第50話 拳王
「ガハっ!」
涙を流したタラタキをレイヤは蹴り飛ばした。
「男との再会で涙を流してんじゃねぇ」
元拳王でもあるタラタキが涙を流している姿を周りの人達に見られる前に吹き飛ばしたのだ。
「本当、容赦ないな。レイヤ」
「それで、一年以上ぶりになんだ。久しぶりにやらないか?アンタがどれほど強くなったのか、俺に見せてくれよ」
「レイヤ、お前は剣士なんだ。鍛えた拳闘士の俺に殴り合いで勝てると思うか?」
「やってみないと、分からねぇだろ?」
「?!...レイヤ、そのポーズの意味を知っているだろ?本気で言ってるのか?」
レイヤは自分の心臓部分に親指で示す。
そのポーズは、タラタキが過ごしたスラム街では、防御を全てて攻撃だけを専念する合図。タラタキはそのポーズの意味を、まだ覚えていた事に少しは驚いたが、レイヤと同じように自分の心臓部分に親指を当てる。
そして、2人はゆっくりと歩みお互い間合いが届く距離まで近づくのであった。腰を捻らせて、お互い相手の顔面に向かってパンチを放った。その威力、地面に亀裂が入るレベルだった。
「そうこなくちゃ!レイヤァ!」
「アンタ、前より騒がしくなったんじゃねぇか?」
「当たり前だぁ!死んだ男が俺の前に現れて、生きてた事が分かったんだ!騒がない方が無理なんだよ!」
2人は殴られようが、倒れることはなく、避けも防御もしない相手を連打!連打!連打!と放つ。
「闘いの最中に悪いが、どうしても気になるんだ。他の奴らはどうしてる?正直に言って欲しい。誰が死んだのか、生きている奴は今何をしているのか?」
「みんなお前が死んだ事に天朧にいる必要がなく離れ離れになった。ホクトのアホはお前が死んでないと言って、どっか旅をしている。サクヤはお前の死を受け入れて居なく突然消えた...いや、多分サクヤは桜聖道国にいる。お前の生まれ国、日の国の第二国、そしてお前とサクヤが出会った場所にいる...ホクトはどうせ生きていると落ち込むなと励まして居たが、お前の死で1番悲しんでいたのはサクヤだ。本当に苦しそうだったし、ずっと泣いていた...」
タラタキは苦しそうな表情で仲間の顔を思い出し、レイヤの腹に目掛けてパンチを打ち込む。
「ガハッ、今のは効いた」
「だから、少しお前を恨んでいるだぜ。生きてるならすぐに教えてくれよ。どうやら、遊んでいたらしいじゃねぇ」
タラタキはチラリとレイヤを応援する、リン達の方向に視線を移した。
「そして、お前も知っていると思うがデルグとサラは亡くなって。セドはお前ら3人の死の元凶とこの世界と人間を恨んでいる。まぁ、何しているかは俺も知らねぇ?あと、2人も今どこにいるのか何してるのかは、分からない」
「そうか。それを聞けて良かった。みんな生きてるならそれで良い。どうせ、またどこかで会えるさ」
「...」
レイヤはパンチをタラタキは自分から顔を、レイヤの拳に向かわせて顔面で受け止めた。
「ならさ、先にサクヤに会ってくれないか?今でもアイツはお前の死が、死にそうな勢いで悲しんでいるんだ」
「...分かった。じゃ、これが終わったら、次は桜聖道国にいってみるよ。でも、サクヤとはたった一年もない付き合いだ。そこまで悲しむのか?」
「はぁ」
「イ"っ?!」
タラタキは渾身の一撃をレイヤの顔面に放つ。
そのダメージは、初めてレイヤが闘技場で倒れるのであった。
「立てよ。お前はそういう人間だからサクヤがどれだけ苦労していると思ってるんだ?クソ鈍感野郎が」
「え?」
「もう、終わらせる。レイヤ、この1年間確かにはお前は強くなってるよ。でも、強くなったのはお前だけじゃねぇ。俺はこの一年間、戦士として極めたからな」
「戦士として極めた?」
どこか聞いた事があるようなフレーズだった。
タラタキは深く深呼吸をする。何も見た目が変わって居ないのにも関わらず、タラタキから感じる闘気に圧倒されそうだった。
「その反応、お前見えてないだろ?」
「何をだ?」
「もしかしてコレを知らないな?お前、この一年間何をして居たんだ?弱くなったとは思っていたが、違うようだな。あの時からレイヤは成長してない。俺が強くなっただけだったな」
思い出した。この感じ、ピルグと同じ奴だ。
戦士として極める。一体、この言葉の意味はなんなんだ?...まぁ、それよりタラタキの奴、一年前と何も変わって居ないって言ったのか?
「おい、タラタキ。お前は俺の何を知っていると言うんだ?何も変わって居ない?じゃ、見せてやるよ。この一年の修行の成果を」
お互い拳を構える。同時だった、両者は同時に力を込めた拳で最後の体力を振り絞るように、終らない嵐の連打を放つ。
「いてぇな!」
「おいおい、勘弁してくれよ。レイヤは知らないってことは生身の体なんだろ?なんで、耐え切れてる?」
「(それに、なんだこの威力は?俺が極めたモノと同等...いや、それ以上か?...そうか、レイヤは変わってないと思ったが、それは技術の方だったな。この感じ、こいつ力をつけたようだ)」
この1年間、レイヤは大剣を振り続けた。
レイヤは昔から身体能力に置いて鍛えなくても常人離れをしていた。だから、レイヤは力を鍛えずに技術だけを磨いた。だが、それだけじゃダメだと分かり筋肉を鍛えた。技術に圧倒的な破壊力を放つレイヤにパワーを備えれば、その威力数倍も跳ね上がると言うのだった。
「倒れろ!!レイヤぁ!!!」
タラタキはレイヤが拳を一瞬だけ止めた隙に、数発顔面に打撃を飛ばした。その一撃は最後の体力を振り絞ったものだった。
「あぶねぇ。今のはやられる所だった」
「...嘘だろ?」
その一撃を耐え切ったタラタキは、マジか?と呆れた表情を浮かべる。
「悪いな。こっちも負けられないモノを背負っているんだ」
クロエに優勝すると宣言したんだ...
「力の源は技術やパワーじゃなく、想い...この言葉の意味がやっと分かったぞ。サラ!!」
レイヤは全ての力も想いを拳に込めて、タラタキの顔面を強く殴る。タラタキは吹っ飛んで、倒れるのだった。タラタキを呼ぶ応援客も居るが、タラタキが立つ事は無かった。
「やっぱ、アンタ強いよ。ギリギリだよ」
レイヤは拳を握り、天に向かって上げた。
「試合終了!!!今年度他の拳王は、圧倒的な才能を持つ者でもなぬ、連覇優勝した者でもなく、元拳王でもなく、今年度初出場した、ダークホースな白髪仮面レイジー!!!!」
「うおおおおお!!!」
新たな拳王が現れた事に、会場は大盛り上がりだった。
だが、この時のレイヤ達は知る由もなかった。本当の想いを寄せた戦いは今瞬間始まる事に...
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