第90話 末法の世の中である


 即断即決で求婚を断ってしまう私だった。だって私には三ちゃんがいるし。


「ぐぅ……!」


 断られたのがショックだったのか片膝を突く義輝君だった。


 しまった。今の義輝君は(現在日本で言えば)小学校高学年とか中学一年生くらいだものね。大人のおねーさんに一刀両断でフラれちゃったらそりゃあショックを受けるわよね。


 う~ん、ここは『美濃守護代の娘では家格が釣り合いませんのでー』くらいの言い訳をしておくべきだったかしらね?


『結局は断るんですね』


 むしろ受け入れる理由がなくない?


『実権が父親にあるとはいえ、本物の将軍ですよ?』


 そんなこと言ったら三ちゃんは未来の天下人ですよ?


 私とプリちゃんがそんなやり取りをしていると、


「ぬぅ! なぜだ帰蝶! 余の何が気にくわないのだ!?」


 立ち上がった義輝君が気丈にも問いかけてきた。真っ正面から向かってくるなら真っ正面からぶった切りましょう。


「そうねぇ。まず初対面なのに呼び捨てにしてくる男は、ねぇ?」


「むぅ」



『……いえ、信長も呼び捨てじゃなかったですか?』



 プリちゃんのツッコミは聞こえませぬ。


「あと、将軍とは名ばかりなのがねぇ。私が欲しかったらまずは正真正銘の将軍になってください、的な?」


「むむぅ」



『いえ信長も現時点では尾張守護代家の分家の息子でしかないですし、嫡男としての地位も不安定。正真正銘の天下人になれるのなんて何十年先なんですか?』



 プリちゃんのツッコミ以下略。


「あとねぇ。――私の“力”目当てで寄ってくる男とか、ほんと無理」


 具体的には元婚約者のアホ王太子とか。散々人を利用しておいて『聖女』が現れたらとっとと乗り換えるとか……。あ、なんかムカついてきた。呪いを飛ばしてやろう呪いを。みょんみょんみょん……。


「む、むむぅ」


 私から漏れ出した黒いものに気づいたのか義輝君が一歩引いていた。こんな美少女から逃げるとか失礼な。と、いつも通りボケていると――



「――で、あるか」



 鯉口を切る音が周囲に響き渡った。


 事態を静観していた三ちゃんが一歩前に出て、義輝君と対峙する。


「わしの妻を御所望とは、いい度胸だのぉ『流れ公方』が」


「……ほぅ? 中々に可笑しな口をきくのぉ『うつけ』が」


 睨み合う三ちゃんと義輝君。そして、『いえ流れ公方は足利義稙ですが』と律儀に突っ込むプリちゃんであった。三ちゃんたちに声は聞こえないのに。


「わしの妻が欲しくば、わしを倒してからにするがよい」


 刀の柄に手を掛ける三ちゃん。


「……ふん、面白い。うつけがどれほどのものか、試してみるのも一興か」


 対抗して鯉口を切る義輝君。


 これは、あれか!


 乙女の夢の逆ハーレム展開か!? モテ期到来か!?



『……実際モテてるのが、なんというか、世も末ですね』



 なぜ私がモテると末法なのか。解せぬ。


 まぁそれはともかく。

 織田信長と足利義輝の殺し合いとか冗談にもならないので仲介する私である。まずは二人の柄頭(柄の先端)を手で押さえ、そのまま鞘へと押し戻す。


「ぬ、」


「う、動かん……」


 大げさな反応をする二人だった。ちょっと押さえているだけなのにね。


『主様って意外とパワーキャラですよね』


 この細腕のどこがパワーキャラだというのか。解せぬ。


『身体強化の魔法も使わずに明智光秀成人男性を小脇に抱えられる時点で……』


 げ・せ・ぬ。


 プリちゃんに圧をかけつつ三ちゃんと義輝君から刀を没収。アイテムボックスから(前の世界で作ってみた)竹刀を2本取り出す。


「はい、戦うならこれを使いなさいな」


「むぅ?」


「なんだこれは……? 木剣(木刀)とも違うが……?」


 あれ竹刀って戦国時代にないの?



『袋竹刀は室町時代に上泉信綱が考え出したといわれていますが、現代広く使われる四つ割り竹刀は江戸時代に使われ始めたとされていますね』



 ふ~ん。

 まぁ、竹刀じゃお金儲けできそうにないし、別にどうでもいいか。


『……信長と義輝は考え直すべきでは?』


 こんな金の亡者は止めておけ、的な物言いは止めてもらえません?


 見たこともない竹刀に戸惑っていた二人だったけど、どうやらその程度で闘志は衰えなかったらしい。


 というわけで。

 織田信長と足利義輝の試合が決定したのだった。



 今さらだけど、なんだこれ?



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