第1537話、信じている

 お前が見ていた魔力の流れは、全部俺がわざと見せていた物だ。

 初手でこれをやれば入っていたかもしれない。だが無理だったかもしれない。

 ならば俺からの魔力の流れを警戒させて、全く無意識の場所から攻撃すればどうなる。


 まあ、つまる所意趣返しだ。先の背後からの魔力弾へのな。

 出現したモルモットは、既に短い前足を女王に叩きつける動作に入っている。

 モルモットの前足の叩きつけとか、やっておいて何だがやはりシュールだな。


「っ!」


 女王は慌てて砲撃を撃ち、それはモルモットの胴体を貫通した。

 そんな事は解っている。だがそれで良い。咄嗟にそれしか出来なかったのが重要だ。

 最初の突進には攻撃で対応した、二体目も同じくだ。なら三体目もそうすると思ったぞ。


「消えなっ・・・!?」


 今度のモルモットは霧散しない。俺がさせていない。

 打ち抜けば霧散すると思っただろう。残念ながらそうはならんぞ。

 勿論致命傷を喰らえば霧散するが、致命でなくとも霧散させていたのもわざとだ。


 この距離であれば、あの位置であれば、眉間ではなく胴を撃つと思っていた。

 胴体なら死にはしない。少なくとも即死では無い。即死でないならまだ動ける。

 取りつく為に突進の距離を取らせていたのも、全てこの為の布石だ。


 お前なら確かめると思っていたからな。一番効率の良い対処法を。

 既に効果の有った対処を、的確にやると信じていたぞ。


「ぐうっ!?」


 モルモットの一撃が、今度こそ完全に入った。

 膨大な魔力を纏った魔獣の一撃が、女王を地面へと叩きつける。

 単純な質量で考えても相当な威力で、そこに魔力の攻撃力が上乗せだ。


 流石に空で踏ん張る様な事は出来ないらしく、凄まじい勢いで地面に激突した。


「クソがあっ!」


 だが女王は即座に立ち上がる。多少損傷は有るだろうが、そんな事に構ってはいられない。


 この状況が不味い事は女王も解っている。あの水晶を持つなら解っているはずだ。

 もし水晶に食われた者達の記憶が残ると言うなら、小娘の記憶もあるはず。

 俺の一撃をアッサリ食らったとはいえ、その瞬間の記憶は残っていておかしくない。


 ならば、俺が小娘を殺した時と同じ様に、全力で踏み込んで来る事も解っている。


「―———」


 モルモットの一撃が当たると確信した時点で、即座に出来る限界強化を済ませている。

 そこから魔力も爆発させて踏み込み、女王が立ち上がる前に懐に潜り込めた。

 もう拳が届く距離だ。踏み込んで全力で殴れる距離だ。俺の得意距離だぞ。


「ちっ!」


 出来る限り早く立ちあがった女王は、だがしかし空には飛び立てない。

 上にはモルモットが居る。落ちてきている。横への移動は躱せるかは怪しい。

 ならば出来る事は全力の防御か、全力の攻撃かのどちらかだろう。


 そうして女王が選んだのは防御だ。全力で魔力を纏って耐える方を選んだ。

 正直に言えば多少博打ではあったが、こちらも防御に徹すると踏んでの突貫だった。

 コイツは砲撃を全力で打つ際、防御が若干疎かになる。


 アレはやりたくてやっているのではなく、力の配分の加減なんだろう。

 そしてこの距離で砲撃を打てば、良くて合いうち、最悪は自分だけあっさり死ぬ。

 ならば防御を選ぶだろう。この女ならば、戦う事に真剣な彼女ならば。


 生き残って戦闘を継続する為に、生存率の高い選択をすると信じていたぞ!


「―————っ!!」


 そうしてやっと、初撃の仕返しを、全力でぶち込んだ。

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