第125話 ふるまい
かわらけ撃滅を決心したあと。
なにやら会場を移しての宴会続行となった。そのまま同じ場所でやればいいじゃんとは思うけど、まぁ二次会みたいなものかしらね?
光秀さんも参加していいとのことだったので、一緒に二次会会場へ移動する。
道中の渡り廊下からは中庭が見え、私がこの前送ったものっぽい贈答品の数々が並べられていた。う~ん、我ながらちょっと送りすぎたかもしれない。でもお義父様からの好感度は高そうだったので結果オーライってところだろう。
移動した建物は先ほどいた場所よりは幾分質素だった。プリちゃんによるとさっきの建物が正式な場で、こちらは身分の隔たりをなくして交流できる場所らしい。
今度もまた家臣の皆様のためのお膳が並べられていたけれど、先刻とは違い丸く円を描くように置いてあった。
「ささ! 帰蝶殿! どうぞこちらへ!」
席に案内してくれたのは(折檻状で追放されるかもしれない)佐久間信盛さん。態度こそ腰が低いけれど、その目は取り入ろうとする者特有の光でギラめいている。
うんうん、こういう分かり易い人には好感情を抱けるわよね。
『……普通は逆だと思いますがねぇ』
なぜか呆れられてしまった。解せぬ。
私が席に着くと、やはりというか何というか、またまたお義父様がお酌をしてくださった。普通に返盃してもいいけれど、ここは趣向を凝らしましょうか。
というわけで、アイテムボックスから雑賀の里で作られたばかりのワインを取り出す私。この時代にはガラス瓶もコルクもないから大きめの木樽に入れてある。
ちなみにこのワインは私への『お供え物』という扱いらしい。解せぬ。
「こちら、南蛮で広く飲まれている
「ほぅ、南蛮人が堺にまでやって来ていることは聞き及んでいるが……南蛮の酒か」
興味深そうに髭を撫でるお父様。そして、視界の端で身を乗り出す柴田勝家さん他数人の家臣。南蛮のお酒に興味津々らしい。
ワイングラスを取りだし、木樽からワインを注いでお義父様に取り出す。
「なんと!」
「まるで血のような……」
「南蛮人は生き血を啜るのか!?」
なんかテンプレな反応をしてくれる家臣の皆さんだった。身を乗り出していた家臣のうち数人が身を引く。
しかしさすがは尾張の虎。お義父様は動揺することなくニオイを嗅いでみせた。
「ふむ、変わった香りであるが、少なくとも血ではないな」
わぁ。
髭の似合うダンディなおじさまがワイングラスを持っているのはメッチャ絵になるわ。これは三ちゃんの成長も楽しみになるわね。とりあえず髭は生えさせよう。絶対カッコイイ。
あ、でも、キスするときチクチクして痛いかしら♪
『頭ピンク色……』
解せぬ。
首をかしげているとお義父様はワイングラスを傾けた。
「酒精(アルコール)は強いが……甘いな。これは好き嫌いが分かれそうであるな」
暗に『あんま好きじゃねぇわ』と口にするお義父様だった。まぁ好みがあるからしょうがない。味醂っぽいものこそが『酒』という認識があるなら尚更か。
アルコールが強いという発言に反応したのかまたまだ家臣の皆さんが身を乗り出したので、私は苦笑しながらお義父様に提案した。
「皆様にも振る舞ってよろしいでしょうか?」
「うむ、酒の席だ。無礼講といこうではないか」
この時代にも『無礼講』という言葉はあったらしい。
「では! 拙者が一献!」
ずずいっとやって来たのは柴田勝家さんだった。二十代半ばくらいなのでやはり若い。この若さで近々『織田信勝』の家老を任せられるのだから優秀な人なんでしょうね。
『柴田勝家は武一辺倒な『脳筋』扱いされることが多いですが、秀吉に先んじて刀狩り(刀さらへ)を行ったり、あの厄介な一向一揆の勢力が強い北陸を治め、さらには一向宗徒を改宗させたりしているので統治や調略もできる人なんですよね』
そんな(失礼だけど)意外と頭のいいらしい勝家さんは、今は見た目通りの勇猛さと酒好きさを発揮してワイングラスに手を伸ばしていた。いや、プリちゃんの説明が正しいならば、自分が率先して動くことで他の家臣が飲みやすくしているのかしらね?
とりあえず長柄銚子でお酌してあげる。
「おぉ! 奥方様から盃を頂けるとは!」
ふっふっふっ、『奥方様』とは何とも気が早いわね。もっと飲みなさいもっと。作ったばかりの芋焼酎もあるわよ?
『この主、チョロすぎである』
やかましいわ。
突っ込んでいると勝家さんが一気にワイングラスを空にした。
「――むぅ! なんという酒精の強さ! 目が覚めるかのよう! さらにはこの甘さ! これだけで肴となりますな!」
光秀さんと言い、戦国武将ってグルメレポート(?)をしなきゃ気が済まないのだろうか?
あとワインが肴になるって何? チョコレートでブランデーを飲む的な? いやいくら何でもそこまで甘くはないだろうしなぁ。
何というか、ジェネレーションギャップ(数百年)を感じる私であった。
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