第38話 元拳王
「得物があるなら、それを使っても構わねぇぜ?」
「それはお互い様っす」
リーゼントの男はレイヤに向かい。
仮面に目掛けてパンチを入れる。
「喧嘩にそれは不必要っすよ」
だが、レイヤは横に避け肋に目掛けて蹴りを入れる。だがリーゼントの男は足を曲げてレイヤの蹴りを太ももで受け止めるのだ。
「へぇ、なかなかの良い反応だな」
「そうっすか?褒めて頂き光栄っす」
そして2人が近づきお互いの拳が飛び出そうとした時。
「ストップです!」
「辞めろ!フミュウ!」
フウカと赤髪の短髪の男が声を上げて、2人の勝負を止めた。そして赤髪の男や後ろには腰まで伸びている髪を結んでいる男がいる。
「大会前に問題を起こしてるんじゃねぇ。お前ぇと戦えなくなるだろ」
「すいやせん。タラタキの旦那」
「本当、フミュウは武の美しさも欠けらも無いですね」
「あ?ここでお前とよNo.2の席の奪い合いの続きをしても構わんすよ?」
「良いですね」
髪を結んでいる男は自分の手をタオルで拭き、フミュウと呼ばれた男を睨みつける。
「辞めろスイリュー。決着をつけてぇなら、大会でやれ」
「すみません、大旦那」
「それで、こいつらは何だ?なんで、こんな所にいる?」
赤髪の男...タラタキは仮面のを被っているレイヤを見る。
「ここにこれた事って事は普通じゃねぇな?俺らの敵か?」
「いえいえ、優勝者候補を一度この目で見たかったのですよ。俺の名前はレイジー、貴方がタラタキですね」
「レイジー?知らない名前だな。お前も大会に出る奴なのか?」
「はい」
「...あー握手か」
レイヤは手を差し出し、タラタキと握手を交わす。
レイヤの手を握ったタラタキは、レイヤが強いとすぐに分かった。
「(こりゃ強いな。手を触るだけで分かる、何年?いや、何十年も鍛えた手だ...でも、何だこの手、どこか知っているような...)」
「お前の手は拳闘士向けじゃねぇな?剣士って所か?」
「おお!分かるのですか!素晴らしい」
「この大会は殴り合う大会だ。お前が得意とする剣は使えないぞ」
「ご心配ご無用です。実は俺は殴り合うにも自信があるのですよ」
「そうなのか。まぁ、せいぜい頑張るんだな」
「はい。一目アンタと会えて良かったです。元気で何よりです」
「あ?」
そしてレイヤはリン達を呼びかけ街に戻ろうと声を掛ける。だが、レイヤは何かを思い出し足を止めてタラタキに問いかけた。
「今は楽しいか?タラタキ」
「...何言ってんだ?お前は一体...」
「俺とぶつかるまで負けるなよ」
レイヤは手を振り森の中に消えて行った。
その背中を見たタラタキは、どこか懐かしさを感じる。
「あれは何者だったんすかね?俺の奇襲を簡単に避ける程の実力者っす」
「そうか。なら、少しでも強くならねぇとな。必ず俺は今年の大会を優勝する」
「(あの仮面野郎はなんなんだ?なんでアイツの声を聞くとどことなく安心するんだ...なんで最後、アイツの背中が死んだ大将と背中が重なった?...大将は死んだんだ。また、生きている奇跡なんてあり得ない。俺達の前で大将...
タラタキは昔の出来事が頭の中にフラッシュバックして、その時の後悔を思い出し歯を食いしばるのだった。それからレイヤ達は街に戻っていく。
「なんですかレイジーって、何故名前を偽るのですか?」
「俺が探してた男はあのタラタキだ。やっぱり久しぶりの再会にはサプライズが必要だろ?アイツと試合で被った時に正体をバラそうかと思うんだ。さぞかぞ驚くんだろうな」
「へぇ、レイヤのお友達なんだ。ねぇねぇ、どんな感じだったの?」
「あー、アイツは...うーん、俺の中で知る限り拳だけでやり合うなら、最強だな」
「最強...レイヤさんがそこまで言う程なんですね...ん?でしたらこの大会優勝出来ないんじゃないですか?だって、拳だけでしかやり合えないのですよね?」
拳だけしか使っては行けない大会で、レイヤは大会の賞金を勝ち取ると言った。だが、タラタキはレイヤが知る中で拳闘士の中で最強と語った。そんな最強がいるならどうやって優勝するのかフウカは気になる。
「ほら、よく言うだろ?1人より2人。アイツは金には興味ないから、もし俺が負けた時は、代わりに優勝賞品をゲットしてもらおうかなって」
「うわ〜人任せな」
「まぁ、負ける気はしないけどね。保険を掛けるだけ損はないだろ?だから、必ず一億Gは俺らのもんにするぞ」
レイヤはクロエの頭に手をポンっと置くのだった。
「もし金が集まればクロエは仲間になってくれるんだろ?」
「...うん。あまり事情を教えてないのに、ここまでしてくれてごめん」
「別に謝らなくて良いよ。俺がしたいからしたいだけだ。さっきはもし負けたらタラタキに優勝させて貰うとか言ったが、俺は本気で優勝を取るぞ」
「...ありがとう。レイヤ」
レイヤの宣言にクロエはどことなく嬉しそうに笑うのだった。
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