第66話 堺



「――ついたーっ!」


 とうとう堺到着である。一泊しただけなのに妙に長く感じられる旅だった。三ちゃんが空に吹っ飛んだり三ちゃんがゴロゴロ転がったり三ちゃんが火起請したり……もうちょっと自重しろ三ちゃん。


『原因の大部分が主様ですが』


 気のせいです。


 改めて船から堺の街を眺める。


「ほぅほぅ、本当に堀で囲まれているのねぇ。これが東洋のヴェネチアかぁ」


 街の西側は海。そして三方は幅10メートルほどの堀に囲まれている。大きな街道にも接していて、さすがは国際貿易都市って感じだ。


「ふむ、噂通り大きな湊であるな! 帰蝶! ここを攻め落とすならどういたす!?」


 こんな可憐な乙女になんてことを聞いてくるのか三ちゃん。まぁ軍オタだから答えちゃうけど。


「そうねぇ。あの堀を乗り越えるのはちょっと手間よね。ただ、貿易港だから海と船に対する警戒は薄そうね。船に乗せた特殊部隊を街に潜入させ、所々に火を付けさせましょうか。木造ばかりだし、海風も手伝ってよく燃えそうよね」


「……で、あるか」


 私の答えにドン引きする三ちゃんだった。自分から聞いてきたくせに。解せぬ。



『なんかもう、攻め落とし方が第六天魔王ですよね』



 そんな三ちゃんが焼き討ち大好きみたいに……。いや燃やすなぁ。燃やしまくるなぁ後々。比叡山やら京都やら長島やら。


 私は思わず三ちゃんの両肩を掴んだ。


「三ちゃん。後先考えずに放火しちゃダメよ?」


「……帰蝶にだけは言われたくないが?」


「あと言うことを聞かないからって家臣のまげを掴んで振り回しちゃいけないし、降伏した武将に刀で突き刺した餅を食べさせてもいけないし、『命だけはお助けを!』と投降してきた敵を火縄銃で皆殺しにするのもいけないわよ?」


「……わし、そんなことをするように見えているのか?」


 なぜか『しゅーん……』とする三ちゃんだった。


 そんな! 私! 三ちゃんを傷つけるつもりなんてなかったのに!



『……とか何とか言って、『しゅーんとする三ちゃん可愛い!』と思っているのでしょう?』



 よく分かっているじゃない。


 じゃなかった、そんなことないわよ! 私は三ちゃんを愛していて! 愛する人を傷つける趣味なんてないもの!


『はいはい』


 ちょっとツッコミがおざなりじゃありません?


 まぁ、いいでしょう。

 三ちゃんがシュンとしたのは予想外だったけど、『将来そんな男にならないようにしよう』と気をつけてくれれば後々の悲劇は回避できるでしょうから。





 なんだか元気のなかった三ちゃんだけど、湊に来ていた南蛮船を発見して復活した。


「ほう! あれが南蛮船であるか! 和船に比べて大きなものよな!」


「えぇそうねやはり和船と比べると大きいわよね。和船との大きな違いはやはりオールの有無かしら。櫂を廃することで舷側 (船体横)に広大なスペースを確保できるようになり詰める荷物が多くなったり大砲の大量搭載ができるようになったの。当時の大砲なんて百発撃って一発当たればいいほどの命中率だったし、そうなると『下手な鉄砲数打ちゃ当たる』の精神でなるべく多くの大砲を積まなきゃいけなかったのだけど、櫂船はどうしても舷側に水夫を並べる必要があり、船首方向にしか大砲を搭載できなかった。それを解決することのできた帆船は海戦の主力となり、貿易の主力となり、船の主流になっていったの。でも櫂船であるガレー船も場所によって帆船よりも優れていて19世紀頃まで現役で――」


 ガシッと。三ちゃんが私の肩を掴んだ。


「帰蝶。知識があるのは感心だが、もう少し聞く者の立場に立って喋らなければいけないぞ?」


 三ちゃんに叱られてしまった。あの無愛想で口べたで他人の気持ちを思いやったことがあるのかってレベルの強引ゴーイングマイウェイ (史実)から。解せぬ。



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