第71話 お小遣いと、会議
まずは会合衆との会議をして、その後は当初の目的である銅鉱石の受け取りや、鉄砲鍛冶さんの引き抜きをすることになった。
三ちゃんと愉快な仲間たちは
服を買いに行くのも明日ということにして、とりあえず風魔法で服を乾燥。続いて三ちゃんに両手を差し出してもらう。
「はい、というわけでお小遣いね。あまり無駄遣いしちゃダメよ?」
どさどさと緡銭(紐を通して纏めた永楽銭)をアイテムボックスから三ちゃんの手の上に落とす私である。ちょっと魔力が滑って100万円分くらい落としちゃったけど、まぁ『やっぱりなし』と回収するのはカッコ悪いので、このままで。
『……これは、アレですね。若い男をつなぎ止めるために金を貢ぐことしか思いつかない、仕事ばかりで恋愛経験がないまま結婚適齢期が過ぎかけているキャリアウーマン……』
ちょっと、心に五寸釘を刺してくるの止めてもらえません?
プリちゃんが売ってきた喧嘩を買おうとしていると、(銭の重さに手をぷるぷる震わせながら)三ちゃんが呆れた目を向けてくる。
「いやいや多すぎだが? 帰蝶、薬の販売で儲けているのは聞き及んでいるが、もう少し銭は大切にしないといけないぞ?」
お小遣いをあげた側からお説教されてしまった。解せぬ。
『まぁ信長は祖父の代から貨幣経済の重要性を身を以て学んでいますし。主様の狂った金銭感覚を見れば文句の一つも付けたくなるでしょう』
狂っていません。出世払い(天下人)してもらうので問題ありません。
『そういうところです』
こういうところらしい。
まぁとにかく。余ったら回収するからと納得させて三ちゃんを見送った私だった。だって三ちゃんにとって初めての都会だし、大人になったら『天下布武』に邁進して遊ぶ時間も中々取れなくなりそうだもの。今回くらいはお金の心配をせずに楽しんでもらいたいのだ。
何という優しい妻。これはもう年間グランド賢妻賞(←?)はもらったわね。
『賢妻というより、お母さん……いややはり貢ぐことしかできないキャリアウーマン……』
やかましいわ。
◇
会合衆との会議はちょっとだけ紛糾した。
桟橋を作ること自体には反対意見が出なかったし、使用料に関しても桟橋の入り口に関所を作ることで話はまとまった。
ただ、関所は出入りするたびにお金を取るのか、それとも入るときにだけ回収するのかでちょっと揉めたのだ。
私と親しい今井さんたちは入るときと出るときの二度の回収を提案してくれて、他の人たちは入るときにだけ回収すればいいじゃないかという立場。まぁ、単純計算で関所代が二倍になるかならないかなので紛糾するのも致し方なしってところだろう。
それと、関所の管理は堺の会合衆がやるのだから、会合衆にも幾ばくかの実入りが欲しいという要求もあった。さすが商人、取れるところからはとことん取るつもりらしい。
そろそろ会議が踊り始めたかな、というタイミングで私は一つ発言することにした。
「まぁ、私は別に構いませんが。今回話を持ってきたのは親しくしていただいている今井様や小西様が堺の商人だからというだけですし、――桟橋を作るのは大坂でも兵庫でもいいですし」
「「「!?」」」
会合衆の皆さん(今井さんや紹鴎さんたち含む)が驚愕の顔をした。
プリちゃん情報によると、元々外国船は兵庫に泊まっていたらしいのだけど、応仁の乱の影響で堺に停泊するようになり、それを契機として堺は国際貿易都市として発展していったのだとか。
だからなにかの『きっかけ』があれば外国船が兵庫に戻ってしまう可能性も十分にあると。
この時代の主流である瀬戸内海航路から見れば兵庫の方が近いし、一大消費都市である京都からすれば大坂の方が近いので、大型の桟橋という『きっかけ』ができれば堺が一気に寂れてしまうかもしれない。らしい。
大型桟橋のアイデア自体は知ることができたので、私が協力しなくても似たようなものはできるかもしれない。
でも、魔法を使わないなら整備に年単位の時間がかかってしまうかもしれないし、海の中に作るものだから強度的な不安もある。そして兵庫か大坂にすぐさま、強度も十分な桟橋が作られてしまうわけであり……。
さすがは堺を代表する豪商たち、説明するまでもなくその危機を察したのか関所やらなんやらの話し合いはスムーズにまとまったのだった。
もちろん私が得ばかりすると無駄に恨まれるので、こっちもそこそこ譲歩したけどね。さすがに可哀想なので関所の支払いは一回でいいとか。
『……ほんと、主様って腹黒いですよね』
なぜ譲歩したのに腹黒扱いされなければならないのか。解せぬ。
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