第52話 さよなら...

「...」


「おい、パンダ。お前も何従ってるんだよ。昔、パパに従えてた奴がそいつらの言いなりになりやがって...」


「...」


「まぁ、お前に喋りかけても何も帰ってこないよね。だって、お前無口だから」


 クロエが大鎌を持って、パンダの間合いを詰めようとする。だが、動く前にパンダは待てと言う動作をして、横に指を指す。そこに居たのは、どこから現れたのか分からない長髪結びに黒いマントを背負っている。そして手に持っていた刀でフウカの首に突きつけていた。


「サガ、時間がないんぜよ。こんな所に油を売ってどうするん?王は、婚約者を待ち侘びているんぜよ」


「しょうがないだろ?行くにしてもコイツらが邪魔するから」


「なら、人質を取れば良い話」


「おい!フウカを離せ!」


「なら、赤髪嬢ちゃん。大人しくしてくれれば、この嬢ちゃんの首が飛ばなくて済むぜよ。クロエ姫、さぁ戻りましょう」


「...約束の額は持っている」


「クロエ姫!もう子供じゃありません。この世界は理不尽な事だってあるのぜよ。約束を守ったら、確実に貴方の願いが叶える世界ではありませんぜ。少しは大人になりましょう...それに、ここで駄々をこねるのであれば、この嬢ちゃんとそこの赤い嬢ちゃん、そしてその白髪の少年の首を刎ねる事になりますぜ」


「...ボクが素直にお前達に応じれば、この人達に手を出さないのか?」


「ああ、これは約束しますぜ。我からの約束ごとは、ちゃんと守りますぜ」


クロエはリンとフウカを見渡す。

そして決断をして、悲しそうにレイヤに触れる。


「なら、約束して。そしてこの人に薬を与えて。それが条件」


「分かりやした。パンダ、その男に上品な傷薬を与えてやれ」


「く、クロエさん!ダメです!行っちゃダメです!」


「フウカ、ごめんね」


砂が大きな手となり、フウカとリンを掴んで拘束する。


「クロエ!」


「ごめんね、リン。フウカもわざわざ大会に出てくれて。そして、レイヤ。少しの間だったけど貴方との旅は本当に楽しかった。もう会えないのが悲しい。最後にボクの我儘を押し付けるよ」


クロエはレイヤの頬に触り、唇に軽くキスをする。

そしてクロエは涙を流しながらレイヤに微笑む。


「さよなら...サガ、ボクを乗せて」


「...今のは見なかった事にするぞ。王がうるさくなるからな」


「助かる」


「..く..ろえ...クロエ」


レイヤは意識が薄い中、クロエの腕を強く掴んだ。


「い...行くな...お前の意思はどうなんだ?...リン達から離れたいのか?...そいつらの意思じゃねぇ、お前の意思はどうしたい?」


「...これは、ボクの意思だよ。だから、もうほっといて...お願い...これ以上、貴方達を傷つけたくない」


 クロエは涙を流しながら、レイヤの手を振り払った。そしてサガが乗っている砂の雲に乗る。

 レイヤは遠ざかるクロエの姿を見て、手で掴もうとするがもう届く距離にはいない。


...また、失うのか。目の前で俺を従えていた従者達、妹も弟、母さん...カナデを守れなく惨殺され、堕ちていく父さんもバンを止められなかった。デルグは俺たちを守る為に盾となって死に、サラは俺を生かす為に犠牲になった。


 もう、これ以上失うのが怖くて強くなろうとこの1年間何をしてたんだ。結局、何も学んでいないじゃねぇか。何が才能を持ってるんだ。才能があろうと守れなかったら意味がねぇ...なら、いっその事


「レイヤぁ!!!それはダメだぁ!!辞めろ!!」


動けないタラタキは、レイヤの周りに黒いオーラが出た事に大きな声で止めようとする。


「おい!レイヤの仲間2人!あのバカを止めろ!!あれは出しちゃ行けねぇ!!骨を何本か折る覚悟で止めろ!!速くその砂から抜け出せ!ここ一帯を吹き飛ばしなくなかったら!」


 レイヤ...また、妾の力を借りたいか?この腐った世界をぶっ壊したいか?なれの意のままに出来る世界が欲しいか?


誰だお前?


レイヤの頭の中に、誰かが語りかけた。


妾が誰なのかは今は関係ねぇだろ?どうだ?力が欲しいか?あの女を取り戻す力を貸してやろうか?


そんなもんがあるなら、寄越せ...


なら、妾の使徒となれ...前はあの眼帯野郎に止められたが、やっと...


レイヤが纏う黒いオーラが強く放出する。

次第に影の模様がレイヤに顔半分に現れる。


「...」


一瞬の出来事だった。

ガルドーザが顔の模様が広がるレイヤをぶん殴った。


「やはり、お前は悪魔憑きだったか。レイジー」


その後ろにはマントを背負って深くフードを被っている3メートル以上もある大きな人間がいた。


「...気絶はさせた。後は大丈夫だろ」


斬奏ざんそうせよ、氷蓮妙蘭ひょうれんみょうら鬼夜叉白姫んおにやしゃしろひめ


レイヤを中心に、雪の結晶の様な模様が現れる。

 そしてそこから現れるのはサラサラとした黒髪ロングに般若の仮面を付けている白い着物を着た、太刀を持った何かがいた。


「その素質はあるのか...羨ましいぞ」


ガンドーザはニヤリと笑う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る