第1583話、入国

「ん、あれは・・・街、だな」

「まちだー!」

『街だー!』


 陸沿いに暫く飛び続けると、険しい山岳地帯が続いていた。

 ただ暫くすると少しなだらかな地形になって行き、だが深い森が広がる場所に。

 そこから更に暫く飛び続けた所で、街らしきものを発見した。


 気候が随分と安定している暖かい場所なので、辺境の端に踏み入れてはいないだろう。

 おそらく魔獣が強くなる領域の、少し手前に陣取って居る街という所か。

 それでも一般人にとっては強い魔獣が出ると思うし、あの街はその為の壁だ。


「そういえば今更だが、別の場所を通って行く魔獣も居そうなものだよな」


 辺境の奥地から弾き出された、弱い魔獣が外に出て来る。

 それを防ぐのが辺境の街であり、だが必ず近くを通るとは限らない。

 馬鹿みたいに広い範囲に魔獣が生息しているんだ。それは当然の事だろう。


 だが辺境に魔獣が通るのは、何か理由が有るのだろうか。

 牛の居る場所はまだ、牛が誘導している可能性も考えられる。

 アイツは人間社会に属していたからか、その辺りの利点を察しているはずだからな。


 あの街が壁になっているから、背後の街は安全だ。その認識は重要な物だ。

 その認識があるからこそ、辺境には物資が届く。潰れられない為に。

 ただ金を払うから買えるのではなく、潰れられては困るから存在するんだ。


 勿論商人共も利があるから向かう訳だし、金払いが良いのも大きな理由だ。

 だが、必要な壁なんだ。国が存続するには、生きていくには、必要な壁。

 そういう利点を牛が理解している可能性は大きく、誘導している可能性も大きい。


 その結果何人も死ぬかもしれないが、牛にとって大事なのはあの砦だ。

 それに領主にとっても、魔獣に砦を素通りされるのは少々不味い。

 被害は確かに出るかもしれないが、あの街の存在価値の為には大事な事だ。


「・・・いや、逆か。牛の所はそうかもしれないが、他の場所は逆でないとおかしいか」

『逆ー?』

「う?」

「街がある理由だ。街に魔獣が向かうんじゃなく、魔獣が通る場所に街を作ったんだろうなと、当然の事に思い至っただけだ」


 牛が居る辺境は、俺の予想通り誘導している可能性が有る。

 だが他の場所に関しては、そもそも前提条件が違うはずだ。

 砦が先に在ったのではなく、この過酷な土地が出来たから生まれた街だろう。


 つまり魔獣の通り道に街を作り、壁となる様にしているはずだ。

 でなければ意味が無いし、もっと遠くに街を作っても良いと思う。


「まあ、出来ればもっと奥地に街を作りたいんだとは思うがな」

『森の中はキノコがいっぱいだもんね! 羽集めにも良いよ!』


 それは全く関係が無い・・・とも言えんか。土地は国の財産だ。

 もし辺境の奥地を開拓できるなら、きっとその方が利益になる。

 だがその為には強い兵士と装備が必要で、金も大量に必要になる。


 安定すれば利益の方が多いだろうが、初期投資にどこまでかけられるかが問題だ。

 そもそも成功しない可能性もあるからな。開拓しようとした結果大赤字も普通にある。

 辺境の森の開拓は、普通の開拓村を作るのとは話が違う。実力者が要るからな。


 人も金も失う事になれば、赤字で済めば良い方だ。最悪国に影を落とす。

 そんな博打を打てるような人間など、中々居はしないのは現実だ。


「さて、どうするか・・・あの街に行った所で、港は無い様だが」


 見つけた街の傍にも海は有る。少し走れば海岸がある。

 ただし人が下に降りるには厳しい、断崖絶壁だらけの海岸が。

 こんな所に港は作れないだろうし、そもそもこの辺りも魔獣は強そうだ。


 だが港に辿り着く事が目的と考えると、このまま海沿いに行く方が迷子にならない気がする。

 となればあの街を通ってしまうか。いや、別にとりあえず素通りでも構わないのか。

 まだ明るいし、街に寄る必要は無いし、目的地まで日は暮れないだろうし。


「・・・よし、このままいくか」


 そう決めて街の上空通り過ぎようとしたら、大量の矢が飛んで来た。

 まあ、そうなる気はした。むしろ攻撃しなかったら何の為に在る街やら。


 しかし中々腕がいいな。ちゃんとここまで届いてる。

 さて、街の存在意義を考えると、喧嘩を売られたと判断するのは難しい所だ。

 地面を歩いて顔を見せている訳じゃないからな。魔獣か何かだと思われているだろう。


「まあ、素通りで良いか」


 全部岩壁で防ぎ、下の大騒ぎを無視して国に突っ込んだ。

 先制攻撃を許してやった代わりに、その騒ぎは許容して貰うぞ。

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