35話 未知との対話


「視えちゃあいけないよ」


「ッッ!?」


 少年の霊はグッと近づき、俺のお腹へとぶつかってきた。

 思わず目をつむってしまう。


「アハハハハ。やっぱり視えてるね?」


 うっすらと目を開け、声の聞こえる方、つまり自分のお腹へと視線をおそるおそる移動させると、透明な少年の顔がニョキっと俺から生えていた。


「うぁ……」


 ゲーム内だとわかってはいるが少々気味が悪い。

 幽霊は俺の気持ちもお構いなしに、透ける・・・特性を活かしてスルスルと俺の身体をすり抜けては、こちらに笑みを向けてくる。


「視えちゃあいけないのに、不思議だなぁ」


 ニヤニヤと俺の事を視ていた少年霊だが、その目が俺の持つカメラと魔鏡に留まる。


「あっあっあっあっ。キミ、今は亡き知を復活させ、神々をも冒涜する錬金術士か。なるほどなるほど、だから幽霊が、ボクが視えるのかな?」


 急に納得し始める幽霊君はクルクルと旋回しながら、上昇していく。

 幽霊が視える。視認できる。


 もしかして、これはクラン・クランにおける世紀の大発見ではないのだろうか。そもそも、幽霊の存在を認識している傭兵プレイヤーは何人いるのだろうか。


「幽霊、発見!」


 今更ながら、自分が未知へと肩足を突っ込んでいる状況にテンションが上がり始める。

 声高らかに宣言し、指を指す。


「幽霊が視える錬金術士は、神智の錬金術士サンジェルマン以来だねー」


「……ん?」 


 どこかで聞いた名前。

 サンジェルマン。


『創世の錬金術士が残していった……』

『サンジェルマン……あぁ、でも今は確かノア・ワールドって子だったっけ』


 ミソラさんと初めて会ったときの言葉を思い出す。

 どうやって宝石を生む森クリス・テアリーに辿り着けたのかと質問され、妙に伸縮性に富んだ木の枝があって、そこからビョインって飛んできたと正直に返答した時に、その木の変質は創世の錬金術士のせいだって言っていた。

 

 そのときに彼女の口からサンジェルマンという名前が出ていたはずだ。

 確か創世の錬金術師ノア・ワールドにつらなる錬金術士の名前であり、サンジェルマンは先代、みたいな口ぶりだったはずだけど。

 

 ……神智の錬金術師サンジェルマンか。


 ものすごく気になる!

 テンションがうなぎのぼりだ!


「幽霊さん! そのサンジェルマンってヒトについて教えてくれませんか!?」


「あれれれれれっ。さすがは神に背きし学徒の卵と言うべきかな。視ちゃあいけないよ? そんな者も、ボクたちも。そろそろ時間だ」


 その言葉を皮切りに幽霊の姿も声も聞こえなくなってしまった。


「なっ! 幽霊さん! どこ? どこにいるの!?」


 俺は周囲をなりふり構わず、見回すが幽霊は見当たらない。

 マジか……何がいけなかったのだ。


「どうして……」


 錬金術の頂きに存在しそうな謎の人物。ノア・ワールド。サンジェルマン。

 彼らに少しでも近づきたい。

 

 ならば考えるしかない。

 彼らの情報を持っていそうな幽霊君をみすみす逃すわけにはいかない。

 このチャンスを無駄にはできない。


「ふぅ……」


 ゆっくりと息を吐き、すこし冷静さを取り戻す。

 そもそも初の幽霊との対面イベントということで、浮かれすぎであったようだ。

 いきなりサンジェルマンの話題を質問したのもおかしなテンションの成せる技であった。

 もっと慎重に対応しなければ。


「それで、また幽霊と会える方法は……どうして幽霊くんは消えてしまったのか」


 手元にあるのは、『妖しい魔鏡』と『古びたカメラ』のみ。

 他に何かないのか。幽霊を見つける方法を。何か他に。

 俺は錬金キットを一心に睨み、再び幽霊君と対話できないか模索する。

 

 幽霊くんが最後に残した言葉。


『そろそろ時間だ』


「あ……」


 単純なことだった。


:捕捉した幽霊が1分間だけ・・・・・、魔鏡を手にしている傭兵プレイヤーの目に映るようになります:

 魔鏡で幽霊を映しだした時に流れたログの内容を思い出し、右手に持つ『妖しい魔鏡』を再び使用する。


 つまり、魔鏡で幽霊を捉えてから1分間しか、彼らとの対話は成り立たないということ。

 魔鏡は光を帯び、その鏡の中を覗くとやはり周囲の夜闇をものともしないかのように、クリアに俺が映っている。


 あとは鏡を前方に向けて、適当に幽霊を捉える事ができれば、また幽霊くんに会えるかもしれない。

 鏡を掲げ続けて数分。

 一向に幽霊発見のログが流れない。


「ん……もしかして」


 鏡に映った幽霊を、鏡越しに俺が視ることも条件なのかもしれない。

 さっきの幽霊くんを捉えた時は、たまたま幽霊くんが俺の背後にいたから鏡越しで彼を発見できることが容易に実現できたと推測をたてる。


「基本的に、自分の背後を映しながら探すってスタンスなのか……難しいな」


 鏡面に映る範囲は極めて狭い。

 右に左に斜めにと鏡を傾けつつ、鏡面に映る景色を覗いては幽霊がいないか確認していく。


 「いた!」


 それは先ほどの幽霊少年くん。


 彼はずっと俺の左斜め前方の上でふよふよと腕を組みながら浮遊していたようだ。


:魔鏡が幽霊を映しだしました:

:捕捉した幽霊が1分間だけ、魔鏡を手にしている傭兵プレイヤーの目に映るようになります:


 よしきた!

 少年幽霊くんも白く発光している。


「視えちゃあいけないのに、どうして君は視るんだい? 何が視たいんだい?」


 まるで、こちらが視つけるのを待っていたかのように両手を広げて、幽霊くんは語りかけてくる。


 不用意に『古びたカメラ』を向けて、魂を撮る動作を起こせば、逃げられてしまうかもしれない。ここは対話から始めるべきだろう。


「初めまして幽霊さん。俺はタロです。よろしくお願いします」


「無駄な社交辞令は省こうか? キミにはボクが視えている。ソレが全てを物語っているんだよ」


 俺の挨拶に対して、少々冷たい態度が返ってくる。



「キミはこれ以上、何を望み、何を視たいんだい?」


 正直なところ、キミのをカメラに映して魂を抜き取りたい。

 だがソレを言ったら、また先ほどのように逃げられる可能性もある。

 ならば、さっきと話は戻るけれども。


「サンジェルマンという人物について聞きたいんだ」


「ニューエイジ・サンジェルマン? 先代の『創世』にして『神に近づきすぎた男』と呼ばれた『神智の錬金術士』を視たいと?」


「うん……」


 ニューエイジ・サンジェルマン。

 それが彼の名前か。

 

「それを視て、君は何をするつもりなのかな? ボクらの魂をその古びたカメラおもちゃで抜き撮るつもりなのかい?」


「ぐっ」


 こちらの思惑は筒抜けのようだった。

 カメラで撮ったモノは先ほどのスケルトン同様、倒さなければ写真に色としての力が宿らないはず。

 つまり、最初から幽霊と俺との間ではくつがえす事のできない敵対関係が存在している。


 こうなったら覚悟をするしかないようだ。


「そうだよ。俺は、キミの魂の色を抜き撮ってみたい。そう考えている」


「アハハハハハハッ」


 真っ向からの俺の要求に少年幽霊くんは笑う。


「銀のお嬢ちゃんはどうやら、しっかりとボクらを視ようとしているわけだ。多種多様な言葉そんざいを巧みに駆使して、万物をろうしようとする錬金術士ではないようだ?」


「ええと……」


 このまま、この幽霊くんと戦闘になるかと内心ヒヤヒヤしていたが、どうやら相手にその意志はないように思える。



「神々の言葉をかき集め、狂気に染まったアイツ・・・とはどうやら違うようだ。うん、キミなら撮られてやってもいいかもしれない。ねぇ、みんな?」


 少年霊は辺りに賛同を求めるかのように、グルッと身体ごと回転させ不気味に微笑みかける。


『『『オオオオオオオオォォォォオオォオォオオ』』』



 すると彼に同意するかのように地の底から響き立つような低い声が、そこかしこから上がった。


「ひぃ!」

「でも、そろそろ時間だね」


 悪戯っ子のように少年幽霊くんは人差し指を口元に添えて、シーのポーズをとる。


「それに、妄執もうしゅうに駆られて中途半端になってしまった同胞・・が来てしまったようだ」

 

 幽霊くんは憂いを帯びた表情を浮かべる。それは、静かな湖面に投げられた石コロが引き起こす波紋のように、俺の心をざわつかせた。

 


「それじゃあ。太陽が堕ちる次の夜にでも、また視えるといいね」



 そして幽霊くんの姿は再び、視えなくなった。


「……謎だらけだけど、幽霊との交信はなかなかに面白い」

 

 再び魔鏡を使用しようとした瞬間。

 俺は気付く。


 のそり、かたり、と酷く鈍い音が近づいていることに。



「ッッ!」


 スケルトンが三匹。

 俺を囲むように距離を縮めてきていた。

 

『妄執に駆られた同胞が来てしまったようだ』という幽霊くんの言葉は、このモンスターを指していたのだろう。

 あの幽霊は視る限り人間の幽霊っぽかった。ということは目の前で襲いかかって来ようとするスケルトン、巨人族の奴隷だった人間であり、お仲間だったのかもしれない。


「三匹はさすがにしんどいな」


 幽霊との交信に夢中になってしまったため、周りへの注意が散漫になっていたようだ。考えることは盛りだくさんあったが、俺は姉からもらった小太刀を鞘から抜き放つ。

 

「まずはここを生き延びないと、だな」


 もちろん、『古びたカメラ』でスケルトンの魂を撮っている暇はなかった。






「朝か……」


 荒い息を吐き、疲労から自然と腰を下ろす。

『浅き夢見し墓場』は日の出とともに溶けるように消失し、俺はなんの変哲もない荒野にいた。


「スケルトンを倒すのに思ったよりも時間がかかったな……幽霊との交信の機会はまた次の夜に、か」



 幽霊も気になるけど、まずはスケルトンダークグレイを抽出するのが先だ。撮ったスケルトンの魂の色がこもっている写真。

 疲れが身体から抜けた頃、俺は駆け足でミケランジェロへと急いだ。


『古びたカメラ』で撮った写真から魂の色を取り出すには『インク』が必要だったはずだ。



「心配なのはこっちなんだよなぁ」


 魔鏡を右手に取り出し、眺める。


「ううーん……」


『妖しい魔鏡』の説明文によれば、光から色を抜くときは明るくない場所がおすすめであるとのこと。鏡に溜まっている巨人墓地の夕日『朽ちゆく紅色ロット・スカーレット』を上手に抽出できる場所はあるのだろうか。


 貴重な素材を抜き取る方法に懸念を抱きつつも、俺は道具屋にて『インク』を7瓶ほど購入しておく。

 所持金がほとんどなくなったのが心配だが、また翡翠エメラルの涙を作成して売ればいい。


「よしっ! 輝剣屋☆スキルジョージへ!」





 足しげく通うジョージの店。


 リアル時間も深夜の二時を回った頃。フレンドリストをチェックすると、店主ジョージはまだログインしているようで、どこかでPT中らしい。


「いらっしゃいませ」


 出迎えてくれたのは女性NPCの店員。


「こんちゃー」


 手早く『インク』と『【写真】巨人墓地の骸骨』を合成して『透明な暗灰色スケルトン・ダークグレイ』を作り出そう。

 NPCを完全スルーして『合成』に想いを巡らす。


「写真は5枚。インクは7瓶。チャンスは5回か……」


 合成釜を弱火にして写真をペラリと投入。

 次に『インク』瓶を釜に掲げて気付いた。

 

 合成釜の中身が曇ったのだ。



「ウソだろ……相性が合わないってどういうことだ?」


 『古びたカメラ』の説明文には写真とインクを合成すればいいって表記されているのに……また『ようせいの粉』頼りになるのか?


「しかたない、か……」


 今まで俺の錬金術は『ようせいの粉』ありきの錬金術が多い。『ようせいの粉』万能説万歳、と声高らか叫ぶのは簡単だが、そこに納得していなくなっている自分がいるのも確かだった。



 とにかく。


 『インク』瓶を合成釜に追加投入し、アビリティ『飽くなき探求』を発動して三つ目の素材をビーカーに入れる。

 キラキラと光る『ようせいの粉』は途端にビーカーの中で黄金色の液体・・となる。



「あとは『ようせいの粉』を注ぎこむタイミングだな」


 釜の中は弱火なのにグツグツと煮えたぎっており、ドロリとした暗雲が立ち込めていた。

 

「むむむ……」


 一向に変化しようとしない曇天模様に、俺は『ようせいの粉』を入れるタイミングがなかなか掴めず、唸っていたら合成失敗のログが流れた。


:合成に失敗しました:

:『【写真】巨人墓地の骸骨』、『インク』、合成素材は失われました:


「くっ……」


 二度目の挑戦。

 三つ目の素材を投入するタイミングを見計らうまでもないと先の失敗で学び、写真とインクを投入して、しばらく経ったら『ようせいの粉』をビーカーから注ぎ込んでみた。


:合成に失敗しました:

:『【写真】巨人墓地の骸骨』、『インク』、『ようせいの粉』、合成素材は失われました:


「なんだと……万能であるはずの『ようせいの粉』を追加しても失敗?」


 残りのチャンスは3回。

 

「考えろ……考えるんだ」


『写真』と『インク』。

 写真と相性のいい素材を先に探していたが、今度は『インク』を先に投入して『インク』と相性のいい素材を模索してみれば?


「よし!」


 しかし、『インク』を釜に投入し、素材を順々に掲げていく途中で失敗のログが流れた。


:合成に失敗しました:

:『インク』は失われました:



「インクが溶けてなくなった……」


 アビリティ『合成』は手持ちの素材が多くなっていくと、釜に入れた素材と相性のいい素材を探しているうちに失敗するという弊害が出てくる。


「インクを余分に買っておいてよかった……」


 残るインク瓶は4つ。

 あと1瓶、無駄にすることができる。


 諦めずに、俺は再び『インク』瓶を先に釜へと入れる。

 先ほど、試し切れなかった手持ちの素材を素早く釜の上に掲げていく。


:合成に失敗しました:

:『インク』は失われました:



「なんということだ……」


 端的な結論を述べると相性の合う素材は存在しなかった。

 『インク』は予備があったため、手持ちの全素材との相性を試すことができたが、『写真』の方はもう三枚しか残っていない。

 


「それでも残された手段は、素材を知ることしかない」


 素材との対話。未知との対話。

 それこそが錬金術の真骨頂なのだ。


 『インク』と同じように『写真』と相性の合う素材を探るべく、俺は写真を合成釜に投入する。

 そして、出来る限り素早く、迅速に、注意深く釜の空模様を観察しながら、二番目に投入する素材をどんどん掲げていく。


:合成に失敗しました:

:『【写真】巨人墓地の骸骨』は失われました:


 結論から言うと、2枚の写真を犠牲にして導きだした答えは。

 相性の合う素材はない。



「『ようせいの粉』ですら相性が良くないってどういうことなんだ……」


 スケルトン・ダークグレイを手に入れるまで、あともう一歩というところで、俺の錬金術は行き詰まった。


「残りの写真は一枚。インクは三瓶。チャンスは一回」


 考えるんだ……。未だに試してない方法は。何かヒントはないか。

 写真に合う素材は手元にない。

 インクと合う素材も皆無。

 


「写真。インク……スケルトン・ダークグレイという色……」

 

 色というのは塗料?

 塗料というのは液体である事に他ならない。


 『写真』と混ざり合いやすい物体は俺の知識には存在しないが、インクはどうだろうか。インクも液体だ。液体と液体は交り合いやすい。そんなのは小学生だってわかる常識だ。


 考えが堂々巡りになっていく。

 液体と液体……。


「!」


 俺は最後の『インク』瓶を震える手で合成釜に投入した。


 そして二つ目の素材に『ようせいの粉』をキラキラとまぶし入れる。

 合成釜の内部はどっぷりと曇っている。

 

 これは予想済み。

 敢えて言うなら、『ようせいの粉』は保険だ。


「ここからが本番だ」


 アビリティ『飽くなき探求』を発動。

 右手に握る錬金キット『ビーカー』に『【写真】巨人墓地の骸骨』を入れる。すると、アビリティの効果で三つ目の合成素材となるべく、もちろん写真はビーカーの中で液体化・・・する。


 液体と液体が交り合いやすいのならば。


「探求とはまさに飽きない、永遠の遊びだ」


 ビーカーの中にある、暗く灰色の液体をちゃぷちゃぷとくゆらす。

 自然と笑みがこぼれる。


「さぁ、その色を我に咲かせてみせよ」


 俺は盛大にビーカーを、『【写真】巨人墓地の骸骨』を振りまいた。


 すると、どうだろうか。

 釜の内部は晴れ渡り、静かな星空が映りだす。

 

「やった!」


 そこをゆっくりと『かき混ぜ棒』で優しく、湖面を揺らすように混ぜる。


「フフフ……」


 しばらくして、成功の狼煙、青い煙がモクモクと立ち込める。


:インク+ようせいの粉+【写真】巨人墓地の骸骨 → 透明な灰暗色スケルトン・ダークグレイがレシピに追加されました:

 


 ガラス瓶に詰まった新素材を俺は眺める。

 底が六角形の細長いガラス瓶には、透明な灰色がゆらめいている。

 

 その液体は、透き通っているにもかかわらず、重く暗い。

 俺はアビリティ『鑑定眼』を使い、その妖しい液体を見極める。



透明な灰暗色スケルトン・ダークグレイ

【塗料として、武器、防具、素材に塗布すると様々な効果を生みだす。夜の外套ヴェールに包まれた死人の灰は、アンデッド属性のアビリティに微弱な抵抗力を持つと言われている】



「夜のヴェールに包まれた灰……」

 

 ついに。

 ついに、色を手にすることができた!


「魂の色すらも手中に収める、か。これが錬金術」


 しかも、その色は。

 この世界に数多あまたに存在しているはずだ。そして、色の効果は一体どれほどの種類があるのだろうか。


「魂の数だけ、色が存在し、効果が存在する」


 武器や防具に塗布して、効果を即応的に付与することもできれば、素材に塗り、その素材を使ってアイテムや、武器、防具を作成すれば、どんなものが生み出せるのか。


「魂のこもった色には凄い可能性が秘められている……まさに、まさに世紀の大発見だ! くははははは! ふはははは!」


 ジョージのお店で一人、深夜に高笑いにふけっていると、突然ピコーンっとフレンドメッセージの着信が届く。


「ひぐっ」


 その音にちょこっとビックリしてしまった。



『タロうじ、錬金のきみである幼子がこんな丑三うしみどきまでログインしているなんて、感心しないでありんすよ』


 俺をビクつかせたのは、先ほどフレンドリストでチェックした時はログアウト表示だったはずのアンノウンさんだ。

 

『あれ? アンノウンさんこそ、どうしてこんな時間にログインを? さっきはインしてなかったはずなのに』


『夏休みでありんすよ』


『あ、アンノウンさんも夏休みなんですか』


 てっきり第一印象で社会人か大学生ぐらいのヒトかと思ってたけど、素の話し方で接してくる時は歳もそんなに離れていなそうだって事を失念していた。


しからば、タロうじも?』


『はい!』


『左様でありんすか。さてさて、タロ氏はこんな夜更けまで何をしていたでありんすか?』


 その問いに俺はピンとくる。

 何をしていたかだって?

 アンノウンさんが求めてやまない『色』の作成をしていたのだ。

 

 そして、いましがたその色、『透明な灰暗色スケルトン・ダークグレイ』は完成したばかり。

 これを彼女の元に届けよう。

 そしてミナのはかまを作ってもらうのだ。


 今度はこちらが驚かす番だ。

 彼女の顔が驚愕に染まるのを想像して、俺はニヤける。



『アンノウンさん。今、ちょっと会えたりしませんか?』







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