第1557話、葬儀の準備

「折角だしもう一日ゆっくりして行かないか?」


 食事を終えた俺達に対し、王女がそんな事を言って来た。


「何だ、明日何か有るのか」

『お祭りでもあるのー?』


 ある訳ないだろ。女王が死んで直ぐだぞ。


「母上の葬儀だよ」

『お祭りじゃなかった。しょぼーん』

「随分手早いな。普通国王の葬儀など、大きな物になるから時間もかかるだろうに」

「外の客を呼ぶ気が無いからな。それにこの国は小さいから通達も早い」


 国と言って良いのか解らない程に小さな国。街サイズの国だからこそか。

 とはいえ国交が在るのであれば、普通は他国に知らせるものだと思うが。

 国王の交代も、それなりの外交の種だ。周囲はその辺りの反対をしなかったんだろうか。


「それに私達は力の象徴だ。故に誰が女王でも、他国にとっては変わらない存在だ」

「・・・成程」

『つまり本当はお祭りにしても構わない。そういう事だね! よーし、今から屋台の準備だ!』


 女王はこの国にとっては英雄で崇める存在だが、他国からは『兵器』の様な認識か。

 勿論挨拶に来れば頭を下げるだろうが、外交の為に話をする相手という認識に無い。

 何せ王の代替わりも激しいからな。下手をすれば10年で交代するんじゃないか。


 勿論他国とてそういう事は有るだろう。王が早死にしたりな。

 だが大体は20年か30年は王の交代など無い筈だ。

 長ければそれこそ王の老衰まで交代が無く、100年ぐらい同じ王の事もある。


 王同士での外交をするには、この国の女王達の任期は余りに短い。

 それに女王の存在意義を考えれば、外交を気にしている余裕も無いだろう。

 女王は英雄でさえあれば良い。旗印でさえあれば良い。だからこその葬儀の早さと。


「いや、他国にとっては恐怖の象徴かもしれんな。歴史を紐解けば、この国を併合しようとした連中を痛い目に合わせた記録が多い。他国ではどういう風に記録されているかは知らないが」

「はっ、ありそうな話だ」

『お尻ぺんぺんして回ったの? 皆お尻が腫れて動けなかったの? お尻パンパン・・・はっ、お尻がパン。つまりお尻を食われた・・・!? 大変だ妹よ! お尻を叩きに行こう!』


 この国は利用価値がある。魔境の魔獣に負けない力の壁としての価値が。

 だが街の作り的に、警戒をしているのは山側に対してだけ。

 人対人の戦争を余り想定していない、のどかな畑が広く広がる国だ。


 街の規模としては中々でかい畑を持つ国で、恐らく自給自足は余裕で出来る。

 その上魔獣の素材も売れるとなれば、裕福などと言うレベルでは無いだろう。


「下手をすると1,2国滅ぼしていそうだな、貴様らは」

「流石にそこまでは無いさ。後々に滅んだ、という記録はあるけどね」

『盛者必衰だねぇ。ふふ、兄は物知りでしょう。知ってる? せいじゃじゃないんだよ? じょうしゃなんだよ? おぼえておいてね? 兄は物知りでしょー。えっへん』


 それは結局滅ぼしたに近い気もするが、最終的な要因は別と言いたいのだろう。

 この国に余計な手を出し、手痛い仕返しを喰らい、更に横から腹を撃たれたとか。

 まあ文明レベルの低い時代の、大陸の繋がった国なんて大体そんな物だがな。


 簡単に国が出来て、潰れて、呑まれて、大きくなって、また分裂して。

 そんな事の繰り返しだ。戦争をする方が損になる時代になるまでは。


 結局戦争も内政の手段で、外交の手段だからな。だから戦争は無くならない。

 一時的に無い時代が出来たとしても、何時かはどこかで始まってしまう。

 世界はそんな物だ。たとえ星一つが同じ国になってもそれは変わらない。


 どこかで、誰かが争い、力で物事を変えようとする。絶対にだ。


「それで、どうするかな。貴殿が断ったのも、そういう諸々の準備の必要から来る長さを考えての事もあったんだろう。勿論茶番だと言うのもその通りだろうと思うが、母上は出来れば君にも出て欲しいと願っている。君に見せたい物があるとも言っていた」

「俺に?」

『何々、綿あめでも用意してくれるのー?』


 女王が見せたいという物か。それは確かに、少々気になる所では有るな。

 実際彼女の言う通り、女王の葬儀など時間がかかると思っていた。

 だからこそ起きたら出て行くつもりだったが、そういう事なら良いだろう。


「一日程度なら構わん。どうせ二日も寝ていた身だしな」

『何なら兄は一週間でも寝れるぞー! うおー!』

「・・・そうか、良かった。ありがとう、ミク殿」


 そうして出した俺の結論に、王女はホッとした顔で安堵の息を吐いていた。

 さて、女王は一体何をするつもりやら。

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