第1182話、おねーちゃんだから

 ヨイチから自分の考えを聞かされ、夕食が出来た所でその話をシオにした。

 別に隠す様な話では無いし、コイツへの警戒は元から伝えていたからな。

 だがヨイチが突然しっかり話し出した事で、シオがどう思うかは解らない。


「う? ヨイチ、もう、しゃべってたよ?」

「いや、確かに言葉は発していたが・・・」


 だがシオの中では『すでにヨイチは会話していた』という事になっていた。

 俺の様に違和感を持つ事も無く、喋れて当然という反応だ。

 こういう所が俺とシオで印象の変わる所なんだろうな。


 ただシオは解って無い様で解っている事が有る。

 なのでその言葉がどこまでの意味か、正直測りかねる所があった。

 が、別に詳しく問いただす必要もないかと思い、それ以上聞いていない。


 シオがどう思うがシオの自由だ。俺が未だにヨイチへの警戒を解かないとの同じでな。


「しお、ねーちゃ、よいち、いっしょ、いい?」

「もちろん。シオは、おねーちゃんだからね!」


 宣言と共にバンッと力強く胸を叩き、力を入れすぎたのかゲホッとむせるシオ。

 楽しく走ってる時もそうだが、シオはテンションが上がると加減を忘れるよな。

 勿論シオがむせる程の力なので、衝撃音が村にまで響き渡り若干騒ぎになった。


 具体的には村の若い衆が、農具片手に慌てて出て来る事態に。

 更には村長も出てきており、最悪に備えて女子供の避難準備の指示も出していた。


「ごめんなさい・・・」

「いえいえ、お気になさらず。でも次は気を付けて下さると助かります」


 しょぼんとしながら謝るシオに、村長はそんな風に言ってくれたが。

 村的には商隊の客人という事で、余り咎められる事は無かった。

 この小さな村の為にやって来てくれる商隊への感謝は大きいらしい。


 後は子供のやった事と、村の女達が笑って許してくれたのも大きいか。

 まあ、男共が怖がって罰を求められなかったという点もある気がするが。

 原因を信じなかった男共に、シオが木を殴る事で証明してしまったからな。


「あう・・・シオ、おねーちゃんなのに、かっこわるい」

『妹の妹は可愛いから良いんだよ?』

『ええ、愛しの娘は可愛らしいわ』


 精霊共、それは一切慰めになって無いぞ。解ってないと思うが。

 しかし格好悪いか。シオの中で『姉』とはどうなっているのか。


「ふふっ、シオちゃん、ミクちゃんみたいになりたいって言ってたもんね」

「うっ。みーちゃ、かっこいい。シオ、おねーちゃんだから、みーちゃみたいになるの」

『兄は!? 兄は格好良くない!? 格好良さを求めるなら兄では!?』


 ・・・俺か。いやまあ、確かに姉ではあるが、姉らしい事は何もしてないぞ。

 恰好良いかと聞かれたら、俺は結構な無様をシオの前で見せている。

 何よりシオと違ってかなり厳しい。シオがヨイチに見せる態度とは違い過ぎる。


「うーん、シオちゃんとミクちゃんは、多分違うお姉ちゃんになった方が良いと思うけどなぁ」

「うっ、だいじょうぶ、わかってる。シオ、みーちゃになれない。けど、なるの。にーちゃみたいにも、なりたい。みーちゃも、にーちゃも、シオのこと、だいじにしてくれるから」

『ふふふっ、やはり兄は偉大・・・! いっぱい見習って良いよ!』


 俺とは違うという発言の意図に、ああならないで欲しいと言う感情が見えた気がした。

 まあ突っ込まないでおいてやるし、その気持ちは俺も解るが。

 俺とてシオが精霊の様になるのは御免だ。絶対にやめて欲しい。


 後魚は呼ばれてないのに、何故誇らしげに無言で頷いているのか。

 お前は絶対にシオの理想から一番遠い所に居るからな。


「だからね、ヨイチ」

「きゅ?」


 そこでシオはヨイチに声をかけ、ヨイチは小首を傾げながら続く言葉を待つ。


「みーちゃにも、にーちゃにも、できないこと、シオがする。シオがしてあげるから。ヨイチはおとうとだよ。だれがなんていっても、シオのおとうと。だから、まもってあげる」

「きゅ・・・きゅぅ」


 優しい笑みで頭を撫でるシオは、まるですべてを解っていたかの様だ。

 態々騙していた事など言わずとも、それも解って弟として面倒を見ていると。

 俺や精霊が信用できずに警戒している事も、何もかも全て解って。


 ヨイチもそれを感じたのか、目を見開いて驚いている。


「シオ、おねーちゃんだからね。おねーちゃんに、なるから。だいじょうぶだよ」


 ・・・もしかして俺達の中で、一番大人なのはシオなんじゃないだろうか。

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