第28話 灰吹法

 家宗さんたちはできあがった薬を買い取り、尾張や堺へと帰っていった。またすぐに火縄銃の納品と薬の受け取りのために戻ってくるそうなので、薬を増産しておく必要があるだろう。

 薬作りにも慣れてきたのか生産効率も上がったし、新しい戦傷者も集まってきたので人手は足りるはず。むしろ薬の売れ行きによっては人余りしてしまうかも。


 養蚕とか木綿栽培も考えているけれど、すぐにどうこうできる問題じゃない。養蚕はまず蚕と桑の木を入手しないといけないし、木綿は種もそうだけど土地も必要だ。


 幸いにして桑の木は成長速度が速いし、木綿に至っては半年くらいで収穫できるらしい(プリちゃん情報)ので準備ができれば比較的早くお金にできると思う。というか土魔法を応用すれば一瞬で苗から成木にすることも可能だし。


『……そんなことをできるのは主様だけですが? 普通の土魔法はちょっと植物の成長を早めることがせいぜいですし』


 プリちゃんから大絶賛されてしまった。照れるねー。


 まぁ、とりあえず苗の入手は家宗さんたちに任せるとして。まずは当座のお金を準備しなくちゃね。


「さて、悪巧みと行きますか」


 私は人払いをしてから屋敷の庭に出た。あまり人に見せたくはないのだ。


 ――灰吹法というものがある。

 ごくごく単純に説明すると鉱石から金銀を取り出す方法だ。


『簡単に説明しすぎだと思いますが』


「しょうがないじゃん、私もやり方は知っていても細かい理論理屈は分かってないのだから」


 とにかく鉛と粗銅を溶かしたあと骨灰を詰めた坩堝に乗せて加熱すると銀が残る。これだけ知っていれば十分。


『いや先に冷やして銅と鉛を分離するとか温度とか空気を吹き付けながら加熱するとか知っているべきことは多々あると思いますが』


「そうなの? そんなの直感でやれば何とかならない?」


『普通はなりません』


 普通はならないらしい。

 まぁとにかく、戦傷者が日々集まってくる現状、薬の販売だけでは養いきれないときがくるかもしれない。他にも戦傷者ができそうな仕事を用意するつもりだけど、それまでは最低限食事の世話くらいはしなきゃいけないのでお金が必要となる。


 で、思いついたのが灰吹法だ。元の世界でもやっていた小遣い稼ぎ。辺境の村とかだと鉱石に金銀が含まれていることを知らずに、結果としてかなり安く原料となる鉱石を手に入れることができたのだ。


 そして。この時代でもちょっとしたお金稼ぎはできそうだ。戦国時代の日本人は粗銅から少量の銀が取れることを知らずに、粗銅をそのまま海外に輸出してしまっていたのだ。で、明や南蛮の人間は安価に買い取った粗銅から銀を取り出して得をしていたと。


 海外に流出させるくらいなら私が有効活用した方がいいだろう。そう、私は日本国の資源流出を憂えているだけであり自己の利益のために灰吹法を導入しようとしているわけではない。ないのだ。


『日本全体の利益を考えれば粗銅から銀が取り出せると広く伝えるべきでは?』


 あー、あー、聞こえないなー。


 私はアイテムボックスの中に放り込んでおいた『もの』を取り出した。元の世界で灰吹法に使っていた道具たちだ。


 大きめの坩堝二つ。

 骨灰。

 鉛。

 そして真吹き法で作られた粗銅。


 まずは火魔法で坩堝の中の粗銅と鉛を溶かし、800℃に維持する。そうすると溶けた鉛の中から銅の塊が浮かび上がってくるのでそれを取り出す。この銅は精銅なので大切に取っておく。


 残った鉛は貴鉛と呼ばれ中に少量の銀を含んでいるので鉛と銀を分離する必要がある。


 もう一つの坩堝に骨灰を敷き詰め、溶かした貴鉛を流し込む。このとき風魔法で空気を送り込むことを忘れてはいけない。

 そうすると鉛だけが骨灰に吸収され、銀を取り出すことができるのだ。理論理屈? 知らなくてもできてるから問題なし。


「家宗さんには色々な鉱山から粗銅や銅鉱石を取り寄せるよう頼んでおいたし、次からは銀が多めに含まれている鉱山のものだけ買えばいいよね」


『武器商人に鉱石を頼むのは間違っている気もしますが……まぁ国際貿易都市である堺が協力してくれるのでしょうし、入手できるのでしょうね』


 とりあえず、アイテムボックスに死蔵してある銅鉱石からすべて銀を取り出すことにした。取っておいてもしょうがないし、製造過程でできる精銅にも使い道がある。銅92%と錫8%で合金を作れば『砲金』ができるのだ。


『……一応質問しますが、砲金とは何ですか?』


「もちろん青銅砲の原料になる銅合金さ。戦国時代だと大友宗麟のフランキ砲が有名かな」


 まったくこんな当たり前の質問をするなんてプリちゃんはしょうがないなーあははははー。


『……この軍オタが』


 なぜか大絶賛されてしまう私であった。



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