無理があるのでは?
あ~、でも、幕末の黒船来航の時にはあまりにも大きく常識の外にあった『黒船』を見えなかった/認識できなかった人がいたとされているし、そんなものなのかしらね?
私が脳と認識について研究者っぽく真面目に考えていると、眼鏡の似合いそうな男性が自己紹介を続けてくれた。
「拙者、信長様(三郎様)の
林佐渡守?
『林秀貞ですね。新五郎とか佐渡守と名乗っていたはずです』
あー、『信長』の家老でありながら『信勝』を次期当主に推して、信長と対立することになる……。
そんな未来を知っている私は、林秀貞さんににっこりと微笑みかけた。
「あぁ、三ちゃんを裏切って十ちゃんを当主にしようとする林秀貞さんですか」
「――――っ!?」
絶句する林さんに、面白そうに口の端を吊り上げるお義父様。ちなみに他の人には聞こえないよう小声にした気遣い上手な私である。
『いえ一番聞かれちゃいけない
そういえばそうである。ちゃんとフォローしておきましょうかね。
「あ、でも今は様子見ってところですか? うんうん、最近の三ちゃんは『うつけ』を卒業して真面目にやっていますものね。このままなら次期当主として支えることもやぶさかではないと」
私の発言を受けてお義父様はカンラカンラと笑い出した。
「はっはっはっ、なんとも恐ろしき女よな。人の心まで読んでみせるか」
「えー、そんなことないですよー。顔色を見て判断しただけですー」
「顔色だけでそこまで読めるものか。まったく食えぬ女よ。三郎は御するのに苦労するであろうな」
「む、失礼な。私は三ちゃんにとっても甘いですよ! 甘々! もはや恭順していると言っても過言じゃないですし! 三ちゃんのためなら何でもしてあげますよ! ……まぁ、だからこそ三ちゃんを傷つける野郎には容赦しませんけど」
三ちゃんと敵対さえしなければとても優しいですよ。
にっかりと林さんに微笑みかけると、林さんは冷や汗を流しながら床に頭を叩きつけてしまった。
「以後! 誠心誠意お仕えいたす所存!」
よく分からないけど忠臣・林秀貞が爆誕したらしい。やったぜ。
『この鬼畜は……』
なぜかため息をつかれてしまった。事前に警告してあげるとかメッチャ優しい女ですやん。解せぬ。
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