第41話 怠惰で傲慢な男

夜の酒場にて、丸いデーブルでレイヤ、リン、フウカ、クロエの順で座っていた。


「レイヤとフウカの予選を突破した事に乾杯!!」


未成年のクロエと酒の味が苦手なリンでジュースで、レイヤとフウカは麦ビールで乾杯をする。


「いや、皆さん強くてギリギリでしたよ」


「そうか?俺の目からにはボコボコにしてた様に見えるんだがな」


「少し不敬な人がいたので懲らしめようとしただけです。レイヤさんはどうでした?」


「ん〜あのガルドーザいるだろ?」


バトルロワイヤルでレイヤとタイマンで戦った全身真っ黒な鎧の奴を思い出す。


「正直今回厄介な相手はタラタキだと思っていたが、ガルドーザはタラタキ以上に厄介だ。俺がズルした事を見越して俺の本気を顔で受け止めた。やるとしたらマジでキツい...」


「レイヤさんでも勝てないのですか?」


「勝つよ。勝てなくても俺は勝つ。クロエに勝つって約束したんだ。この大会絶対に勝ってみせる」


「レイヤ...ありがとう」


 クロエは嬉しそうに微笑むが、それをジュースを飲むフリして隠すのであった。それを見ていたフウカは頬を膨らませていた。


「最近、レイヤさん。クロエさんの為に頑張りすぎじゃないですか」


「そりゃ大切な人の為に頑張りたいだろ?もしフウカも、リンも困っていたら俺は全力で頑張る。フウカは違うのか?」


「...そうですね。すみません、なんか変な事言って」


「フウカ、ボクは独り占めなんて興味ない。フウカが嫌がる事はしない、フウカがしたい様にすれば良い」


「...」


「2人ともなんの話してるんだ?」


 クロエの言葉に何故かフウカは顔を赤くする。そして食卓に料理が運ばれる。レイヤは肉を食べていると後ろから肩を組まられる。


「よぉ、俺お前のパンチ見てたぞ。あれは凄い威力だったな。どうやって打ったんだ?俺に教えてくれよ」


「お前は確か...」


「トルカ=オドレル。テメェと同じ予選突破選手だ。いやぁ〜あの前回チャンピオンの一撃を受け止めた時は鼻で笑っちまったよ。なんで、羽虫同士の戦いであそこまで盛り上がったのか分からない。俺から見りゃ才能のないガキどもの喧嘩だ」


 初対面から煽るトルカをレイヤは無視して食事を続けた。


「おっ、なんだこの美女3人は!アッハハ!虫臭いじゃないか!この俺様もこのパーティに参加させてくれよ、同じ予選突破選手同士で今宵は楽しもうじゃねぇか!」


「うるせぇな。その酒臭い口を開くか、食ってる飯が不味くなる」


「アッハハ!羽虫の癖に良く言うじゃねぇか!」


 レイヤの髪を掴み机に叩きのめそうとした時、リンは瞬時に後ろに周りトルカの首に剣を当てる。トルカはピタリと止まりリンの方に視線を向けた。


「おい、なんだこれは?」


「しつこい奴は嫌い」


「フッハハ!なるほど此奴らはお前のボディガードって奴か?フハハハハ!男として女に守られるなんて恥ずかしくねぇのか?!」


「なら、こっちも言うぞ。お前は男として恥ずかしくねぇのか?昨年逃げた相手と戦わずして雑魚と言ったその思考に」


「あ?逃げた?なんの話だ」


「お前は確か去年、二日酔いのせいで大会に出れなくなって棄権したんだよな?本当は二日酔いじゃなくて、ガルドーザと戦う事が怖くて二日酔いを言い訳に逃げたんだろ?」


『プッ』

『言えてる』

『確かに』

『フフ』


レイヤはわざとらしく大きな声を出す。

 それを聞いた他の客達はクスクスと笑い出す。トルカはその侮辱に顔が赤くなりレイヤを睨む。


「適当な事を言ってんじゃねぇ」


「なら、ここでテメェの強者面の皮をひん剥いてやろうか?」


「テメェ、羽虫の分際でイキリやがってよ。テメェ如きが、この俺様に勝てる訳ねぇだろうが」


2人が戦闘体勢に入った時、間に割る様に1人の少女が入ってくる。


「や、やめ、やめてぇく、ください」


「「?!」」


 2人の拳はピタリと止まる。いつ近づいて来たのか分からない少女に驚く。そこに居たのは腰まで伸びている銀髪に前髪で隠れている灰色の瞳。プルプルと震えている手には薙刀を持っていた。トルカは警戒心を向けて少女に問いかける。


「お前は?」


「わ、わ、わ、私は!この街の警備団のひ、ひと、1人の、シャーロット=ジャスラトス...で、です」


「そうか。なら、お前ごと潰してやるよ!」


「ひぃぃ!」


トルカは容赦なくシャーロットに向かって拳を上げる。だが、当たる先にレイヤが手首を掴んで止めた。


「おい、あまりにも自由過ぎないか?本戦前にここでやるか?」


「生意気な野郎が!ここでぶち殺してやる!」


「辞めろトルカ!お前はここで失格になり借金を増やしたいのか?!」


するとスーツのサングラスの男が焦った表情でトルカの暴走を止める。


「親父...ああ、わぁったよ、スネイ!」


 スネイと呼ばれる男が止めに入り、トルカは少し落ち着いて店から出て行った。そしてトルカが飲んだ分のお会計をスネイが代わりに払う。


「皆さま、大変ご迷惑をおかけしました。このご無礼は後日にお詫びいたします。それでは失礼致します」


 トルカの時と違って、丁寧な言葉に店にいる客達に謝るのであった。そしてレイヤに一礼をしてトルカの後を追う。


「お、お助けくださり。あ、あ、ありがとうございます!」


シャーロットは殴られると思い脚をプルプルと揺らしながら、レイヤの服を掴み涙目になっていた。


き、気のせいか?一瞬だけ只者じゃなと思ったが...


「や、やばい!も、もうこんな時間!こ、こともお、お、終わりましたし、わ、私はここで失礼し、します!」


シャーロットは慌てた様子で酒場を出て行くのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る