第26話 君といると、蕩けちゃう
「ふふっ、一週間ぶりの美鈴の家だ……ふふふっ、美鈴、久しぶりだな」
まだ夏の暑さが残る住宅街でそう微笑む。
月曜日に美鈴が委員長に戻っちゃって、それからほとんど音沙汰なくてもう土曜日……ふふふっ、実はもう、俺も結構限界なんだよね、美鈴!
美鈴に会いたさが結構マックスで、ちょっと限界……自分でもこんな風に思うなんて考えてなかったけど、意外と俺も美鈴に依存しちゃったのかもしれない。
美鈴だけの柚希になっちゃったのかもしれない。
俺も美鈴が言うみたいに、美鈴の柚希に……
「なーんてね。とにかく、美鈴に早く会いたい、今すぐ会いたい……ぴんぽーん!」
そんな事を考えながら、はやる気持ちを特に抑えずにインターホンを押す。
「ぴんぽーん……あれ? あれれ?」
そんなウキウキ気分で押したインターホンだけど、その少し寂れた金属音は空中にふわりと消える。
あれ、出てこないな。というか、何も音がしないな、どうかしたのかな?
一応今から行く、って連絡はしたし、返信は無かったけど既読はついてたし……あれれ? 大丈夫かな、美鈴?
「……柚希? 柚希、だよね?」
少し不安になりながら、二回目のインターホンを鳴らすかどうか悩んでいると、ドア越しにか細い声が聞こえる。
か細くて、こっちもどこか不安そうな美鈴の声……うん、柚希だよ! 美鈴の、柚希ですよ、遊びに来ましたよ!
「うっ、柚希……うぅっ、柚希? 私の柚希?」
「うん、柚希です! 美鈴の柚希だよ、だから入っていい? 俺早く、美鈴に会いたいんだ。声だけじゃなくて顔も服も色々見たい。久しぶりの美鈴、俺に見せてよ」
「あうっ、美鈴も早く柚希に……で、でも、その……柚希、怒ってない? 美鈴に怒りぷんぷんじゃない?」
「え、怒る? 何の話?」
そんな不安そうで消えちゃいそうなビクビク声出してどうしたの、美鈴?
怒りぷんぷんだなんて可愛い表現なんてして、俺は全く怒ってないよ! ていうか何もないでしょ、美鈴に怒ることなんて。
「え、だって、その……学校で、無視したし、写真も送らなかったし。柚希の事、私、ずっと無視しちゃってたし」
「そんな事気にしないよ。そもそもあんな写真貰ってるのも意味わかんないんだし。それに、学校ではもともと話さない予定だったでしょ? だからそんな事気にしなくて大丈夫、俺はそれより今美鈴と普通に話してることの方が嬉しいよ! だから開けて、美鈴! 俺は全く怒ってない、むしろ喜んでるんだから!」
「ゆ、柚希……美鈴も柚希に会えてうれしい……で、でもぉ! 美鈴、他にも酷いことしたし。その、昨日だって……柚希の事、足蹴にしちゃったし。みんなの前で、あんなふうに言って、あんなふうに刺して……柚希の事、傷つけてない? 柚希、あんなことされたのに、怒ってないの? 美鈴に怒ってない、柚希?」
相変わらずビクついた声でそう聞いてくる美鈴。
扉の向こうでは、俺の見たことない表情してるんだろうな。
俺の見たことない、嬉しいけど怯えた美鈴の顔……ふふっ、そんな美鈴も絶対良いじゃん。絶対可愛いじゃん、その表情……だから早く会いたいよ、俺は美鈴に!
「大丈夫、全然傷ついてない! あんなことで怒んないよ、それに聞こえたしね……美鈴が俺に、いっぱい甘えて、って言ってくれたこと。美鈴がそんな風に言ってくれた感動で、あんなの吹き飛んじゃった! あ、紙飛行機も良かったよ!」
実際、あの紙飛行機とちらっと言ってくれた言葉で俺の心はすべて救われたし。
なんかああいう隠した感じで教えてもらうと、何というかヒミツの関係というか、漏らしちゃいけないダメな関係というか……ふふふっ、とにかくすっごく嬉しくなる!
チラッと二人にしかわからない暗号みたいな感じで伝えられると、嬉しくて正直興奮する! だから昨日のも怒ってない、正直興奮したよ!!!
「あぅぅ、柚希、柚希……柚希、私も……私も、ちょっと興奮……んんっ、柚希、柚希……んんっ」
扉越しに感じる息が荒くなって、徐々にその熱気も増していく。
美鈴のほっぺが赤くなって、興奮してるのが見なくてもわかる、肌で感じられる。
「ということで、そろそろ開けてくださいませんか、美鈴さん? いつまでも外に怪しまれるし、俺だって早く美鈴と会いたいし。また委員長じゃない美鈴と会って色々するの、俺すっごく楽しみだったんだから!」
「うん、美鈴も……美鈴も、柚希と話したかった、いっぱいお話して、それで……柚希に甘えて、甘えられたかった。柚希の事、美鈴もいっぱい感じたい……美鈴も、興奮したよ。昨日柚希に紙飛行機飛ばした時も、柚希が美鈴に話しかけてくれた時も……今すぐに柚希に飛びつきたいくらい、興奮してた。柚希の事、いっぱい感じたくて、美鈴の身体、うずうずしてた」
嬉しくて、照れて、甘えて……そんな甘々でチョコレートみたいに蕩けてしまいそうな声が、扉越しに聞こえてくる。
「そっか、美鈴。それなら俺と一緒だね……でも、そう言うのはちゃんと顔見せて行ってほしいな! 美鈴の顔見ながら、そう言う話は聞きたいな! もっと美鈴の事、俺にも感じさせて欲しい!!!」
「えへへ、柚希も一緒か……うひひ、嬉しいな、美鈴すごく嬉しい……え、顔? そ、それは、その……は、恥ずかしいよ、柚希。今、その……ちょっと人に見せられない顔してるもん。嬉しくて、とろとろ蕩けた……そんな見せられない顔、してるから。だから恥ずかしい……柚希のせいでこうなった顔、見せるの恥ずかしい」
「ふふっ、いまさらそんなこと気にする? 美鈴、もっと恥ずかしいことしてたのに。この前だってもっと恥ずかしい顔、俺に見せてくれてたでしょ? 俺に見してよ、美鈴の顔。俺の美鈴なんでしょ、俺に美鈴、全部見せてくれるんでしょ?」
「そ、そうだけどぉ。美鈴は柚希のだし、それに……えへへ、わかったよ。見せる、柚希に全部見せる。柚希に美鈴の全部、見せてあげる」
そんな甘い声とともに、俺と美鈴を隔てていた扉が開き、その姿が見える。
「えへへ、久しぶりだね、柚希! 美鈴も柚希にあえて嬉しい、全部見て欲しい……えへへ、柚希の事考えて、話してるだけで、熱くなって、蕩けちゃった。柚希のための美鈴の身体、とろとろになっちゃった……えへへ、柚希のおかげだよ、美鈴がこんなに蕩けちゃったの」
「ふふふっ、ホントだ。美鈴のお顔、とろとろで可愛い、もっと……って、あれ? 何でそんなマントしてるの? 急に中2病?」
「えへへ、柚希の顔、ちゃんと見たらもっと……え? ち、違うよ、そんなんじゃない! そ、その……こう言う事、柚希……えへへ、こっちの方が興奮、するんでしょ?」
そう言ってバサッとマントをはためかせる。
「美鈴、俺もう結構……!?」
「えへへ、柚希に見てもらいたくて、柚希に喜んでもらいたくて着てみました。似合ってるかな、可愛いかな……美鈴でもっと興奮、してくれる?」
「……美鈴!!!」
マントの下の姿―派手な黒ビキニを惜しげもなく披露する美鈴が、とろとろの顔をゆるっともっと甘くしながらそう言った。
★★★
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