第1526話、たいくつなので

「・・・遅いな」

『遅いねー。退屈だしキノコさがそっか』

「勝手に探してろ」

『任せて! 美味しいの探すね!』


 頼んでない。


「ネズミから逃げたい一心で先に来たが、よく考えたらアイツ等が移動の間が退屈だな。それにここに来るまで強化も保たないだろうし、気分が悪くて色々思考放棄してたな」


 女王は俺の身体強化で一時的に動ける様になっているに過ぎない。

 そして身体強化は本人が使うのでなければ、術者が離れると自然と切れる。

 ただ俺の魔力循環は普通と違うので、もしかするとここまで歩いて来れるかもしれんが。


「本人の体力を消耗して身体の性能を上げるのが、魔力循環の身体強化。ただ回復力も上がり、動かなければ息も整う。体力を使うと言っても、解り易い運動の為の体力ではなく、生命力と言った方が良いんだろうな。だから弱り切った病人や老人には死を早める、はずだ」


 俺が学んだ身体強化の理屈はこれだ。

 身体能力が上がる分、確実にその為に消耗するエネルギーがある。

 それに身体強化が切れた後に、結構な疲れが襲ってきているらしいしな。


 俺は自分の体の頑丈さが理由で、それが無いのだと思っていた。

 だが過去に弱り切っていた老人は回復し、今回も死の間際の老人を回復させた。

 前回は一時的に立てる様にさえできれば良い、と思っての行動ではあったんだがな。


 あの時も効くとは思っていたが、半分実験的な所が大きかった。

 そして今回は半ば確信を持って使い、やはり女王は立てるまでに回復した。

 なら何故俺の魔力循環は、彼らの身体を回復させるのか。


 魔力と一緒に、強化の為のエネルギーも流し込んでいる?

 現状解る範囲だと、それが一番可能性が高いか。

 とはいえ俺自身には消耗した感覚は殆ど無いがな。


「俺が馬鹿みたいに食えるのも、エネルギーの溜め込み何だとは思うが・・・恐らく俺は消耗速度が遅いんだろうな、身体能力の割に。だから一回思いきり食えば、暫く人並みでも問題無い」


 勿論戦闘をすればその限りではないが、常にバカ食いをする必要は無い。

 護衛の仕事をしてる時がそうだった。移動の最中は殆ど食っていない。

 魔力の回復力の高さといい、俺の体は色々と効率が良いのだろう。


「いや、バカ食いしている時点で、効率の良さには疑問があるか」


 大量のエネルギーが必要になる時点で、効率が良いかは疑問が残る所だ。

 勿論相応の能力がある訳で、この体になってから消耗した感覚は殆ど無い。

 無理をしている時以外は疲れないし、魔力切れにだってなった事は無い。


 そう考えればやはり効率は悪くないし、大量のエネルギーを抱え続けられるのだろう。

 だから他者にエネルギーの譲渡をしていても、全く気が付けていないのだろうか。

 それはそれで問題な気がするが・・・気が付けない程度な以上問題は無いのか?


「まあ、この仮説が正しいのかは解らんし、もしかしたら精霊の力かもしれんが」

『今兄の事呼んだ!?』

「呼んでない。キノコ探してろ」

「わがった!」


 思考の邪魔をされるのが嫌で、反射的に答えていた。まあ良いか。実際呼んでない。


「シオが若干俺より燃費が悪いのも、出力が俺と違って回復力を上回る辺りが要因か?」


 シオは基本的に常に何かしら食っている。移動の合間合間で食わないと保たない。

 戦闘をしていなくてもだ。常に軽くは食わないと、空腹になって来る。

 それでも間食さえしていれば、常にバカ食いする必要は無い。


 とはいえ俺もシオも、何処かで一回思いきり食いたくなるんだが。


「ヨイチの燃費の悪さは・・・ああ、そうか。やはり精霊の力の可能性も大きそうだな」

『今度こそ兄の事呼んだ!?』

「呼んでない。キノコ探してろ」

『わがった!』


 ヨイチは俺達以上に食わねば体を保てない。抑えて食うにしてもそこそこ食う。

 そして俺とシオとヨイチの違いがどこにあるかと言えば、やはり精霊だろう。

 精霊の力を体内に有していて、魔力を使う時は多少無意識に使っているはずだ。


 となれば魔力循環にそういった効果があってもおかしくはない、か?


「なら、今のヨイチも多少は効果が有るのか? 今は精霊の魔力が少しは宿っている訳だし」

『やっぱり今度こそ兄の事呼んだよね!?』

「呼んでない。キノコ探してろ」

『わがった!』


 所でアイツ何処まで行くんだ。今の声遥か彼方から聞こえたぞ。

 というか何でその距離で、俺の小さな呟きが拾えるんだ。気持ち悪い。

 しかし暇だから考察してみたが、だからと言ってどうという事も無いな。


 解ったのは、俺の魔力循環は弱り切った病人にも効く、という確信だけだ。

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