第1543話、敗者は誰か

「・・・みーちゃ、たのしかった?」


 女王の死に顔を見つめていると、そこまで言葉を発さなかったシオが訊ねて来た。

 だがあの戦闘を見て、どう考えたら楽しいと思えるのか。普通は楽しいとは思えんぞ。

 特に最後の一発は、本当に頭をぶち抜かれる所だった。それだけの力が有った。


 本来なら、最後の切り札だったのだろう。他の全ては確実に当てる為の布石だ。

 だが時間が無かった。撃つしかなかった。もうあの時しかチャンスが無かった。

 もし彼女が万全であれば、もっと別の状況でアレを撃って来ただろうな。


 だが、勝ちは勝ちだ。殺し合いはそんな物だ。お互い万全でやれるとは限らん。

 そしてお互いに承知の上で、やれる事をやり切った。ただそれだけだ。


「いいや、全く。何度死ぬと思ったか解らん。怖いだけで欠片も面白くなかった」

「ふふっ、そっか。よかったね、みーちゃ」


 コイツ、俺の返答を聞いていたのか。面白くないと言っただろうが。

 なんでこう、俺の周りは俺の返答を素直に聞かない連中が多いのか。


「俺は二度とやりたくないぞ、ここまでギリギリの戦闘なんてな」


 俺は別にコイツや武王の様に、戦いその物が好きな訳じゃない。

 だが自分の我を通す為に決めた事を、相手が強い事を理由に曲げたくないだけだ。

 相手が強いから止めるなら、最初からやるべきでは無いし、我が儘を通すべきではない。


 勿論そういった、相手を見る生き方、を否定するつもりは無い。

 だがそれは主目的が違う。生きる目的その物が違う。

 俺は自分の我が儘を押し通している以上、そんな塩梅を読む気は無い。


 そして俺もし絡んできた場合は、強いから手を引くという手段を許すつもりもない。

 弱者を虐げていた以上、同じ様に弱者として虐げられるのも当然だ。

 そう思うからこそ、俺は相手が強者でも曲げはしない。ただ強いだけなら貫き通す。


 他者の生き方は自由だ。自由だからこそ、結末への覚悟と責任を持つべきだ。

 そして女王は最後まで、本当に最後まで、自由に我が儘に生きた。

 俺にはそれが少し羨ましくて、こんな最期を遂げられる事実を見れた事が少し嬉しい。


『ねー、妹ー!』

「ん?」


 そこで突然精霊が声をかけて来た。そう言えばお前随分静かだったな。

 途中で邪魔して来るかと思ったが、一切邪魔もして来なかったし。

 そう思い視線を地面に向けると、そこに在ったのは小人ではなく水晶だった。


『これ壊すから、妹はちょっとはなれててー。ちょーっと力強くなっちゃうから』


 違った。水晶を持ち上げている小人だった。どうやら土の中から回収したらしい。

 俺が全力で二回もぶん殴ったのに、一切壊れた様子の無い水晶。ヒビすら入っていない。

 だが精霊はそれを容易く壊すと言う。ただ流石に相応の威力が居るのだろう。


 おそらくではあるが、コイツはずっと壊す機会を狙っていたんじゃないのか。

 だが余りにも頑丈過ぎて、壊すには俺の存在が邪魔だったんだろうな。


「よこせ」

『あ、自分で壊したい? でもそれ壊すの、妹にはちょーっと難しいんじゃいかなー? 兄? 兄はね、兄だからね。それぐらいちょちょいのチョーイなんだよ。ふふーん』


 聞いていない。精霊を無視して水晶を手に取る。

 すると王女姉妹もこちらに気が付き、何をするつもりかという目で見ていた。

 取り返す行動はしないらしい。下手に敵対行動を取りたくないという事だろうか。


 まあ、どうでも良いか。俺はこの姉妹に余り興味は無い。

 俺にとってこの姉妹の存在は、あの女王の娘だという事だけだ。


「ふんっ!」

『おおっと、妹の踏みつけが決まったー! 水晶、これは抜け出せないかー! カウントを取ります! ワン、ツー、スリー! カンカンカン、妹の勝利だー!!』


 姉妹の事は一旦放置して、水晶を地面に投げつけた後、全力で踏みつける。

 女王が玉っころと文句を言っていた時と同じ様に、ガンッと音をさせながら。


「下らん道具だな、貴様は。俺に二度も負けた気分はどうだ。今回の戦いで負けたのは俺じゃない。そして女王でも無い。貴様だ。貴様が下らん道具だから負けたんだ。俺に負けた事に怒りを覚えておきながら、持ち主を全力で戦わせなかった。実に下らん」

『おおっと、妹、敗者への更なる追い打ちー! これには水晶も苦しいかー!』


 俺と女王の勝負は、殺し合いは、お互いが万全ならもっと長く続いていた。

 それぐらいに女王は駆け引きが上手かったし、恐らくもっと引き出しがあった。

 だが時間が足りなかった。それは誰のせいだ。この馬鹿のせいだ。クソ水晶のせいだ。


「貴様の力が有るおかげで女王が強かった事は認めてやろう。だがな、貴様は俺に敗北した事に怒りを覚えておきながら、結局は持ち主に力を貸し切らなかった。アイツは俺に勝っていたかもしれなかったのにな。貴様が下らん道具でなければ、しっかりと力を貸していれば」

『おおッと、まだまだ終わらない、妹のストンピングが続くー! 水晶、まだやれるか!? やれるか!? やれんのかおい!』

「ミク殿・・・!」


 もう一度ガンと踏みつける。姉妹が何故か涙目で俺を見ている。

 別に女王の為に行っている訳じゃないぞ。ただコイツが気に食わないから言っている。

 俺に挑発されて、怒りを覚えて、だと言うのに最後までやり切らなかったコイツに。


「敗者は貴様だ。貴様一人が敗者だ。何が呪いだ。何が希望だ。下らん愚者が」

『敗北者、敗北者宣言です! 水晶、言い返せない! 何も言い返せないー! どうするすいぐえっ。あれ、妹、すいしょうはぐえっ。待って待って、兄、兄踏んでぐえっ。うわーん!』


 流石にイラっとしたので、今度は全力で精霊を踏みつけた。本当に、コイツは。

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