第1541話、一撃とは
「―————さて、無駄話はこのぐらいにしておくか。時間も無いしな」
女王はそう言いながら、高速で、真っ直ぐに突っ込んで来た。
会話を続けるふりをしながらの突貫だ。時間も、の辺りで踏み込んでいた。
だが一切油断せず構えている以上、その程度の不意打ちに意味は無い。
高速ではあるが見える速度で―—————捉えられる速度なのがおかしい。
纏っていた魔力は明らかに異常な量だった。俺の限界強化と同じかそれ以上だった。
ならばこの程度のはずがない。普通に対応できる速さなはずがない。
不穏を感じて即座に横に飛び、女王の軌道から逃げる。
「っ」
「逃がすかよ!」
だが当然彼女はそれを追いかけて来た。
先程まで震えていたとは思えない、しっかりとした踏み込みだ。
俺が避ける事を前提とした、軌道を変える前提の動きだな。
あの速度は単純に、俺を追えるように抑えているだけか?
なら少々不味い。逃げきれない。奴の加減した速度は、俺より速い。
限界強化を使えば勝負は出来るが、問題は俺がガス欠になった後だ。
魔力量は問題無いが、体の方が付いて行かない以上、絶対に隙が出来る。
おそらく奴は、俺がワン・ツーで殴る腕を変えた理由が解っている。
俺の強化が制御し切れていない諸刃の剣だと。
だが使わねばこのまま追いつかれて、そのまま一撃を入れられる。
「プイプイッ」
「ちいっ! 本当に邪魔だなコイツ! 気の抜ける鳴き声しやがって!」
ならば俺は逃げつつ壁を作る。今の奴は一撃を叩き込むしか俺に勝つ方法が無い。
その力をモルモットに使ってしまえば、俺を仕留める事は出来んだろう。
更に言えばモルモットの対処をしている隙を、俺が狙って攻撃する事も可能だ。
彼女もそれが解っているが故に、目の前に突然現れたモルモットを大きく躱す。
尻側に逃げられると対処出来んな。コイツ後ろに下がるのは遅いし。
そもそも壁にする為に腹ばいにしたから、即座に動く事が出来ないんだが。
だが、それで十分だ。奴に狙いが何であれ、接近したいなら近づかない。
その為の時間を、俺が攻撃する為の時間を十分稼げた。既に土の魔術の準備は済んでいる。
「っ、クソ、魔術の構築速度が早過ぎるんだよ!」
「それを散々叩き潰して来た貴様に言われたくはない」
草原に大量にある土を、制御が許す限り引き上げてきた。
周囲を穴ぼこだらけにすると動き難いので、少々遠くから持って来た土だ。
女王の妨害砲撃が無い今ならば、この短時間でもこれぐらいの事は出来る。
シオの真似では無いが、空に伸びる一本の土の棍を、女王に―————。
「そして、二度目は喰らわん」
「ちいっ!」
―————ではなく、全力で、俺の死角に陣取る水晶へ向けて撃ち放った。
それと同時に水晶から膨大な魔力が、俺に向かって撃ち放たれる。
これは読んでいた訳じゃない。ただ両方を警戒して、水晶から魔力を感じただけだ。
勢いを付けた土の魔術の攻撃力は、水晶の砲撃を飲み込んで行く様に見えた。
実際は長く伸びる土の棍の先の魔力が削られ、ただの土に返って行っているだけだ。
その繰り返しで段々と積もっていき、唯々周囲を土で埋め尽くそうとしている。
だが土の魔術では押し込めない。砲撃の方が威力は上だ。
このままだと打ち負ける。攻撃力は有るが、耐久性に難があるからな。
それでも、もう関係が無い。これで、終わりだ。
アレが最後の一撃ならば、もう女王に次の手は無い。
ならばと魔術で水晶を抑えている間に、手刀で女王の腹を貫く。
「がふっ・・・くそっ・・・」
「貴様の負けだ」
あれだけ固かった彼女の体に、容易く突き入れられてしまった。
反応も出来ていなかった。本当に、アレが最後の一撃―————。
「ぐうっ!?」
「くそ、震えで狙いがぶれた・・・畜生、今の当たってりゃ、アタシの勝ちじゃねえか・・・」
―————極小に圧縮された高速魔力弾が、俺の肩をぶち抜いて行った。
クソ、最後の一撃って言葉すら嘘か。本当に貴様は、やってくれる。
もし狙いの通りであれば、頭がぶち抜かれていたかもしれん。
放つ瞬間は感じ取れたが、躱そうとした上でぶち抜かれた。
「化け物が」
思わずそんな言葉を口にしながら、女王から腕を引き抜く。
「へっ、嬢ちゃんに、言われたく、ねえよ・・・ああクソ、やっぱ、治らねえなぁ・・・」
女王は流石に今のが本当の最後だったのか、力なく倒れてしまった。
仰向けになって腹を触り、塞がらない事を悔しそうにしている。
万全ならば、まだあの程度は致命傷では無かったのだろう。
・・・水晶も沈黙している。今度こそ、本当に終わりか。
「へっ、負けかぁ。悔しいなぁ。畜生、勝つつもりだったんだがなぁ。最後まで負けるつもりは無かったんだがなぁ。げほっ・・・なあ、楽しかったか、嬢ちゃん」
「欠片も面白くなかった。何度背筋に怖気が走ったか解らん」
俺を貴様らと同じ戦闘狂だと思うな。戦い事態は好きじゃない。面倒だ。
「はっ、そうかい。ククッ、なのに付き合ったのか・・・本当に馬鹿ね、貴女。優しいのは良い事だけど、そんな不器用な生き方を続けていたらあっさり死ぬわよ」
「それならそれで仕方ない。でなければ貴様とやっていない」
そうして、終わった以上、もう残るのは母としての女王らしい。
口から血を吐きながら、優しく微笑む姿は本当に心優しい女に見える。
いや、本当なんだろうな。この姿も本物だ。コイツは『母親』なんだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます