第1547話、プイプイの乗り心地

「プイプイ」

「プイプーイ!」

『兄だって可愛く鳴けるもんね! プイプイッ!』


 俺が出したモルモットに早速抱き着くシオと、相変わらず対抗心を燃やす精霊。

 やっぱりお前、俺の為よりも自分の欲望の方が大きかっただろう。

 今のお前なら自分で出せるだろうに。いや、そうすると抱きつけないからか。


 先日の件で、真剣に踊りながらであれば、シオにも大魔術が使える事も解った。

 問題は、踊りながらでしか使えない事だろう。そうするとモルモットと遊べない。


「プイッ」

「プイプーイ! もふもふー」

『兄だって、兄だってもふもふになれるんだよ! ほら、見てほら! モフモフ!』


 モルモットは心なしご機嫌に鳴き、シオも嬉しそうに抱き着きながら撫でる。

 精霊は前に見せた毛玉状態になったので、取りあえず掴んで彼方まで投げ捨てておいた。

 これで暫くは戻ってこないだろう。疲れているのに更に疲れる要素は要らん。


「本当にこれは、魔術なのか?」

「温かいですよ、お姉様。心音も聞こえます」


 王女姉妹は現物を見ても未だに信じられないのか、モルモットを触って色々確かめている。

 魔力を感じないから余計にだろうな。今のモルモットは魔力を纏っていない。

 戦闘用に出していないので、完全に魔力放出無しのデカいモルモットだ。


 こうなると一切魔力の気配が無いので、本当にただの動物にしか見えない。

 まあ、虚空から現れる所を見てしまえば、普通の存在ではないとすぐ解るが。

 だからこそ余計に、精霊の力だと思いたいのだろうがな。


「何なんだこの魔術は。明らかに異質だ。魔術を使った事すら解らない」

「構築の速度が速いとか、そんな次元じゃないですよ、これ」

「母上のとの戦いの時は魔力の流れぐらいは見えたのに」

「でもお母様が防げなかった時は、突然出て来ませんでしたか?」


 この姉妹、水晶無しでも多少は戦えるように訓練しているんだろうな。

 でなければ今の発言は出て来んだろう。とはいえ、実戦レベルでは無いのだろうが。

 水晶が無い場合は、護衛ありきの逃げる時間が稼げる程度の腕だろうな。


「おい、そろそろ元の目的通りに使わせろ」

「プイプイッ?」


 お前が疑問を持つな。何で俺が作り出したお前が疑問の鳴き声を上げるんだ。

 俺が乗る為に出したんだろうが。何で当たり前の様に楽しく遊んでやがる。

 本当に何なんだこの魔術は。意味が解らない部分が相変らず多過ぎる。


「良いから乗せろ。こっちは本気で疲れているんだ」

「プイプイッ」


 任せろと言わんばかりの意思を感じるが、鳴き声はやはり緩い。

 もう色々諦めて背に乗ると、当然シオも俺の後ろに乗って来る。

 ただヨイチは乗る気が無いのか、モルモットの横に移動した。


「ヨイチ、のらないの?」

「それ、すこし、ちいさい。ヨイチのる、おもい」


 小さい・・・かと言うと、そんな事は無いんだが。むしろ下手な馬よりデカい。

 なので別にヨイチが乗った所で問題は無いし、ヨイチより俺の方が重いぞ。

 装備込みだと確実に大の大人の何倍もあるからな。


 そう言えば今回、手甲が砕けなかった。ヒビは入ったが、その程度だ。

 以前なら完全に砕けていたと思うんだが、魔力制御の腕が上がったからか?

 この程度のひびなら魔力循環で直るとは思うが・・・まあ、それも後でだな。


「ヨイチ、気にするな。乗れ」

「そうだよ、だいじょうぶ。プイプイつよいから!」

「きゅ・・・わかた」


 俺の言葉、というよりもシオの言葉に従い、恐る恐る後ろに乗るヨイチ。

 だが当然このモルモットの元は魔獣なので、その程度で揺らぐ事は無い。

 そもそもコイツ足が短いからか、やたら安定感がある。馬より乗り易い。


「おお・・・良いな、この乗り心地は」

「わぁ・・・ふわふわ・・・」


 尚一応王女姉妹の分も出してやった。戻るのに居ないと面倒だしな。

 本当なら明日には出発のつもりだったが、明日一日ゆっくり休みたい。

 でないと流石に体がきつい。節々が軋む。回復の時間が要る。


 肩に穴も空けられたしな。もう直ってはいるが、これが一番痛い。

 腕を動かすだけで痛みが走る。全くもって化け物め。


「ほら、いく・・・草を食うな! 歩け!」

「プイッ?」


 プイッじゃないんだプイッじゃ! 本当にお前は何なんだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る