第3話


自分が、望まれた子供ではないことは分かっていたが、それでもこうして目の当たりにしてしまえば、心は軋むように痛んだ。


不機嫌そうな侍女が部屋の中に入って、此方を見て吐き捨てるように「早くして」と言った。

この侍女はいつもシャルロッテに酷いことをする為、恐怖で足がすくんだ。


促されるまま震える足でドレッサーの前に座って、髪を梳かして初めてドレスに袖を通した。

暗い気持ちも綺麗に変身していく自分の姿を見て、気分がパッと明るくなった。


そして狭い部屋から足を踏み出した。


(やっと部屋から出られた……!)


そんな喜びから笑みが溢れた。

外に出るとシャルロッテは辺りをキョロキョロと見回していた。

姉のハリエットと妹のイーヴィーは、もう馬車に乗っておりシャルロッテの姿を見て、馬鹿にしたように笑っているとも気づかずに侍女に背を押されるようにして馬車に乗った。


古びた本でしか見たことのないドレスは少し苦しかったけど、それよりも喜びの方が勝っていた。

まるで御伽噺の中に出てくるお姫様のようだと思った。


前を走る姉と妹が乗った馬車よりもずっとボロボロだったけど、それも気にならないほど気分が高揚していた。

シャルロッテは外の空気を思いきり吸い込みながら深呼吸をした。


そして一緒に馬車に乗っていた侍女に説明を受けた。

どうやら今から貴族の子供達が集められて、城で行われる魔力検査に向かっていると言われた。



「もし少しでも魔法が使えることが分かれば、旦那様と奥様が褒めて下さるかもしれないですよ」


「……本当にッ!?」


「当然ですよ。ふふっ……お嬢様に魔法が使えれば、ですけど」



馬鹿にされていることにも気づくことなく、その言葉に目を輝かせた。

期待を込めて手のひらをグッと握り込んだ。


(もし、私に魔力があれば……お父様とお母様はあんな場所に私を閉じ込めたりなんかしない!もし魔法が使えたら……っ!)


でも心のどこかでは分かっていた。

もらった魔法書をボロボロになるまで読み漁っても、何度も挑戦してみても、シャルロッテはやっぱり魔法が使えなかった。

その度に自分はダメな子だと落ち込んだ。

けれど、やっとチャンスが巡ってきたのだ。


(もしも魔力検査で私に特別な力があると分かったら、お父様もお母様も私を愛してくれるかもしれない……!)


馬車から降りると大きな城に圧倒されてしまう。

あまりの迫力に尻込みしていると、自分よりもずっと美しく煌びやかなドレスを着たハリエットとイーヴィーがシャルロッテに一瞬だけ軽蔑したような視線を向けてから目の前を歩いていく。

一瞬どうすればいいか分からなかったが、今まで学んできたことが役に立つかもしれないと、シャルロッテも意気揚々と二人の後に続いた。


周囲を見渡すと、物珍しそうに視線が集まっていることに気づく。

コソコソと話し声が聞こえてくるが、誰もシャルロッテに話しかけてくることもない。

シャルロッテは唇をギュッと噛んだ。

何かマナー的にいけないのか、それすら分からなくて不安で胸がいっぱいになった。

なんだが自分が恥ずかしい存在に思えて顔を伏せた。


しかし折角のチャンスだからと、震える足で階段を上がった。

今まで見たことがないほどの沢山の人に体が震えそうになっていた。

ホールの一番端の柱の影にそっと身を寄せながら次々に壇上に上がる美しい令嬢や令息達を見て惚けていた。

令嬢や令息達が水晶玉に手を当てて属性を告げられると拍手と歓声が上がる。


(あの水晶玉に触れられたら、きっと私も……!)


そんな時、二人の青年が会場へと入ってくると割れんばかりの歓声が上がった。

「デイヴィッド殿下」と、令嬢達から名前を呼ばれ、綺麗な金色の髪と青の瞳を持った美しい青年が此方に向かって優しい笑みを浮かべながら手を振ると「キャー」という大声がホール一杯に響いた。

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