第12話 あれは事故だから!

「えへへ、柚希……美鈴、可愛い? 美鈴、可愛くて……柚希の視線、独り占めできてるかな? 美鈴、可愛くなれてる?」

 罪悪感に苛まれていた、昼下がりの美鈴の部屋。


 真っ暗な視界に久しぶりに光が戻ると、俺の目の前には和風のメイドさんの格好をして、純粋に、少し恥ずかしそうにはにかむ美鈴の姿があった。


「えへへ、どうかな……美鈴、可愛い?」

 頭にふりふりをのせながら、学校ではおさげで、さっきまではさらっと流していた髪を可愛くアカイイトでツインテールにまとめて。

 少しぶかっとしたアカイ花柄の振袖と、洋風メイドさんの白黒エプロンスカートはアンバランスに見えて、でも不思議と違和感なくマッチしている……女給さんって言うんだっけ、この格好? 


 こういう格好、アニメの中でしか見たことなかったけど、現実世界で見ても凄く良いな、これ。美鈴、巨乳ぽよぽよだけど、体型はスレンダー美人で素材が良すぎるから、和服が良く似合っている。旅館の若女将みたいですごくキレイで可愛い。

 それに振袖とスカートって、こんなにマッチするんだ。何というか、その……露出は全然ないけど、そこに妙なエロティックを感じる。夜の蝶、なんて呼ばれ方も納得しちゃう……夜の、蝶か。いい名前、なんかカッコイイ。それでエロい。


「……ゆ、柚希? な、何か言ってよ……そんな見つめられると、また、思い出して……ゆ、柚希?」


「……ごくっ」

 ……露出がないのが良い、って言ったけどちょっと撤回。


 美鈴の和風メイドは、ニーハイの破壊力がヤバい。

 お姫様だっこした時からずっと思ってたけど、すらっとしてキレイな脚だけど、触ってみると意外とむっちり弾力がある魅力的な脚―それを黒のニーハイで包むことによって、さらに強調している。


 脚線美はそのままに、絶対領域のむっちり感は強調して。

 ニーハイとふとももの境界の部分には、その肉感を伝えるように、もっちりとはみ出す……って、さっきから何言ってんだ、俺は!?


 美鈴にエロい事を迫って、一人で勝手に抜いて……それで反省して、美鈴の事をそう言う目で見ないように! って決めてたのに、その決意はどこ行った!?

 一瞬で崩壊してる、美鈴のコスプレ見た瞬間、脳内がそう言う感じに……いや、これは美鈴がえっち過ぎるのがダメなのであって、さっきも誘うように妄想駆り立ててきたから、賢者タイムとはいえ、ナマの美鈴を見るとエロティックなドキドキが再燃して、だから決して俺が……ってそうじゃないだろ!


「ゆ、柚希……そ、その、えっと……」

 美鈴困ってるし!


 ほら、顔赤くして、ちょっとだけ嬉しそうで、それが煽情的で、さっきもこんな風な表情で俺の事……って違う! そう言う目で見るな、って言っただろ!

 美鈴の笑顔純粋だったし、そう言う事じゃないの! 純粋で、可愛くて……だからダメ、美鈴にそう言うの無理やりダメ!


「かかか可愛い!!! めっちゃ可愛い、すっごい可愛いよ、美鈴!!! 和服っぽい服装も美鈴めっちゃ似合ってるし、ツインテールもやばい! 学校もそれで来たらいいのに、すごく可愛い! あと、ニーハイも履いてね!!!」

 そうそうこうやって、素直に褒めればいいんだ!

 こうやって、可愛いと思ったところ、素直に褒めればいいんだ、それが正解!


「可愛い、大好き……えへへ、良かった。柚希に喜んでもらえて、美鈴良かった」


「うん、喜んでる! 美鈴可愛すぎて喜んでる! すごい似合ってる、ご奉仕されたい感じ!!!」


「もう、柚希褒め過ぎだよ。美鈴の事褒め過ぎ、そんな……えへへ、ご奉仕だなんて、やっぱり……いや、それなしって言ったじゃん、まだ早いじゃん……とにかく、嬉しいな……えへへ」

 くるくる頭を回しながら、真っ赤な顔で照れ笑いする美鈴。

 その顔に目隠しされてるときの煽情的な声や、妖艶な雰囲気は感じず、本当に純粋で、褒められて嬉しくて笑っているようにしか見えなくて……う、うん! 可愛い!


「いや、本当に可愛いよ、そのコスプレ! 和風メイド、本当に似合ってる! 美鈴にすっごく似合ってる!」


「えへへ、本当に褒め過ぎ、柚希……そ、それならさ、美鈴のコスプレ、もっと見たい? もっと美鈴の、可愛いコスプレ見たい?」


「うん、見たい! めっちゃ見たい! 美鈴のコスプレ、いっぱいみたい、可愛い美鈴がいっぱい見たい!!!」


「ふふふっ、そんなに喜んでくれるの嬉しいな……それなら見せてあげるね、柚希にいっぱい。美鈴は、柚希専用だから……美鈴のコスプレ、柚希にいっぱい見せてあげる……でも、その前に……」

 そう言った美鈴が俺の隣にすすっ、と近づいてくる。


「ちょっとね、柚希に言わなきゃな事ある……ふ~」


「……んんっ!」

 ふんわりと甘い香りは、息遣いは、さっき目隠ししてた時に感じたそれに近くて。

 しかも今度は視覚があって、めっちゃ可愛いコスプレ姿の美鈴がいて、だから余計に興奮……やばいやばい! 冷静冷静!!! ダメダメ!!!


「だ、大丈夫? 柚希、大丈夫?」


「え、いや、大丈夫大丈夫!!! ちょっと絡まっただけ!」


「そ、そう……私的には、やっぱり興奮とかして……んんっ! それならいいや、とにかく話したい事話すね! えっとね、その……さ、さっきの事、何だけど!」


「さ、さっきの? えっと……ふえっ」

 やばっ、本人の口からそう言う事言われるとやっぱり色々思い出しちゃう!

 さっきのアレとか、アレとか……平常心平常心!!!


「あ、あれね! OK、何かな、美鈴!!!」


「やばっ、顔熱……私も……こほん! あ、あれね、その……あれも吊り橋効果! その、えっと……吊り橋効果で、そう言う事、言いたくなっちゃって、してしまっただけだから!」


「つ、吊り橋効果! 吊り橋効果!」


「う、うん! そう、そう! 私友達とかいたことないし、何すればいいかわかんなくて! えっちビデオではああいうこと……じゃなくて、そのえっち漫画、でもなくて、あの、えっと、その……そう言う事! そう言う事だから! とにかく、吊り橋っただけ! 吊り橋してしまっただけだから!!!」


「OKOKそう言う事ね! そう言う事!!!」

 何がどう言う事かよくわかんないけど、そう言う事なんだ! なんかちょっと不穏な言葉も聞こえたし、色々おかしい気もするけどそう言う事なんだ!!!

 美鈴がそう言う事って言ってるんだし、そう言う事なんだ! 


「うん、そう言う事! だから、忘れて、あれは! あの、その……忘れてよね、柚希!!! あの私は、ちょっと忘れて! 変に吊り橋になっただから!!!」


「わかったわかった、忘れる忘れる!!! 忘れるよ、美鈴!!!」


「そんなすぐには、ちょっと……んんっ! えへへ、それでいいよ、そうして柚希! それじゃ、今から……うん!」

 一つ大きく咳払いすると、美鈴は俺の隣からぴょっと立ち上がり、くるっと回って俺の方を向く。


「今から美鈴のコスプレショー、始めるよ。柚希専用のショーだから、柚希だけの美鈴のショーだから……だから楽しんでね、柚希。美鈴の事、いっぱい見てね……美鈴を柚希に焼き付けてね!」

 そう言って純粋で可愛い笑顔を俺に向ける……うん、そうだ! やっぱり美鈴はそう言う事、えっちな事なんて考えてない! 


「うん、そうだよ。柚希だけの、美鈴だもん……それじゃあ、そい!」


「それ今……!?」

 美鈴の掛け声とともに俺の視界が再び真っ暗な闇で覆われた……!?



 ★★★

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