一月十六日(月曜)くろ
今日はことに冷える。
細い雨が朝からずっと降っていた。
……右足の傷がうずいた。もうだいぶ治ってきていたと思ったのに。
私はソファの上で丸くなりながら、ニンゲンが戻ってくるのを待った。今日はニンゲンがいないみたいだ、と、みけとこくいちから聞いてはいたが。
このくらいの雨なら濡れたりしない、このソファはいい場所だ。
静かで、他の猫もいなくて。
細い雨がこの庭全体を包み込み、私だけの空間であるようだった。
……静かだ。
私は目を閉じた。
目を閉じると、過去の出来事が蘇り、巡る。
子どもたちはまだ小さくて、妻もいて失われたあの子もいて、そしてあたたかだった。
……傷がうずく。
現実の寒さが私の身体を刺す。
……思考が散逸する。
音がして、ふとガラス戸の方を見ると、ニンゲンがいた。
「くろ、いたの?」
いましたよ。
「ずっと待ってた? ごめんね、出かけていたの」
かなり長く待ちました。
「ちょっと待っててね」
ニンゲンはそう言うと、かりかりと命の水をくれた。
ソファから下りて、ゆっくり食べる。
……あまり食べられない。寒いからだろうか。
いつもは命の水はたっぷり飲めるのに、今日はそれさえ胃に入っていかなかった。
こういう日は、丸くなって、目を閉じているに限る。
私はソファにうずくまった。
「くろ、あまり食べていないね。大丈夫?」
野良ですから。食欲ないときは丸くなります。
私はニンゲンをじっと見て、それから目を閉じた。
細い雨が世界を包み込む。
私はその中で、若い雄猫となって、妻と頭を寄せ合っていた。お互いのしっぽがゆらゆらと触れ合う。
こんな日は、記憶は過去へ過去へと向かう。
丸くなって冷たさや足の痛みを忘れてしまえばいい。
雨は細く静かに、降り続いていた――
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