第1581話、海へ

 荷物を回収したら早速魔術を使い、少し高度を上げてしっかりと方向を確認。

 天気が悪いので日の光での確認はやり難いが、街が見えているので問題は無い。

 一応地図を開き、もう一度確認をしつつ移動を始めた。


『ひゃっほーい! 僕は風だー!』

「かぜだー!」


 精霊とシオは楽しげだが、そういうのは風を感じる時に言う言葉な気がする。

 今は風の魔術も使って追い風にしているので、一切風は感じないんだが。

 まあ良いか。突っ込むだけ無駄だ。俺は飛ばす事に集中しよう。


 そうして暫く飛ばし続け、昼頃にいったん休憩を取って昼食に。


「ん、美味いなこれ」

「おいしー。ヨイチ、これとこれ、はんぶんこしよー」

「きゅっ」

『兄も! 兄も半分こ! いや、妹達とで三分の一こしよう!』

『私も半分こしたいわ・・・』


 出発前に持たされた手軽な弁当をのんびり食い、軽めの昼食で済ませてまた空を飛ぶ。

 ヨイチにはまるで足りない量だと思うが、今回は我慢して貰おう。

 まあ朝食をしっかり食べたので、恐らく大丈夫だとは思うが。


 基本的に燃費が一番悪いヨイチでは有るが、一応我慢は出来ない訳じゃないしな。

 そうして飛び続ける事暫く、目的地が近い事が解る光景が広がって来た。


「わぁ・・・みーちゃ! みーちゃ! みずいっぱい! すごいいっぱい! へんなにおい!」

「きゅぅ・・・みずのむこう、なんにもみえない。ちょと、こわい」

『うーみだー!』


 辺境の山、魔獣が生息する山を抉るように地形が変わって行き、海が眼下に広がっている。

 周囲に港町などは無い。たとえ海に抉られていようが、魔獣の生息地な事は変わらんからな。

 というか、この辺りの海にも魔獣が多いんじゃないだろうか。


 陸にしか魔獣が居ない、何て保証はどこにも無いからな。

 むしろ海の方が、人間には抗いがたい環境のはず。

 下手をすると雑魚の魔獣にすら、船を沈められる事で簡単に負ける気がする。


「地図で一応解っていたが、確かにこの地形となると間に街は作れんな」


 目的地の国は、こうやって魔獣の巣窟の森と海を天然の壁とした港の国だ。

 とはいえ片方だけの話ではあるが、片方だけでも随分と話は変わる。

 守るべき方向が少ない。それだけで国防には随分余裕が出るだろう。


 海賊稼業なんて出来てしまうのも、それが大きな要因だろうよ。


「険しい山岳地帯、魔獣の山のギリギリ端を運良く超えるか、大陸を大回りして運ぶか、素直に金を払って海を行くか。成程、どう考えても海を行った方が確実に儲けになるな」


 どうせどこかで関税を払うのは、何処の国を通っても同じ事だ。

 ならば暴利でさえなければ、素直に通行料を払う方が儲けになる。

 海賊共とて馬鹿でさえなければ、その辺りの額の調整はするだろう。


 特に国と組んで海軍もどきをやっている以上、その辺りの相談役も居るはずだ。

 けして安くは無いが、高過ぎもしない。この海を安全に通れるなら支払える額。

 そういう塩梅を見極めた港町が、これから向かう目的地か。


「喧嘩さえ売られなければ、特に問題無く行けそうだが。さてどうなるか」


 金さえ素直に払えば通してくれる。そうなってくれるのが一番楽だ。

 だが辺境領主が言っていた様に、既に手を組んでいる可能性もある。

 実際どうなるかは・・・まあ、行ってみれば解る事だ。


 もし敵になるなら、当然叩き潰すだけだしな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る